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#07 「女王と水の湧く壺」の話をしようか #Trigger

はじめに

あなたの身近に「なぜか色んな事に詳しい人」っていませんか。
疑問に思ったことを聞いてみると、「それはこういうことだ」と教えてくれる。

そういう人って、近道するのが上手いのでしょうね。
羨ましいものです。

ただ、ふと思うことがあります。
人が求めているのは、達成までの距離ではないんじゃないかと。


さて、今日は「女王と水の湧く壺」という話をしましょう。

「女王と水の湧く壺」

とある王国で可愛い女の子が生まれました。
喜びと共に涙を流しながら、母は言いました。

この子はやがてこの国の女王になる。
自分のような苦労はさせず、立派な女王に育ててあげたい。

母の心中

水の湧く壺

この国には、象10頭ほどならすんなりと入るほど巨大な壺があった。
その壺は城の中央、王座の裏にある。
そして、なぜだか底から水が湧き出てくる。

その理由は知られていない。
ただ、水が湧き出るのは女王が「何かを成し遂げたとき」だ。

女王の出産と共に、城の中央に置かれた巨大な壺から水が溢れ出てきた。
壺いっぱいに水があれば、小さな国と言えど1ヶ月は水に困ることはないだろう。

女王と執事

まだ子が生まれる前のこと。
10歳ほどだった女王は、どんな困難にも立ち向かう勇敢な子だった。

女王には優秀な執事がいつも付き添ってくれていた。
顔立ちも整っており、細身で多彩だが、まだ若い。

もう日が沈みました。今日はこの辺にしておきましょう。

執事

女王は身長ほどある剣を握りながら、滴る汗を拭った。

まだです!もう一本だけでも!

女王

執事はどんなに負けても、果敢に挑む女王に親のような感情を抱いていた。

私が何も言わずとも、彼女は成長できる。
自分が不器用だと感じているのはあなただけだ。

執事の心中

そんなことを考えながら、執事は女王とその後も剣を交え続けた。

母としての女王

それから女王は大人になり、子を授かった。
しかし、それと同時に執事は不治の病に倒れてしまった。

私は最初、人並みにさえ事を成すことができなかった。
自分が人よりも不器用なことは誰よりも知っていた。

それでも、女王になるという使命を成し遂げた。
これからも私の力でこの国を支えていくつもりだ。

「自分は不器用な人間だ」と打ち明けられたのは執事だけ。
親身になって、私の心に寄り添ってくれた執事には本当に感謝している。

授かった我が子には、私の培った「成功する方法」を教え、苦労のない生活を送らせてやりたい。

自分のような苦労、可愛い我が子には絶対にさせてやるものか。

女王の心中

女王は執事との日々に思いを馳せながら、強い意志を持って我が子を育て抜こうと誓った。

女王の誇り

母は愛する我が子にすべてを与え続けた。
子はすべてを母に聞き、教わり、育った。

母の望み通り、子はさまざまなことを成し遂げた。
自分のように不器用な子でなく、心から安堵した。

立派にこの育った、誇れる我が子よ。

母の心中

壺から大量の水が湧き出てきた。
この子はもう私がいなくとも、女王としてやっていけるだろう。

喜ぶ母を見て、子は少しだけ笑みをこぼした。

新たな女王と枯れた壺

子は新たな女王となった。国民は心から喜んだ。
より多くの水が湧き、豊かな国になるぞと。

新たな女王は、母に教わったようにさまざまなことを成した。
しかし、壺から水が湧き出ることはなかった。

新たな女王は、さらに多くのことを成した。
やがて壺は枯れ、二度と水が湧くことはなかった。

新たな女王が何かを成すことはなくなった。
雨乞いのような祈りを捧げ、壺の前で果てていった。

水を失った国が滅びるまで、そう時間はかからなかった。

執事のてがみ

しばらくして、滅びた国に若い旅人がやってきた。
枯れた壺を前に、彼女は祈りを捧げた。

話で聞いたとおりの城だ。
探し物は見つかるだろうか。

旅人

しばらく城を散策し、旅人は執事の部屋にたどり着いた。
高級そうな古びた棚の引き出しに、手紙が入っていることに気付いた。

女王へ

私は人より寡黙な人生を送ったように思う。
多彩と言われた私だが、あなたに物事を成す方法を
どう教えれば良いかわからなかった。

私にできたのはあなたの話を聴くことくらいだ。
私は、あなたの不安を少しでも拭うことができただろうか。

あなたと過ごせた日々を、私は誇りに思う。
たった一つ望みが叶うなら、
あなたの心が満たされていたのか、それだけを私は知りたい。

執事のてがみ

旅人はてがみの最後に書かれた執事の名前を見て、泣き崩れた。

壺からほんの少しだけ、水が湧き出できた。


あとがき

あとがきは別記事として執筆しています。
以下をクリックして、ぜひ読んでみてくださいね!


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