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ブラームスのピアノ曲

表題を書いて思うのは、いったいどれほどの人が、彼のピアノ曲はこれだという代表作品の共通認識を持つだろう。

彼の音楽の人生の初めはピアノから始まり、幼き頃からその手ほどきを受けていた。もちろん10代のころも作曲手法についても学んではいたが、その間もピアノが彼の主たる楽器であり、ピアノソナタなどは若いころから作曲していた。
ただ、彼は、シューマンに19世紀の音楽の新しい道を紹介され、やがてバッハ、ベートーヴェンに次ぐドイツ3大Bといわれるような作曲家になるに従い、特に交響曲第1番を作曲するまでは、それまでへの布石たる曲を作っていくようになり、ピアノ曲への比重は必然的に軽くなる。ただ、もちろん愛くるしいワルツ集や連弾曲などはある程度の要請の中で作られ、それも非常にいとおしい作品となり、一部の人ではそれが想起されるかもしれない。
もちろん、ピアノという楽器そのものの重要性は高く、彼の残した室内楽曲や歌曲では常にピアノ響きがある。
だが、ピアノ曲という、初期のピアノ・ソナタ3曲、それからヘンデルやパガニーニの主題を用いた変奏曲、それから少し飛んで、中後期くらいにちょっとしたラプソディやバラッド、そして、最後のピアノ曲集(いくつかの小品集)となる。若いころからからピアノが得意だった彼がピアノ・ソナタといったフォーマットへのこだわりも薄く、ピアノをメインに据えた曲が少ないのは、本人の俺が俺がと前にでるような性格でもなかったせいだろうか、、いや、そうではなく、ピアノ曲というのは、バッハに始まり、古典派によるソナタの完成、形式にとらわれない芸術的主題(シューマンやリスト)や小品でありながらも夜想曲、即興曲、幻想曲などのフォーマットの完成(シューベルトやショパン)によるものなど前期ロマン派による追求などもあり、彼はそこに新たなそして高度な芸術性のピアノ作品のフォーマットを作るのを初期のうちに取り組んだが、それは放棄してしまったのだろう。
とはいえ、彼のピアノ小品には厳密ながらも対位法書法かつ、調性の中で煌めくメロディが響く楽曲となっている。

それでも、ブラームスのピアノ曲が好きというのは、クラシック、特にピアノ曲が好きな方でもさほど多くはないだろうし、特に弾くプロにとってみたら、そういう意識はもっと少ないだろう。アマチュアでも、そう多くがピアノを習う中でブラームスのピアノ曲を通るというのはほぼほぼ聞いたことがない。もちろんワルツなどはあるかも知れないが。
けれどそういう認識も、グレン・グールドによる「間奏曲集」で変わることになる。このアルバムが一つの定点的なものとなっているし、ブラームスのピアノ曲が好きというかたの半分くらいはこのアルバムから入っているのではないかと思う。

Glenn Gould Brahms Ten intermezzi

確かにこのアルバムは素敵な作品だ。若いグールドが晩年のブラームスの曲をここまで弾ききる、あのゴールドベルクやベートーヴェンの後期ピアノソナタを鮮やかに蘇らせている中で、と考えると、彼はやはりド一級のピアニストなんだろう。ただ、その間奏曲集は作品117を除いて、各小品の中の間奏曲集はグールドの意図の中で配置されている。
確かに、ブラームスが彼の人生を振り返り、憂愁や寂寞といった言い表せられる感情さえも越えて、そこにはブラームスの達した音楽的境地が演奏される。

でも、個人的にはバックハウスが50年代に録音した、この「ブラームス・ピアノ・リサイタル」が好きだ。バックハウスのベートーヴェンとは異なり、やはりグールドが弾いたようなブラームスの音楽的境地、ある種達観ともいえる演奏だ。だが、それはグールドの内奥を抉るようなものではなく、静かに寄り添い、そしてこれまでの人生を柔順して眺める。
そして、それはある意味、淡々としている、まさに無我ともいうべき演奏だ。だが決して禁欲的でもなく、そこにあるべくすべてをこの曲で言い表している。

でも、有名ところばかりでも、、という中でいくつか見つけたので、、。
まずは、Inger Sodergrenによるブラームスピアノ曲集。

スウェーデン出身の女流ピアニストで、彼女の演奏は上記の二人より、そのブラームスの内奥というよりは、作品として向き合い、ひたむきに演奏している。それは、透度が高く、ところどころアーティーキュレーションの強さが気になるところはあるが、水のように清らかだ。ただ、ブラームスというよりはややフランス流にメロディーが聞こえる節がある。もちろん、それでも清らかでひたむきであることには変わらないのだが。

つぎはDmitri Alexeevによるブラームスの間奏曲集

ロシア出身のピアニストだが、彼の演奏も作品への理解により、テンポやアーティーキュレーションを意識しているが、ややピアニッシモやピアノに寄っているような演奏だ。もちろんそれはそれで、晩年たる境地を枯葉舞うような秋に寄せているのかもしれないのだが、、いかんせん聞こえづらい部分もある。逆に高音は透度高く響く瞬間もあり、それはそれでいいのだが。

最後に、ですが、この曲を解説している動画があったので、載せておきますね。この方の説明、個人的には大好きです。

あと、この曲というか、ブラームスの後期ピアノ曲集って、作曲された時期もあって、秋深まるころに、聴くとすごく染みるよねと言われてますが、自分は専らこの晩夏の時期に、秋が恋しくて聴きすぎてしまい、すっかり秋には聞かなくなっちゃうんですよね、、だからいつも9月のまだ暑さが残る中で、汗を少しかきつつこの曲を聴き、月を眺めています。


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