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てんぐのNetflix版三体感想:「ご当地三体」イギリス編

 この最終予告編のサムネイルの方、表情が見事にキマってるんだよなあ。
 えー、そんなわけで、先日のSHOGUN完走の余勢を駆って、噂のNetflix版三体も一週間ほどで見終わりました。
 舞台や設定が変更されてるとのことで、「どうなるものかなあ」と思ってましたし、実際、全30話かけたテンセント版と比較すると「三体RTAかな」と隣で見てる奥さんとよく話してました。

 ただ、キャラクターや舞台を改変した場合、そこにはNetflix版の製作陣の意図が介在してるはずです。
 そう考えながら見てたんですが、死に瀕したウィルの脳を宇宙に打ち上げて三体艦隊と接触させようという「階梯計画」でひとつピンときました。「これ、キム・フィルビーなんじゃないか?」って。

 階梯計画をキム・フィルビー亡命事件になぞらえたとき、科学者側の主人公を汪淼ひとりからオックスフォード・ファイブに変えた意味もハッキリと浮かびました。
 つまり、あの五人組って、三体原作の各部の主人公オールスターというだけでなく、キム・フィルビーを含めたケンブリッジ・ファイブのパロディだったんじゃないでしょうか。

 もともと三体は、「自分たちの側の世界」への嫌悪感や絶望から“敵”に通じる選択をした、いわゆる“第五列”と、その人々を追跡する人々が繰り広げるサスペンスという面もありました。
 そしてイギリスという国は、前述のキム・フィルビー事件もそうであるように、米ソ冷戦時代やそれ以前の時代においても熾烈で非情で陰鬱、そして彼我の区別もつかなくなる情報戦インテリジェンスの世界の渦中にありました。

 それと同時に、そのオックスフォード・ファイブも含めて、作中のキャラクターは人種やルーツもバラバラでした。それは「移民の国」になってる今のイギリス社会を、ごく当たり前に描写した光景だといえます。
 原作の作戦センターに相当する機関に属するダーシーが、アジア系ではあるけど「おれ孫子の兵法なんて話されたってわからないよ、マンチェスター出身だから」って素で戸惑うし、いまいち意思疎通ができない息子が遊んでるのはモータルコンバットで、小学校の学芸会で演じたのはヘンリー8世だったと打ち明ける、そんな光景は象徴的でした。
 正直、ラストで虫に乾杯とか取ってつけて言うより、こういうシーンの方がNetflix版のダーシーらしさが出ててよかったな。

 つまり、Netflix版は三体を、「移民の国のエスピオナージ」として再構築する。それがイギリス式のご当地三体だったんですな。

 そして、イギリスのご当地三体ができるなら、他の地域でのご当地三体だってできるはず。

 例えば、アメリカならどうなるか。
 いま世界で一番「我々は自分たちも問題すら解決できないほど行き詰った!」という葉文潔の絶望に同調しそうなのは、アメリカのリベラル系知識人やそのシンパではないでしょうか。
 また同時に、アメリカはエイリアン+陰謀論の本場でもあります。だから、ご当地三体の舞台としての相性はそう悪くないでしょう。
 で、原作でも、「人類の敵は人類」ってストーリーになってましたが、アメリカ三体だと最後にソフォンの「お前たちは虫けらだ」宣告によるパニックをトリガーにして内戦シビル・ウォーまで勃発しそう。
 で、合衆国崩壊の刻を迎えて、それでもなお主人公たちを奮起させる「人類は決してあきらめない!」と言える土地はどこかといえば、西部の荒野かなって気がします。そこを開拓者が苦難に負けず切り開いた土地と見るか、開拓という名の侵略に晒されても子孫を繋いでいた先住民の大地と見るか、どちらに舵を切るかはドラマの性質を大きく変えそうですが。

 また、日本ならどうか。
 キャスティングについては、ダーシー枠は阿部サダヲ、汪淼枠は堺雅人というところで夫婦の一致を見てます。あと、原作の常少将、Netflix版のウェイドに相当するキャラを女性にするって手もあります。俳優でいうと、麻生久美子なんかどうかなあ。
 日本の場合、智子ソフォン「ともこ」と読めるという、原作者認定のアドバンテージがあります。
 これを活かすなら、智子自身か三体崇拝カルトが「ともこ」というアイコンを使ってYouTuberとかネットアイドル、あるいはSNSのインフルエンサーとなって扇動するという展開も考えられます。SNS発のポピュリズムやその攻撃性と科学軽視にしても、あの文革と共通項は多そうですし。
 となると、心折れた主人公を奮起させる場は、3.11で一度は「もうだれも住めない土地になる」と言われながら、それでも暮らしの場を築きなおした東北地方はどうでしょう。少なくとも、日本人に対しては、急に虫の話をするよりよほど強いメッセージになると思います。

 このNetflix版の三体は、色々なご当地三体という可能性を拓いたのではないでしょうか。
 そんなことを考える一方で、元祖映像化三体であるテンセント版も改めて推薦します。

 こっちの大史ダーシーはワルでカッコ良いんだ。
 WOWOWで去年放送してましたが、今ならHulu、そしてU-Nextでも配信中です。
 全30話とちょいと長いですが、Netflix版を見た方はこちらも見てほしいです。

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