マガジン

  • 君は預言者

    青春ストーリーの予定

  • 「ホームラン」

  • 「死神ちゃん」

  • 「Nameless Story」

  • 「棘と人」

    その感情は棘となって心に突き刺さる。互いの立場を乗り越えるのは、壊した時の何倍も難しかった。

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第4話

友達と友達を会わせるのってなんだか緊張する。 でも、2人には仲良くしてもらいたいの。ずっと、ずぅぅぅっとね。 僕の初めてのデートは思っていた始まりでは無かった。 「まだ、この状況が飲み込めないんだけど」 「あの顔見てみ?」 後ろを指さした賀喜さん。そこにはニヤニヤとこの状況を楽しんでいるさくらがいる。 「諦めて今日を楽しみなよ。私の事を覚えてなかった贖罪も忘れずに」 人付き合いを避けていた自分を恨む。でも、クラスメイトを覚えていなかったのはさすがに心が傷んだ。

    • 第3話

      君はあんな休日を過ごすんだね。コーヒーも、ラーメンも、私の知らないことばっかだった。 普通の休日。でもとっても楽しかったよ。 あの本、ずっと持っていてくれたらいいな。 今日一日で何度も突飛なことを言っていた。僕はそれを真に受けないと決めていたはずだ。 「なんでそう思うのさ」 隠していたつもりだが、僕は明らかに動揺していた。言っていることが1ミリも分からなかったからだ。 「だって私、預言者だから」 返答まで一貫して意味不明だ。 「僕を殺人鬼に仕立てたいの?」

      • 第2話

        いきなりあんなこと言って嫌われないかな? いや、きっと大丈夫。 だって、とってもお節介な君だから。 「ちょっと、黙らないでよ!」 答えに困っていた僕を彼女は現実に引き戻した。 「ごめん、返す言葉がなかった」 「可哀想だ、って思った?」 また、答えにくい。僕のボキャブラリーの中には人を労える様な言葉は多くない。 「僕と同じ歳の君がそんな運命を背負っていることに驚いた」 「ふふふっ…君、正直者だね」 この答えで褒められるとは思っていなかった。褒められているのかも

        • 第1話

          その出会いを私は偶然とは呼びたくない。人は必要な時に必要な人と出会う、そう思っているから。 「君は私の事、殺さないといけなくなると思うなぁ」 君に言われた衝撃的な言葉。今でも脳裏に焼き付いている。 「なんでそう思うのさ」 「だって私、預言者だから」 君との出会いは偶然、いやそんなこと言ったら怒られるかな。 春と夏の狭間、不快な暑さの漂う雨の日だった。 「何してるの?」 病院近くの公園で傘もささずにベンチに座る君。 「別に、あなたには関係ないよ」 僕の心配を

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        • 君は預言者
          4本
        • 「ホームラン」
          3本
        • 「死神ちゃん」
          2本
        • 「Nameless Story」
          12本
        • 「棘と人」
          9本

        記事

          後編

          「史緖里!」 病室の扉を開くと同時に名前を叫ぶ。そこにはベッドの上に座り、何かを編んでいる史緖里がいた。 「〇〇…ここ病院だよ、静かに」 口に手をやる史緖里。声は震えていたがいつもの史緖里だった。 「でも、どうして?」 不思議そうな顔をする。遅れて来た美月が訳を話した。 「ごめん、私が〇〇に伝えた」 俯く美月に史緖里は優しく答える。 「そっか。今まで隠してくれてありがとね、やま」 今日の史緖里の言葉の節々には、風に揺れる灯火の様な儚さが見えた。 首を横に振

          後編

          中編

          東東京大会準決勝。相手は3年連続代表校の初森第二商業高校。 1点差で迎えた9回裏2アウト1、3塁に俺に代打が告げられる。 いつものように打席に入る。1塁ベンチは全員が俺のヒットを祈っていた。 相手のピッチャーが大きく腕を振る。タイミング良くバットでボールをとらえた。 カキーン ボールは高々と空に上がる。球場が一気に沸いた。 パシッ ボールが辿り着いたのはレフトスタンドではなくレフトのグローブの中だった。 3塁スタンドからは歓喜の声が聞こえた。 試合終了のサイ

          前編

          カキーン 雲ひとつない青空に白球は勢いよく吸い込まれていく。 ランナーが1人帰り、2人帰る。当のバッターは意気揚々と2塁ベースを蹴っていた。 俺はベンチの中からそれを見ていた。悔しくて仕方なかった。 幼かった記憶に強く刻まれたホームラン。それが俺が野球を続ける原動力でもあった。 その試合は圧勝だった。俺のライバルは最終回のマウンドにも立っている。 「ストラーイク!バッターアウト!」 最後の打者も三振にとってみせた。 「ありがとうございました」 そう言って試合

