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ファイナンス(企業財務)の基本㉜:企業活動の現場でよく聞く「費用対効果」についてまとめてみた

企業で活動する中で「XXを導入(購入)したいです!」というと、上位者から「その費用対効果は?」と聞かれることは多いかなと思います。そこで、この記事では「費用対効果とは何か?」「費用対効果の算出方法は?」について、まとめてみようと思います。
※ もちろん「全部こうやって考えれば良い」といったものはないので、実際には個別ケースについて考える必要があります

費用対効果とは?

まず、「費用対効果とは何か?」ということをネットで検索してみると、下記のような情報が出てきます。

費用対効果とは何か
費用対効果とは、文字どおり「かけた費用に対しての効果」を意味する言葉です。
費用は通常お金として換算されますので、比較する効果もお金として換算する必要があります。

https://www.sprocket.bz/blog/20210427.htmより引用

ちなみに、似たような言葉に「投資対効果」という言葉があるので、こちらについてもネットで調べてみると、下記のような情報が出てきます。

投資対効果とは何か
投資対効果は、長期的な視野での投資でどれだけの効果が出たかを示します。投資収益率、投資利益率と呼ばれることもあります。目的・効果は長期的なもので、費用対効果に比べると広く漠然としたものとなります。

https://www.himo-toku.com/business/1781/より引用

上記の「費用対効果」と「投資対効果」を見比べると、「投資対効果」はより長期(未来)に対する「効果」を指すと考えることができます。

すなわち、使うお金に対して、その効果が出るのはある程度先(さらに、未来の事柄であるため、その効果には不確実性がある)である場合は「投資対効果」という言葉を使うのが適切かなと思います。

一方。目先の効果がある程度明確なものに対して、そのコスパ的な事柄を指すときは「費用対効果」という言葉を使うのが適切かなと思います(例えば、どの電池を買うか決めるときに、エネルギー/値段を比較するイメージ)。

そのため、企業活動において「どうやって算出するのが良いのかな?」と悩むことが多いのは、正確には「投資対効果」を指す場合が多いと思います。ただし、世の中には「費用対効果≒投資対効果」という考え方をする場合もあるみたいなので、この記事では「費用対効果≒投資対効果」と考えて、先に進めていきます。

費用対効果の算出方法は?

費用対効果の算出方法には、レベル別にわけて、大きく3つあります。

レベル1:大体の感覚で押し切る方法
レベル2:InvestmentとReturnを定量化する方法(ROIの算出)
レベル3:InvestmentとReturnの定量化と、それを活用して適切判断する方法(NPV法)

企業活動で関係者に納得してもらいたいと思ったら、最低でもレベル2は必要になるかなと思います。(ただし、直接の上司承認のみで購入できるちょっとしたものなどは、レベル1で通っているケースも、ままあるかもしれません)

大体の感覚で押し切る方法

この方法を見ると「え・・・」と思う人もいるかもしれませんが、実際のところ、企業活動でもこの方法を使っているケースは散見されます。

例えば、「このシステムを導入すると、残業が十分減るので、導入したいです」「これを早く導入すると、将来的に自社の競争優位性に繋がります」といった感じです。

この方法で話が通るかどうかは、「導入金額と承認ルート次第」かもしれません(もちろん、現実的にはその提案者の「社内での信頼」も重要な要素です)。しかしながら、承認者の立場からすると「その意思決定に対して、他者に説明できる状態にしておきたい」という心理が働くため、とりあえず「費用対効果は?」という問いを投げかけるケースも増えているのかなという印象はあります。

InvestmentとReturnを定量化する方法(ROIの算出)

費用対効果(≒投資対効果)というと、ざっくり、ROIくらいは考える人が多いかもしれません。この方法は、「XX円」のお金を使うことに対して「XX時間の残業時間が削減できます(=XX円の人件費削減になります)」といった形で費用対効果を定量化するイメージです。

もう少し、具体的に考えてみます。
例えば、1000万円のシステムを導入したいとします(例をシンプルにするために、ランニングコストなどは考えずに、導入費用のみを考えます)。

このとき、そのシステムによって、2年後には合計1100万円のコストダウン(残業時間削減など)ができるとすると、ROI = 1100万円 / 1000万円 = 110%となります。

