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【ウィキペディア】2023/11/26 北九州市立小倉南図書館 講演 (スライド詳細解説)

概要

このイベントでは、本年後半のプレゼンテーションの完成形に近い形のスライドを使用したため、noteで(著作権的にnoteには載せられないものを除き)できるだけ細かく解説し、どんな思惑で、何を伝えようとしているのかということまで書きました。

枚数が多く、話題があちこちに飛びつつも収束していく(と本人は思っている)バージョンなので、備忘も兼ねて記しました。

イベント前


この秋の福岡ツアーの最終は、2017年の「ふくちのち」でのイベントでご一緒したKさんのコーディネートによる、小倉南図書館での講演です。

「ふくちのち」の時のお知らせページ

今回のお知らせ

結果的には、講演というこちらが一方的に話をするというイベントにもかかわらず、自分自身でも非常に手ごたえを感じ、また参加者の皆さんの反応や感想、図書館の方々の感想など含め、とても充実した良いイベントになったと思います。

開催日時:11月26日(日)10時~12時
開催場所:小倉南図書館3階セミナー室
対  象:一般(中学生以上)
参加人数:21名
講師: 海 獺

会場は9:30。早めに来てくださる方もたくさんいたので「そんなに堅苦しいイベントではないんですよ」の気持ちを込めて「早く来てくださった方々に時間まで雑談」として、ウィキペディアのトップページの説明をゆるゆると始めました。

https://w.wiki/6rBz よりスクリーンショット

選り抜き記事のところに表示されているのは、ウィキペディア日本語版の中でも0.15%しかない「秀逸な記事」1本とその下の段に「良質な記事」3本がランダム表示されている。右の「今日の一枚」も非常に高品質な画像が毎日ランダム表示されている。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/14/Alcedo_atthis_eating_a_tadpole.jpg   わーすごい。

秀逸・良質な記事はユーザー同士の評価ではあるが、読み物としても面白いものが多いので、調べものの目的がない時にでも楽しめる。
・・・というような、講演本編では説明しないことをのんびりとお話ししました。

主催のKさんは

ウィキペディアを前面にすると集客が心配で、難易度も高い。でもウィキペディアのことも必要だし、ゆくゆくはここでもウィキペディアタウンを開催して、細く長く地域情報の編集をできるようにしたい

KさんのFacebookより

と考えていたようです。
ウィキペディアに携わっている人がただ話をするというイベントで集められるのは、私のネームバリューでは到底多くを望めません。主催者としてもいろいろ悩んだようです。

スライド内容

自己紹介

自己紹介は、本当に最小限にしたいという気持ちが以前からあります。
私自身のことはどうでもいいんです。ウィキペディアについての理解が広がれば/深まればという目的で活動しているので。
それでもやはり何かしらの裏打ちというか、こういうことをやってきた人だよということがあるほうが、主催者側が助かるわけです。
なので、以前管理者を五年くらいやっていたことと、少しだけテレビとかにも出てウィキペディアのことを説明している人だよ。という話をしました。

今日のお話

「知識を得るのは何のため」
「生成AI・ディープフェイク」
を落語でいうマクラ的に配して
「情報リテラシー」
「ウィキペディア」
の話をします。

知識を得るのは何のため

このツイートを引用しました。
「ギャラドス」のところを隠してクイズのようにしました。
このツイートを読み上げている時に、反応が良さげな参加者の方をロックオンして、回答していただく流れにしました。
私の思惑通りその方は「ギャラドス」と答えてくださいました。
ツイート、3歳、おそらくお母さん、鯉のぼり、ポケモンなどの要素があり、イベント前の雑談トークから、最初に取り上げることでイベントの空気が重たいものではないんだよということも示すためでもあります。

さらにポケモンを知らない参加者に向けて上記サイトを引用し、内容を補足しました。私自身もポケモンをやったことがなく、よくわかっていませんが、コイキングのタイプが「みず」だけだったのが、ギャラドスになると「ひこう」が加わることも説明しました。

