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てんぐのスターウォーズ語り:“帝国”とは何だったのか

 ドラマアソーカも最終回を迎え、総括する記事を書いてみようかなと思ってはいました。
 でも、すでに手際よくまとめてくださってる方がいるんですよね。

 てんぐも概ね同意してます。よっておしまい。
 というわけにもいかないよね、やっぱり。

 というわけで、今夜はスローン大提督の帰還によって新たな銀河内戦の勃発が不可避となったことで、否応なく突きつけられる「“帝国”とは何だったのか?」という問いを考えてみます。


皇帝パルパティーン=シス卿にとっての帝国

 まず帝国の頂点に君臨していた皇帝パルパティーンにとっての帝国、これは恐らく、「銀河への第二フェイズの攻撃を実行するための道具」でしかなかったんじゃないでしょうか。
 パルパティーン、代々のシス卿のフォースと怨念を継承してきたダース・シディアスが、怨敵ジェダイに守護されてきた共和国の名残である元老院や銀河市民社会と、例え支配や君臨という形であれ共存する気があったとは思えません。シディアス自身というよりシス卿の怨念がそれを許さないでしょう。
 帝国統治時代の20年は、銀河社会を分断と蹂躙によって打撃を与えるべく稼働し続けた暴力装置であり、同時にファイナルオーダー発動のための本拠地であるエクセゴルへ供給させるべき資源を略奪し続けるための略奪装置だった。
 おそらくシディアスというかシス卿にとって、この帝国という装置の耐用年数は20年が良いところだろうと最初から踏んでいた。
 エンドアの戦いでルークを暗黒面に誘うための餌が自分の命であり、そして暗に今まさに仲間を壊滅させようとしている帝国軍を壊滅させる機会の提示であったのも、この時点で帝国は崩壊しても惜しくないものだった。
 いやむしろ、自分の死後に銀河が帝国という装置をリサイクルすることなどあってはならない。
 シディアスはそう考えていたから、この時点で既に、「自分の死後に帝国を完全に崩壊させる」という趣旨の終末司令なんて代物を用意していたのではないでしょうか。

 パルパティーンという人物を支持してきた銀河市民も、良い面の皮だったと言わざるを得ないですね。

元老院議員たちにとっての帝国、そして反乱同盟

 上記がパルパティーン=シディアスという特異な個人にとっての帝国だったとしたら、次はもう少し範囲を広げて元老院議員たちにとっての帝国を考えてみます。
 元老院は旧共和国時代はもちろん、帝国時代20年にあっても、皇帝権力の傀儡にされつつも帝国軍の圧制を正当化するために不可欠な装置として機能してきました。
 クローン戦争での分離主義勢力、帝国時代のクリムゾン・ドーンなどの組織犯罪、そしてライロス解放運動のようなラディカルな惑星ナショナリストやソウ・ゲレラのパルチザン。
 こういった勢力への嫌悪と恐怖から銀河社会、具体的には自分たち上流社会の権益と世界観を守ってくれるなら、元老院議員の大多数にとっては、いわゆる“邪悪な帝国”であっても構わないというのが本音だったのかもしれません。
 言い方を変えるなら、元老院議員の大多数にとっての帝国とは「独裁的な超長期政権」という程度のものでしかなかった。
 それが、デススター完成に伴い自分たち元老院を永久解散したことで、彼らはようやくパルパティーン政権と敵対的な関係を構築することになったのでしょう。
 そして、そんな元老院議員が味方になれる相手は、反乱同盟軍しか存在しませんでした。ヤヴィンの戦いがもたらした結果は、単にデススターの破壊とターキン総督と幕僚団の戦死というだけでなく、銀河系政権の敵対者でしかなかった反乱同盟軍と銀河系の支配階層だった元老院議員とその周辺社会を結びつけてしまったことが推察されます。
 この点において「帝国はヤヴィンで滅んだ」と断言しても良いように思えます。
 でも彼ら、特にハマト・ジオノ議員らにとっては、反乱同盟軍は上記の犯罪組織やテロ組織と大差ない、むしろその残党を寄せ集めた危険な軍閥としか映っていないのではないでしょうか。

 実際、生粋の元老院議員という同族であるモスマ議長やモン・カラマリのロイヤルガード所属だったアクバー提督はともかく、ヘラ・シンドゥーラはライロス解放運動指導者の娘、ランド・カルリジアンはクラウド・シティの統治権をギャンブルで巻き上げたような人物、ハン・ソロに至っては密輸業者という正真正銘の犯罪者です。
 そんな人物たちが将軍閣下の称号を持ち、その政治的な後ろ盾になっているのは反乱同盟きっての武闘派だったレイア・オーガナ議員、精神的な支柱のルーク・スカイウォーカー中佐はジェダイなんぞという如何わしい存在を自称してると来てますからね。

 マンダロリアンS3で話題になった「同盟軍艦隊の解体」も、「この胡散臭い集団によって構成される軍閥を解体して、新共和国という新たな、そして自分たちの政権によって統制された軍隊へ再編成したい」という思惑でしょう。
 そしてジオノ議員がヘラ将軍を査問に掛けたのも、本命はレイアに対する新共和国の安全保障体制における牙城の切り崩し工作だったように思えます。まあ、これは失敗したようですが。

