ホテルでモノは売れるのか

今月のCasa BRUTUSの特集が「LIFESTYLE HOTE」ということで、早速読んでみました。

まだまだ知らないユニークな宿がたくさんあることに思いを馳せつつ、メディアとしてのホテルが盛り上がってきていることを改めて感じる特集でした。

中でも、小売の人間として気になったのが「STAY&BUY」というまとめ。

以前から店舗の進化系としてホテルというかたちがありえるのではないかと考えていたので、すでに実現しているホテルがあることに感動と驚きを覚えました。

紹介されていた3つのホテルはどれもセレクトショップで、まさに多種多様な商品を扱う業態だからこそできるこだわりの空間。

これからショップやブランドがホテルをプロデュースする流れは加速していくだろうと確信しました。

ただ、一方で『本当にホテルでモノは売れるのか』という疑問も私の中で生まれました。

モノよりコトと言われる時代とはいえ、体験してよさを感じたからすぐに買おう!と思うほど人の購買行動は単純ではありません。

『泊まる』という体験から『買う』へと一足飛びに向かうわけではなく、価格に納得できるかどうかや自宅において馴染むかどうかなど、買うまでの間には様々なチェックポイントがあります。

そして世界観を好きになることがそのまま購買につながるわけではないということも意識しておかねばなりません。

なぜならば世界観が確立されるほど非日常化し、日常使うものとして身近に置いておくよりも、その世界観を味わいたかったら完璧に作られた世界に行けばいいという発想にいたることも往々にしてあるからです。

あくまでメディアとして知ってもらう・興味を持ってもらうことに主眼を置くのか、最終的に売上を作る・伸ばすための装置として使うのかによって、ホテルの設計は大きく変わるはずというのが私の今の考えです。

「STAY&BUY」で紹介されていた3つのホテルはおそらくすべて前者の意味合いが強いため、ブランドへの愛を深めいいものと出会ってもらうという目的に対して素晴らしい設計がなされていると思います。

そして今後しばらくは、ブランドが作るホテルは意識的にせよ無意識的にせよ、ブランディングを主目的にしたものがほとんどになるはずです。

私はブランディングのために作られたホテルが飽和した先にあるのは、『どうやって買ってもらうか』という店舗の強化版としての場づくりなのではないかと思っていて、体験と購買を結びつけるにはホテルの中でどういった顧客体験を作ればいいのだろうということをこの特集を読みながらずっと考えていました。

一般的には、店舗に訪れた人はその場で購買の意思決定をしたり、即購入しないまでもAIDMAモデルでいうM(=Memory)に至ることが多いのではないかと思います。

しかし、ホテルに宿泊しただけではA(=Attention)にすら至らないモノが多いと私は思っています。

なぜならば、体験としてあまりにシームレスすぎるとそれを買う、所有するということに発想が至らないからです。

私たちが店舗に入るときというのは、そこが何の店なのかを無意識に察知し、ひとつひとつのものを『商品』として見ています。

一方でホテルの場合、マグカップやタオル、シャンプーなどはすでに用意されているものであり、体験の『付属品』でしかありません。

もちろん時々は『これすごくいい!どこのだろう!?』と思って調べることもあるでしょうが、20時間近くを過ごしてもらった上で1人に1個売れるか売れないかなのであれば、店舗という意味では非効率な状態です。

しかもホテルでは見るもの触るものすべてが非日常であり、刺激が多すぎる上に普段の生活の中で使うイメージがわきづらくなってしまうという点も問題として挙げられます。

食事をしていてもシャワーを浴びていてもベッドに入っても、常に『何を買おうか』と考えるほど、私たちはホテルで過ごすことと買い物を密接に結び付けたりしないのではないでしょうか。

では、店舗とホテルの間にある違いは何なのか。

私はそのひとつが『解説してくれるスペシャリストとの接触』ではないかと思います。

販売員に声をかけられたくないという人も多いとは思いますが、それは売ろうとしてくるからこその拒絶反応に他なりません。

これだけ選択肢が溢れている今、その人にあったものを選んでくれるスペシャリストはAIの力も含め必要不可欠になっていくはずです。

そしてもうひとつ、店舗とホテルの大きな違いとして挙げられるのが『選択権の有無』です。

例えば、前に挙げた「STAY&BUY」の3つのホテルは、すべてショップが厳選してセレクトした商品で構成されています。

ブランディングという意味では大正解ですが、使う側が自分の意思で選んでいないのでそれが本当に『自分にとって』ベストなのかの判断はしづらくなってしまいます。

この2つの点を補うために、もし私が『買い物』をベースにホテルを設計するならば、部屋には最低限の家具のみを配置してあとはすべて有料で買う/借りる仕組みにするだろうと思います。

例えば寝具ひとつとっても、合う枕は人それぞれに異なります。

常に寝具アドバイザーが常駐し、ブランドや素材を説明してその人にベストな枕を選んでもらい、一晩体験することができれば、翌日その枕を『買いたい』と考える人の割合はグッと高まるのではないでしょうか。

また、シャンプーや洗顔なども備え付けではなく好きなものを選べるようにし、百貨店のコスメカウンターのように肌診断をした上でぴったりのアイテムのサンプルをもらえたら、帰り際にフルボトルを買って帰りたい人が増えるはずです。

さらにチェックアウトの際には自分用にアレンジされた『体験したものリスト』を渡してもらえたら、家に帰ってから比較検討することもできます。

ちなみにアメニティを置かないと自宅から持ってくる人も増えてしまう気がするので、宿泊料金の中で3,000円分は好きに買ったり借りたりでき、+αのお金を払えばグレードアップも可能、といった設計にできるとさらによいのではないかと思います。

こうした体験設計は、世界観に浸るというよりも『試泊』のようなイメージに近いかもしれません。

普段の生活をよりよくするためのヒントを求めて人が訪れる、日常の延長線上にあるホテル。

それは世界観にどっぷり浸るホテルとはまた別の役割をもつものではないかと思います。

一方で、世界観を売りにしたホテルはそこに泊まること自体に価値があるため、宿泊費という入場料をしっかりとり、それ単体で成り立つくらい成長していくべきだと私は考えています。

(↓店舗の入場料の話は下記の記事でも話しました)

体験価値を最大化させるためのモノと、ほしいモノと出会うための体験。

この似て非なる2つの概念を混同せず、何を目的にするかを明確にすることこそが、店舗というメディアを作る上で重要なのではないかと思います。

★noteの記事にする前のネタを、Twitterでつぶやいたりしています。

今日のおまけは、上記の話をふまえた上で『MUJI HOTELはどうだろうね?』という話。

果たしてMUJI HOTELで人はモノを買うのか?私の考えをまとめました。

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最所あさみ

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最所あさみ

余談的小売文化論

役にたつかどうかわからない余談のような話を中心に書いていきます。 主なトピックは小売や消費、店舗、そして文化について。 (Photo by tomoko morishige)
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