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第3話

君との初めてのお出かけはとっても楽しかった。
あ、でもラーメン残しちゃってごめんね。美味しかったよ。

後は…あの本、ずっと持っていてくれたら嬉しいなぁ。




今日一日で何度も突飛なことを言っていた。僕はそれを真に受けないと決めていたはずだ。


「なんでそう思うのさ」


隠していたつもりだが、僕は明らかに動揺していた。言っていることが1ミリも分からなかったからだ。


「だって私、預言者だから」


返答まで一貫して意味不明だ。


「僕を殺人鬼に仕立てたいの?」


「んーそれも面白そう」


僕は割と真剣に聞いているのに、さくらはひらりと質問を交わした。


「病気じゃなくて、僕が殺すの?」


口にした瞬間、軽率な質問だと反省した。僕とさくらの仲はまだ深くはなかった。

「病気にやられちゃうくらいなら、君に殺されたいな」


表情豊かなさくらの、最も読み取れない表情。空はそろそろ僕の好きな色じゃなくなる時間だ。


「さくらは自殺願望でもあるの?」


「嫌だよそんなの。痛いじゃん」


さくらを駅まで送る道でも、僕はまだその言葉に引っかかっていた。

「痛いのは、もう十分だよ」


何気なく、独り言のようにさくらは呟いた。

それでも、僕の心を暗くするには充分だった。


次の日、さくらの預言通りに雨が降った。

それでも、僕はさくらに連絡をしなかった。



それから一週間、僕はさくらと会話をしなかった。不思議なことじゃない、日常に戻っただけだ。


「あの子見つかったの?」


昼飯を食べながら、さくら以外の唯一の友に聞かれる。


「あぁ、お陰様でね」


「良かったじゃん。で、どうだったよ?」


どうだった…そう聞かれても答えに困る。


「ん…表情豊かな…生意気なやつ」


先週の記憶を思い出しながら、我ながら的確な答えを生み出す。

しかし、僕の唯一の友は険しい顔をした。


「違うよ。会えて良かったかを聞いてるんだよ」


僕の目を見て離せないくらいの人見知りの彼。でも、その言葉は時々、僕の心の扉を叩き壊す。

しかし、その質問は更に答えづらい。僕は今、さくらの言葉の真意で に頭を悩ませているんだ。


「良かったよ。友達が増えた」


視線が弁当箱から僕の目に移る。ふっと笑った彼とはこれからも良い友達でいられそうだ。


「なら、そんなに暗い顔するなよ。悩んでたって良いことないぜ」


そう言い残し、彼は僕の机を去った。


「そんなに暗い顔していたかな」


僕の2人しかいない友人に言われたから、間違いはないだろう。


口角を指で少し上げる。ダメだ、表情筋が釣りそうだ。

さくらの顔を思い出してみる。でも、夕陽に遠ざかった、あの表情しか思い出せなかった。



その日の夜は意味もなくスマホを使っている時間が長かった気がする。

ネットサーフィンに飽きた頃、僕は休日の予定を考えた。考えてもやることはないけど。


「コーヒーでも飲みに行こうかな」


先週のリベンジをしよう、そう思っていた矢先だった。

『やぁ、久しぶり。一週間ぶりかな。少しは寂しかった?』


『さくらこそ、こんなメールを送ってくる当たり、暇なんだね』


いつかに似た唐突のメール。文面から察するにさくらは元気そうだった。


『まぁ暇ってことにしようかな。明日、10時に駅の銅像前で!』


このパターン、僕に勝ち目はない。


『僕は土日はゆっくりすることに決めているんだ』


一応、抵抗はしてみる。でも、本心じゃないことが自分でも分かる。

表情筋に昼間と同じ痛みを感じた。


『最後に、私が一つ預言をしてあげる!…』


先週とは違い、自称預言者さんは有難いことに預言もしてくれるらしい。


『君は明日、友達が増えるよ』


まぁ、さくらが友達を連れてくるんだろう。僕以外の唯一の友達、少し興味が湧いた。

僕は返信せずに布団に入った。預言に口を出すのは野暮ってもんだからね。

目覚ましを9時にセットする。まだ表情筋が釣った感覚が残っていた。



待ち合わせの10分前に駅前に着く。週末の駅前は僕と同じ目的の人で賑わっている。

指定された銅像の前に行くと、同い年位の女の子が誰かを待っていた。隣に並ぶ勇気はないので、僕は銅像の裏手に回る。


「ごめ〜ん、待った?」


聞き覚えのある声が駅の方から聞こえてくる。

しかし、その声は僕の元に来る前に止まった。丁度僕の裏側で。

そこである事を思い出した。今日はさくらの連れがいるってことを。


「あ、みーつけた」


ひょこっと顔を出したさくらと目が合う。次に、その友達である女の子とも目が合った。

「何緊張してんの!まさか、一目惚れしちゃった?」


「いや、僕は人見知りなんだ」


私の時はそんな感じしなかったなぁ…そんなさくらの言葉が聞こえた気もする。

それどころでは無い。目の前の名前も知らない女の子は確実に僕のことを睨んでいた。

「紹介するね。私の唯一の友達の賀喜遥香ちゃんです!」


「はじめまして」


頭を軽く下げる。一通りの礼儀は弁えているつもりだった。


「はじめましてじゃないんだけどね」


「えっ…」


賀喜遥香さん…その名前に心当たりは無かった。


「同じクラスなのに酷いね、○○くん」


賀喜さんの眉間の皺がぎゅっと深くなる。はぁ…今日のために女心を学んでおくべきだった。


「同じクラスなのにひどーい」


賀喜さんには申し訳ないとは思うが、さくらに茶化されるのは癪だった。

「ごめん賀喜さん。悪気はないんだ」


「別に良いよ。○○君はそうだろうと思ったよ」


これは許されているのか呆れられているのか…。とりあえずこの場をやり過ごせそうで良かった。

第一印象はお互い決して良くないはずだ。さくらはなんで僕らを会わせたのだろうか。


「じゃあ、2人には今日デートをしてもらうね!」


僕らは固まった。いや、さすがに冗談に違いない。


「本当に君はつまらない冗談が好きだね」


「ちょっと、さく!何言ってんの!」


2人に問い詰められる。しかし、さくらは真面目な顔をしていた。


「私は大真面目だよ。さぁさぁお二人さん、行った行った」


「いや…でも…」


狼狽える僕を横目に、賀喜さんはため息をついた。


「行こっか○○君。こうなったらあの子止まらないから」

さくらの扱い方は僕より慣れているようだった。

僕らの後ろをさくらは無邪気な子供の様に付いて来た。

「あ、でも私、○○君のこと許してないから」


賀喜さんは唐突に僕に告げる。その眉間にもう皺は寄っていなかった。

この時、類は友を呼ぶという言葉の偉大さを知った。さくらと賀喜さんはどこか似ていた。


「それは…参ったな」


陽射しによる汗と、この状況への冷や汗が背中を伝った。



……To be continued

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