これにより、お母さんと息子さんがひとつの疑問から一緒に多くの知識を広げていくことで「知識が増えると楽しいことが増える」という側面があることを説明しました。

生成AI

2023年の5月と翌月6月に、私はChatGPTに同じ質問をしました。
回答の変化の違いを見ていただきました。

生成AIの特徴をざっと説明。

特に「あまり楽しい話ではないですが」と前置きして、車が普及する過程では、非常に多くの交通事故の犠牲者がいたことを例に挙げ、生成AIはいろいろな問題がありながらも、普及していくだろうと話しました。

ディープフェイクとAI

こちらのツイートを引用

同じかたによるこちらも動画も紹介

http://cedro3.com/wp-content/uploads/2022/01/yui_angelina_result.mp4

ニュース映像より、動画を引用

ディープフェイクと生成AIの組み合わせ

このほか、Facebookの広告として表示された笑福亭鶴瓶氏のフェイクニュースなどの実例を紹介し、技術的にはこのような動画や画像が表示されていても、珍しくない時代となっていること。見破るのは困難なものもあること。実在しない人から「友達になってください」と音声と動画付きで誘われることもありうることなどを説明。

これらをマクラにして、情報リテラシーの話に入る。

情報リテラシー

情報を受け取るときの注意

「カレーの王子様」に表示されているアレルゲンの表をまず見てもらったうえで、アレルギー表示について「もし気づかずに食べてしまったら、具合が悪くなったり、死んでしまったりする」ということを強調。

道に落ちているパンを食べる人はほとんどいないと思いますし、それを他人に勧める人もほとんどいないはず。
なのにどうして、情報では出どころのわからない物でも自分の中に入れたり、他人に教えてしまうのだろう。

コナン君は原作マンガでは「真実はいつもひとつ」というセリフを一度しか言っておらず、それもセルフパロディっぽく言っているらしい
「真実は人の数だけある」は「ミステリと言う勿れ」の主人公 久能整くんが1巻で警察に向かって言うセリフである。
このふたつの対比は、話題として親しみやすくするためのもので「客観的事実」がひとつであり「現象から感情を引かないと事実は見えてこない」というタレントのあべこうじさんの名言を添えて、事実を意識していこうという話に。

客観的事実を得るために、様々な要素を紹介
1.(物理的)見る方向

2.(多角的視点)見る方向

https://mag.sendenkaigi.com/brain/201803/images/110_01.jpg

3.立場による観点の違い
このツイートに寄せられた、視点の違う反応

4.教育時期による常識の違い

5.表現と誘導

6.目に見えやすい数字

見せかけの数字が権威になる。
クリックしてもらうための見出しがトップに出る
ニュースメディアはクリックされることで収入を得る
大事なニュースでもクリックされにくくなる

情報の重要性よりも人々の関心が経済的価値を持つ時代
=アテンション・エコノミー

情報をとらえるとき、正しい/正しくないというようなものばかりではないので、「どうして自分はこの情報を信じるのか」を自問することが重要。

情報を発信するときの注意

映画「ローマの休日」の現代は「Roman Holiday」
「他人を苦しめて得られる楽しみ」という意味もある。
ローマ時代の身分の高いものたちは奴隷の殺し合いを見世物として楽しんでいた・・・という意味かららしい。

人には「他人の不幸を楽しむ」という性質が(シャーデンフロイデ)もともと多少なりともあり、例えば乱暴な運転をしている車を見ると「事故っちゃえばいいのに」のような感情が浮かぶことがある(もちろんケガしない程度の)。

これを前提として

誹謗中傷だと自分では自覚していなくても、あるいはX(Twitter)の見解では対処されなくても、罪に問われるケースはある。

著作権侵害。自分の著作ではない画像をアップロードしたり、好きな曲の歌詞を丸々載せたりする行為は、無自覚に行われがち。
「著作権侵害の罰則は、道ばたで大麻を売るよりも重罪」

2019年、日本で起こったストーカーに関する犯罪は、アイドル活動をしていた女性の自撮りの、瞳に映った景色から場所を特定したという手口で大きな衝撃を与えた。

2020年には、ポテトチップやポップコーンなどのアルミ製の袋に反射した光から、周囲の様子を復元する実験が成功していることから

「外の景色に気を遣っていれば場所を特定されない」ということも一概には言えなくなった。

著名人のスキャンダルでは、交際相手だった側が個人的なやり取りをニュースソースとしてメディアに提供することで、暴かれるケースも多い。
SNSで公開する範囲を設定していても、信頼できると思っている人たちだけに限定していても、その人たちといつ仲たがいするかは誰にもわからない