 こうしてまとめてみますと、元老院議員のなかには、「元老院永久解散前の帝国時代の方がマシだった」とさえ考えている者もいそうです。この人々としては、「帝国という体制は間違っていない。パルパティーンやターキン総督という操縦者が悪質だっただけだ」となるでしょうし、これが後に新共和国を二分するセントリスト会派の主張となっていくように思われます。

銀河市民の一部にとっての帝国

 スピンオフ小説「新たなる夜明け」は、反乱者たちの前日譚であるだけでなく、「帝国社会」というものがどんなものか、その一端を伝えてくれたという点でも気に入っております。
 帝国社会とは文字通りの万人恐怖の世界ではなく、極端に利益を得られるものと全てを剥ぎとられるものが分断されていく社会でした。
「分割統治」という言葉も浮かびましたが、これに加えて、極端な新自由主義とも言えます。そういえば、分割統治はインド支配、新自由主義はサッチャー政権と、どちらも大英帝国と縁が深いですね。

 この帝国の統治によって分割された人々を象徴するのが、ロザルの総督であるライダー・アザディとアリンダ・プライスの過去でしょうか。

 反乱者たちの最終局面で帝国に殉じようとするプライス総督にライダーが一緒に脱出するよう手を差し伸べたシーンで、「この二人も単なる憎悪だけで対立していたわけではないんだろうな」とは思ってましたが、その過去を見ると少なくともライダーが抱いていただろう複雑な思いを感じます。

 さて、成功者とそれ以外が極端に別れた社会から、まだしも平等や公正な社会へ移ったとき、それまでの成功者からしたら「自分たちの正当な利益と暮らしが奪われた」と新体制へ憎悪を向けても不思議はありません。
 それは傍から見れば逆恨みにも見えますが、当事者にとってはそうではありません。
 アソーカ2話で「帝国の為に!」と、明らかに無謀な発砲をしてアソーカに一刀のもとに切り伏せられた帝国残党シンパの動機もそんなところでしょうし、アソーカも冷ややかに「強欲」と評したのでしょう。

スローン大提督=ミスローニュルオドや魔女たちにとっての帝国

 では、銀河に新たな戦争をもたらすべく舞い戻ったスローン大提督と、その同盟者となった魔女、モーガン・エルズベスとダスミリ魔女王国のグレートマザーたちにとっての帝国はなんだったのかと考えますと――うん、さっぱりわかりません。

 スローン大提督は一見すると今も帝国に忠実な軍人そのものに見えますが、そもそもこの人の本性、「スローン大提督」という仮面の奥にあるはずの「ミスローニュルオド」という人物の顔は反乱者たち時代を通してもさっぱり見えてこないんですよ
 で、こういうときのてんぐは、とりあえずウーキーペディアを頼るわけです。

 こっちも画像がいつの間にか実写版になってるんだなあ。

 で、そのミスローニュルオドにとって「帝国のために」はとりあえずのポーズでしかなくて、本音は「帝国とあの銀河自体はどうなっても私自身はどうでも良い」ってところかもしれないんですよね。
 彼の帰属意識が今もチス・アセンダンシーにあるとしたら、彼の行動は「(チスの有力な後ろ盾となり得る)帝国のため」だったということになります。
 帝国残党軍であるシャドー評議会が新共和国を圧倒して強固な新軍事政権を勃興させるか、新共和国が自分たちシャドー評議会を瞬時に鎮圧できるか。そのどちらもできずにドロ沼の第二次銀河内戦に陥ったとしたら、「チスに迫っていた外銀河の脅威はこの銀河に向くだろう」とミスローニュルオドは考えているのかもしれません。

 では、魔女たちにとっての帝国は、それこそ本当に「どうでも良いもの」でしかないでしょう。帝国復活の野望と魔女たちの目的が重なるとは、どうしても思えませんしね。ただ、シャドー評議会の面々からしたら、「大提督もまた胡散臭い連中を連れてきたな?」と言いたくなるかもしれませんが。

スターウォーズをZガンダムに例えてみよう

 最後に、スターウォーズの世界情勢を理解する方法の一つとして、各陣営を宇宙世紀ガンダム、それもファーストからZガンダムと逆襲のシャアのそれに擬えてみます。

・ジオン軍:分離主義勢力
・連邦:元老院および共和国グランドアーミー
・帝国軍:ティターンズ
・反乱同盟軍:エゥーゴ
・ヘラ独立艦隊:ロンド・ベル隊

 こんな風にまとめると、だいぶ掴みやすいかなと思います。
 ちなみに、ティターンズ総帥のジャミトフ・ハイマンの本当の目的は、「戦争状態の継続によって地球上の社会システムを崩壊させ、それに伴い人類社会を宇宙へ強制的に移す」というものだったそうです。
 自分が率いる組織の理念とそれに従う将兵の意思を真っ向から欺くこの思惑を思い出したのが、本稿でのパルパティーンとスローン大提督についての考察の原点でした。

 今日の考察は以上ですが、スターウォーズでもこういうヒストリカルフィクションとしての記事を普通に書けるようになったというのが楽しくてしかたありません。
 スペースオペラであれファンタジーであれ、「人々の営み」としての「歴史」があると、格段に世界への感情移入度は上がるということを再認識しました。

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