そして、このROIを以て「約2年で投資回収できるので、このシステムを導入したいです」「投資に比べて十分効果があるので、このシステムを導入したいです」という話をするわけです。

しかし、この方法では下記2点の疑問が生じます。

[1] お金の時間的価値が考慮されていない
     
(お金の時間的価値の詳細は、下記に書きました)

[2] 実際のところ、Returnを算出するのはそんなに簡単ではない

上記2点の疑問を”少しだけ”解消するのが、次に紹介するNPV法です。
また、ここで”少しだけ”と書いたのは、NPV法を使っても、上記疑問を完全には解消できないためです。

特に[2]については、「こうすれば良い」という解決方法があるわけではありません。

例えば、先ほどの残業時間削減のような「投資によるコストダウン」であれば、何かしらの定量化はしやすいかもしれませんが(下記の差額原価収益分析も使えたりします)、投資による「将来の売上増」を記述するのは、そう簡単ではありません

なぜならば、「将来、何が、いくらで、どれくらいの量売れるか」というのは、誰にもわからないためです(逆にこれがわかるような人がいたら、かなりの逸材です)。

しかし、そこで「そんなのわかりません」では、ビジネスマンとしてはイマイチです。そのため、「いくつかのシナリオを立てて、投資採算性を評価する(シナリオ分析)」もしくは「パラメータを何点か変動させて、幅を加味した議論をする(感度分析)」を行う場合が多いかなと思います。(真実かどうかは不明であっても、関係者が納得できる解を作るイメージです)

そして、上記を実施する場合でもよく使われるのが、次に紹介するNPV法です。

InvestmentとReturnの定量化と、それを活用して適切判断する方法(NPV法)

NPV法の考え方(流れ)は、下記となります。

  1. 投資案からのキャッシュフローを予測する

  2. キャッシュフローの現在価値を求める

  3. NPVを計算する(初期投資額を引く)

  4. 投資判断する。NPV>0:投資実行、NPV < 0:投資見送り

(下記の記事にも書いています)

NPV法のベースとなるのはDCF法であるため、下記の3点を設定することができれば、NPV法による投資採算性評価は可能です。

  1. 投資額と将来キャッシュフロー

  2. 期間

  3. 割引率

会社に依るのかもしれませんが、「期間(どのくらいの期間で、その投資を評価するか)」と「割引率(その投資に対して、どのくらいのリスクを見込むか)」については、事業部門によって「この数値を使って投資採算性評価しなさい」といったことが決まっていることが多かなと思います。

そのため、実担当者で頭を使うのは「将来キャッシュフローをどう描くか」という点です。前述のように、「コストダウン」であればまだ描きやすいですが、「売上増」となると、なかなかに難しいです。「売上増」を考える場合に、いくつか、役に立つかもしれない視点を参考程度ですが書いてみます。

単価の設定
いくら先進的企業であっても「投資によって、世の中に全くないもの(類似したものもない)を作って、売る」というケースは、そんなにないかなと思います。
すなわち、「ベンチマークとなる類似品」は、存在するケースが多いと思います。そのため、一旦はその「ベンチマークとなる類似品」をベースの単価として、いくつかのシナリオで単価を変動させて考えてみるのが良いかもしれません。
もしくは、原価試算がある程度可能なのであれば、「その原価に対してXX%の利益をのせる」という形で、単価を設定してみるケースも多いかなと思います。

販売量の設定
販売量は、いくつかのシナリオで描くのが必須になるかなと思います。
「ベンチマークとなる類似品」がある場合は、その類似品から自社製品に乗り換えされる割合などが、見積もりを描きやすい目安になるかもしれません。
また、「将来の伸び」という観点でいうと、「業界の成長予測」のような情報はレポートがあったりする(レポート情報の納得性は確認が必要)ので、「最低限、業界の平均的な成長率と同等以上の成長が想定されます」という点くらいは反映させて試算したいかなと、個人的には思います。

これを書いていて思ったのは、(少し話は脱線しますが)「やはり企業活動においては、自分の頭で考えて、自分を含む関係者が納得できる解を生み出す力が大切だな」ということです。

ここをサボって「思考停止してしまう状態」もしくは「誰かに頼って、丸投げしてしまう状態」では、おそらく、何をやってもビジネスの現場ではうまくいかないだろうなと思いました(自分自身も、精進していきたいです)。

以上です。




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