自分が気を付けていても、スマホの操作を覚えて使うのが楽しくなっている若年層や高齢者が、リスクがある画像をアップしてしまうケースがある。
またSNSでは、善意の拡散によって、本来隠したいこと、例えばDV被害から逃れるために身を隠している人が加害者による「探しています」の人探し、ペット探しなどの手法で暴かれてしまうこともある。

ここまで、フェイク動画の技術、AIによる技術、ネットに個人情報が載るリスクを説明したうえで、ドイツテレコムによる動画を日本語字幕付きバージョンで見ていただいた。

これらを踏まえて「メディアの報道基準は時代に即しているのか」を考える

とても良いことをした、小学女児のニュースが2022年に報道された。
特定を避けるためにここでは詳細は書かない。
この報道は大手メディアによって現在でもYouTubeにアップされている。
女児の顔、名前を含め個人を特定するに十分な殆どの情報が確認できる。
YouTubeのコメントには女児の善行に関すること以外に、見た目に関するコメントが並ぶ。

児童の性被害事件では、加害者が被害者と顔見知りであるケースが7割以上というデータがある。
何度も見ているうちに衝動が募るということかもしれない
メディアやネットに個人情報があり、動画などがあるということは「顔見知り」を増やしていることに他ならない。

突き詰めると、「ネットに自分や他人のことを発信しない」という対処しかない。SNSをやらないという人の中には、このような理由をあげる人もいる。
基準としては自宅の玄関ドアに同じ情報を貼ってもいいと思える事柄だけが、ネットに公開できる情報となる。
悪名であれ、ちょっとした個人情報であれ、一度有名になってしまえば無名になることは不可能である、という観点からジェーン・スーさんの言葉を引用した。

有名になることが=リスクになる時代
2023年の紅白歌合戦には、素顔をさらさずに活動してるアーティストが3組出場する(MAN WITH A MISSION、Ado、すとぷり)

承認欲求から自らを晒していく行為が目立つ時代になっているが、もしかすると自信をさらしてく行為はもう時代遅れで、ネット社会においては管理された別人格での著名活動のほうが適しているのではないかとした。

このセクションでは、「ネットは危険」「SNSやめなくちゃ/やめさせなくちゃ」と思うのではなく、こういった問題を自身のコミュニティで話し合うための話題のひとつとしてほしいと伝えた。

休憩

ウィキペディア

オープンデータとしてのウィキペディア

2023年10月の月間ページビュー。
NHKの朝ドラの主人公のモデルと言われている人物記事について、実際の笠置シヅ子さんはどんな人だったのだろうと思い、ネットに情報を求め、ウィキペディア日本語版にたどり着いた人が、1日に述べ5万人弱いたということが示され、ウィキペディアの使われ方のひとつとして紹介。

ランキングの4位は何だろうと考えてもらいながら、ウィキペディアに関する基本情報を紹介。

クイズの正解の発表の後、ウィキペディアの信頼性について。

書籍との比較を説明し、

  • 誰でも編集できて

  • すぐに反映されて

  • 誰も査読しない

という特徴があるウィキペディアの記述は鵜呑みにしてはいけないということを説明。
他方で、古い情報の更新がされやすく、多くの善意によってよりよい百科事典にしようという活動が20年以上続いている場所であることを説明。

編集の三大方針

  • 独自研究は載せない

  • 中立的な観点

  • 検証可能性

について説明の後、検証可能性の方針で、ウィキペディアは記述そのものよりも記述についている出典によって信頼性を担保していることを説明。

このイベントは小倉南図書館で行われていることもあり、図書館とウィキペディアの親和性を強調。

基本は公刊されている書籍としたうえで、前半の情報リテラシーで話した
「正しいかどうかではなく信頼できる理由を常に意識する」こととつなげて解説。

出典付けデモ

出典の重要性をより理解していただくために、小倉南区にかつてあった「長野城 (豊前国)」のウィキペディア日本語版記事から

”城の周囲のほとんどを200以上の畝状竪堀で取り囲んでいるのが特徴で”

