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NACHERRYが描く「私」像――「フォーチュンテラー」と「リブラ」を比較して

こんにちは。かみなりひめです。

早速ですが、

NACHERRY デビューミニアルバム
「CANDY SUNDAY」
発売おめでとうございます!

発売週のオリコンデイリーランキングでは
6位を記録されたようで、快調なスタート。

アメリカンロックを基調としつつも、
それぞれの楽曲で個性を光らせているのが
印象的なアルバムでした。

そんな中でも私が一番気になった曲が

NACHERRY「リブラ」

先行公開・配信されていた楽曲
フォーチュンテラー」に続いて
YouTubeでリリックビデオが公開された
楽曲でした。

案外ちゃんと「フォーチュンテラー」を
聴いていたワタクシ、こう思ったのです。

「あれ? NACHERRY、方向性変えた??」

1. 「リブラ」に翻弄される「私」

なぜ、「リブラ」を聴くことによって、
NACHERRYの方向性の変化を感じたのか。

それを明らかにするために、まずは
詳細に歌詞を追いかけることにします。

リブラ」の歌詞世界の主体となる人物は
」という人物です。
この「」の視点で物語が描かれます。

曲が始まって早々に、「」は
について悩むことになります。

どうしてこんなことって
ってなぜ複雑なの
突然優しくしないで

NACHERRY「リブラ」

簡単な恋なんて面白くないんだよ?と
脳内のワタクシは申しておりますが、
このはどうも急な出来事のようです。
そして、その衝撃も大きかった模様。

大好きな曲なのに
今までと同じじゃない
突然星が堕ちてきて

NACHERRY「リブラ」

星の墜落に喩えられるほどには、
」のショッキングさが伺えます。

ここで注目しておきたいのが、
ちる」ではなく「ちる」な点。

」というと、その漢字義には
おちる」「こぼれる」「そこなう」など
マイナスな記述のオンパレード。
堕落」などの熟語も浮かびますね。

恋愛という一見プラスそうな事態の比喩に、
マイナスな字義を持っている「」字を
わざわざ選んでいるのはなぜでしょう?

それは、この恋があまり褒められた
状況ではないから
です。

だってあの子がね
君のことをLOVE…好きで
私ただ応援してただけ

NACHERRY「リブラ」

愛と友情 どちらかなんて選べない
どんな未来がほしいかなんて分からない
STOP ME PLEASE
このままじゃ曖昧なLIFE

NACHERRY「リブラ」

」が陥ってしまったとは
まさに三角関係だったのです。

しかも、自分の友人「あの子」が
好意を抱いている対象である「」が、
」に優しく接してくるのです。

これがまさにLove Triangle――。

なんてね。閑話休題。

というわけで「」と「友情」の
ジレンマに陥った「」が描かれます。

ここで注目したいのは、ジレンマの中に
いる「私」の態度です。

この「私」という人物は基本的には常に
受け身のスタンスでいるのです。

だから、「」に好意を持たれたときも
ただ応援してただけ」であって、
自分自身では何もしていないのです。

また、愛と友情の板挟みのなかでも、
選べない」「分からない」として
自らの決断を放棄しているのです。

そして、その決断を「」へと委ねます。

愛と友情 どちらかなんて選べない
どんな未来がほしいかなんて分からない
STOP ME PLEASE
このままじゃ曖昧なLIFE
BABY OH BABY
天秤座の君へ

NACHERRY「リブラ」

ここで、楽曲名にある「リブラ」を
回収していくのです。

リブラ」(=Libra)とは、英語で
てんびん座」を意味します。
つまり、「リブラ」は「」のこと
であったわけです。

……と、ここまではフツーの話です。
ここでは、もう少し「てんびん座
ということを考えてみましょう。

てんびん」とは言うまでもなく、
モノの重さを量るための道具です。
そしてそれは比喩的に「判断すること」や
公正」「正義」を象徴します。

先ほどの「天秤座の君」という歌詞には、
もちろん「君」=「天秤座」という意味も
含まれているでしょう。

しかし、「」や「」が置かれている
シチュエーションが「恋の三角関係」である
ことを踏まえてみましょう。

もっと踏み込んで言えば、「」の隣には
あの子」と「」とがいるわけです。

つまり、「天秤座の君」というのは、
」と「あの子」のどちらを選ぶのかと
判断に揺れ動いている天秤」のような
」の姿を表現しているのでした。

2. 「私」の運命を決めるのは「私」では?

天秤のように判断のために揺れ動く
」にすべてを任せてしまい、
自分は決断を避ける」の姿を
リブラ」から読み取りました。

正直、この点が一番「?」ポイントでした。

なぜなら、私たちはすでに
この楽曲を知っているからです。

NACHERRY「フォーチュンテラー」

この曲のサビ部分では、声高に
そして力強くこのように歌われます。

I am my フォーチュンテラー
私が決めるから

そして世界が勝手に振り向いてくれたらいいわ
I am my フォーチュンテラー
自分のことだから
好きな色が一番似合うカラー
そうでしょ
Believe in yourself

NACHERRY「フォーチュンテラー」

フォーチュンテラー(=fortune-teller)は
「占い師」を意味する単語ですが、
fortune=運命を伝える者、というのが
そもそもの語構成です。

そう考えれば、
I am my fortune-teller.」とは、
私の運命を決めるのは私」という
メッセージに富んだ詞なのです。

「私」が世界に振り向くのではなく、
世界が「私」に振り向けばいい。
その中心は「私」にあるのです。

このように考えると、
リブラ」の歌詞における「」と
フォーチュンテラー」の「」とは
大きな違いがあることに気づきます。

受け身で自身の運命を切り開いていかない
のが「リブラ」の「」である一方、
フォーチュンテラー」の「」はむしろ
積極的に自分の人生を創造していきます。

同じ「」で表現されている主体について、
同じ二人(田中ァ!となっちゃん)で表現を
しているがゆえに抱いた違和感なのでした。

3. おわりに ――幅を広げるNACHERRY

ここまで、「リブラ」の歌詞を中心にして、
フォーチュンテラー」とも比較をしながら
二つに現れる「」の違いを探りました。

映像が作られたこの二曲の間で、
積極的に運命を作っていく「」から、
受け身で判断を他者に仰ぐ「」へと
変化をしていったわけです。

これは悪く言えば、一貫性に欠ける
ということでしょうが、むしろこれは
アーティスト・NACHERRYの表現の幅が
広がった
とみるのが妥当でしょう。

それぞれの楽曲の個性が光っているのが
このアルバム「CANDY SUNDAY」の長所。
それを存分に発揮していると言えるでしょう。

これからも、益々の活躍を期待しています!

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