油膜

つい最近まで、不眠に伴う睡眠障害に悩まされていた。

眠れたら眠れたで、殆どの確率で悪夢を見る。
レム睡眠というものが、ただの夢が、これ程まで心身にダメージを与えるのかという事を身を持って実感した。

うなされた後、半覚醒で金縛りのような状態になり、徐々に痙攣が大きくなってゆくと、激しい動悸と共にやっと目が覚める。
そしてちゃんと呼吸が出来ていることに安堵する。そんな事が屡々だった。

眠気はまだ続いている。
今また目を閉じればあの続きを見ることを何故か確信している私は、無理やり体を起こし、顔を洗い、スマホに手を伸ばす。

そうして1〜2時間を過ごし、さっきまでの悪夢と現実の境界を引く事が出来たと感じられたら、もう一度眠る。いや、もう眠れない。
そんな生活を数年続けていた。

ところが最近、悪夢をめっきり見なくなった。
睡眠薬を常飲しだした事により、より深く長く眠れるようになったからである。

体の疲れは然程残らなくなり、仕事中に眠くなることもほぼ無くなった。
あくまで以前に比べての話ではあるが。
金縛りや動悸は、その一切が嘘のようになくなった。

ただ、暫くして気が付いたことがある。
それからというもの、楽しいことを楽しいとあまり感じられなくなったのだ。

リモコンのボタンひとつ押すだけで面白い映画は見られるし、外に出ればひたすら駄話が出来る友人が居る。美味い酒もある。
沢山でなくても、現実はある程度の幸福感を与えてくれる。

思えば、それらをより実感させてくれたのは他でもない、あの数年だったように思う。

悪夢による影が、現実にあるささやかな光をより明るくこの目に映してくれていたのだった。

もちろんあの状況に戻りたいとは思わない。

それでも時々思う。

ちょっとだけ嫌な夢見られる睡眠薬とかないんかなって。
定期落とす夢とか、そんくらいの。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?