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E9%87%8E%E5%9F%8E_(%E8%B1%8A%E5%89%8D%E5%9B%BD)

という部分に出典がついていないことを示し、実際にその場で出典を付けてみた。
出典として使用した情報源は、小倉南図書館の領土資料コーナーに実際にあった「中村 修身『北九州・京築・田川の城』花乱社、2016年7月27日、53頁。ISBN 978-4905327592。」を使用し、図書館とウィキペディアの関連について強調したうえでのデモンストレーションを行った。

ウィキペディアでできること

資料的に重要な画像や、地域の特色がわかる画像をインスタグラムやブログにアップするよりも、ウィキペディアの記事に使うことによってより多くの人の目に留まることになることも説明した。

地域とウィキペディア

ネット上に情報がない、充実していない、などの要因があると、情報の受け手は有名ではない、重要なものではない、価値がない、存在していないなどの印象を持たれてしまうことがあるので、アクセスしやすいウィキペディアのような場所に地域情報を記録していくことにより、遠くの場所からでも地域のアピールができる。
特に若年層の情報を得ようとするプロセスは、深堀りが期待できないので、ウィキペディアの役割は大きい。

https://twitter.com/shunjyu999/status/1373841106442457091

2021年に登録された北九州市の国登録有形文化財が、維持が困難なことから2022年に正規の手続きを踏んで解体されていたと報道された。このイベントの前日、2023年11月25日の報道である。

ウィキペディア日本語版には「岩松家住宅」の記事はないので、今後記事を作成するにしても現地に行ってその姿を撮影することはできない。
過去に撮影された画像があったとしても、ウィキペディアで使用できるようなライセンスで提供されるかどうかわからない。

この例で「地域のことを調べ記録していくこと」の重要さを強調した。

ウィキペディアタウンについて

ウィキペディア編集イベントは、決まった形がない。
規模は2人からでもいいし、まち歩きがなくてもいい。
イベントの目的だけがあれば、ウィキペディアの編集を伴わないケースもありうる。
つまり、主催者それぞれの課題や目的に合わせてイベントをデザインでき、「ウィキペディアタウンを開催する」という目的が先に来ることは芳しくなく、あくまでも求める成果に合致することを考えたときにウィキペディアの編集という選択肢があるととらえるほうが、継続につながると説明した。

その理由として、成果物はどこからでもアクセスが可能で、確認ができることから、どのような形で行ってもイベントは「成功」に見えるため、内容についての振り返りが忘れられがちになることも説明した。

記事作成実例

北九州市若松区でよく知られている場所の記事をふたつ紹介した。
記事の説明をしたところで、実はこのふたつの記事は北九州学術研究都市のウィキペディアタウンで昨日作られた記事であることを明かした。

ランドマーク的な場所の記事がなかったこと。
編集経験がない参加者たちが一日で記事を作れるのは資料があり、その資料がある図書館、集める司書がいてからこそであること。
記事の作成を通して、地元のことを改めて調べ、関連する情報を知り、知識が広がること。
現地に行くことで、直接出典にはできないものの書くべき事柄のヒントが見つかること。

いろいろなメリットがあり、その上で記録した情報が誰かの役に立ち、知識が広がるメリットがある。

まとめ

最後に

スライドや配布物に、MicrosoftOfficeに含まれている「UD デジタル 教科書体」を使用していることと、理由を説明。
ディスレクシア(識字障害)のひとは人種にもよるが5%くらいいると言われており、20人に1人の割合だということがわかる。20人に1人ならばそれは「障害」というより「個性」であると思う。
このイベントには20人以上いるので割合としてはその「個性」がある人がいても不思議ではない。なので、人前で話をするときのスライドや配布物にはできるだけ「UD(ユニバーサルデザイン)」の表示があるフォントを使用している。

著名人の例を挙げ、それほど珍しいものでもないと強調したうえで、参加者の方々も同じような機会の時はフォントの選択肢に入れてみてください、と説明した。


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