          前編

          『第2話』

          「このお花はねシロツメクサっていってね、花言葉はね…」 花の名前や花言葉なんて興味が無い。当時の俺はすぐにでもサッカーに混じりたかった。 「瑠奈は色んな花のことを知ってるんだね」 そう言うと瑠奈の顔にも花が咲く。 「だってね、瑠奈大きくなったらお花屋さんになるんだ!」 俺は瑠奈のこの顔が大好きだった。この顔を見るためなら、退屈な花の話も何時間でも聞いていられた。 「えっ…だって私、まだ17歳ですよ…」 目の前の医者は暗い顔をして俯くばかり。隣のお母さんは私より先

          『第2話』

          「26日のサンタさん」

          「ねぇ、なんでうちにはサンタさんこないの?」 子供の頃、私にはサンタさんが来たことがなかった。 「ごめんなぁ美月ちゃん、サンタさん忙しいみたいでね」 おかあさんは毎年そう言って謝った。 次の日、学校に行けばプレゼントの話でもちきり。 新しいゲームをもらった 新しい人形をもらった 新しい洋服をもらった そんな話を聞く度に胸が締め付けられた。でも、本当に悲しかったのは… 「美月ちゃんは何をもらったの?」 「わ…私もお人形さんもらったよ!」 そんな嘘をつく自分

          「26日のサンタさん」

          『第1話』

          「はぁ…」 いつもより高い目線。しかし、目の前に見えるのは頑丈に縛った縄。 「はぁ……」 ガキの頃に見ていた夢は何一つ叶わなかった。強いて言えば、あの大きな舞台で大勢の客を笑わせることが出来たくらいだ。 そんな僅かな走馬灯を振り払い、縄に首を通す。ギュッと握った。 椅子を蹴ろう。そう思った時だった。 「ちょっと、何してるんですか!」 この部屋には俺しかいないはず。でも、声のする方向には、見たことの無い女の子が上目遣いで俺を見ていた。 「そんな事しないでください

          『第1話』

          『Nameless Story』完

          「それぞれの歩み」 「ほらそこ、腰が高い!」 未曾有の大震災から数年後、あんなにひよっこだった私も、気づけば後輩の指導役になっていた。 「井上!菅原!」 自然と声に力が入った。私の隊の2人だけの女性隊員だ。 「「すみません!!」」 嫌いなわけじゃない。その若さが羨ましいわけじゃない。ただ… 私の恩人もこんな気持ちだったのかな。そうだとしたら、本当に頭が上がらない。 空は透き通るくらいに青い。まだ訓練は始まったばかりだった。 「本当にありえない!」 訓練後だ

          『Nameless Story』完

          『Nameless Story』⑪

          「憧れのヒーロー」 「それにしても、あんた本当に可愛いな」 美月の隣にいると100万回は聞いた言葉。ちょっと羨ましいのは、本人には内緒だ。 「えー、お姉さんのその服装もかっこいいですよ〜」 彼女の特攻服のような格好は、私の好みでは無いがよく似合っている。 柄にも合わず話しやすいお姉さんの雰囲気に、つい会話が弾む。 「美月っていうんだね、可愛い名前。私は梅澤美波。隣の白くて可愛いのは?」 「あっ…久保史緒里です」 急に振られてどもってしまった。でも、可愛いと言わ

          『Nameless Story』⑪

          『Nameless Story』⑩

          「自衛官 新内眞衣」 「要救助者発見!」 私たちは無我夢中で瓦礫をどかした。 「美月、合わせて。せーのっ!」 もう熱い日差しは感じない。それでも、流れる汗の量は変わらない。 「もう大丈夫です。こちらへ」 何度目か分からない誘導。それでもまだ足りない。 「久保、こっちも頼む!」 「はい!」 それでも辺りは刻一刻と闇が深まっていった。 夜になっても運ばれてくる患者の数は変わらなかった。 「さくら!そっちは?」 「トリアージ赤、JCS200です!」 「OK

          『Nameless Story』⑩

          『Nameless Story』⑨

          「決心と決断」 昼前に起こった地震。既に空は赤らみ初めていた。 辺りを見渡しても、まだ手が着いていない瓦礫の方が多い。 「久保、こっち手伝って!」 また1人救助者が見つかった。私たちが手を休める暇など、1秒たりとも無かった。 「すぐ行く!」 私は焦る気持ちを抑えながら、美月の元へ走る。 どうしてそんなに焦っているかって?だって… 私たちは夜、救助は行えないから。 「…くら、さくら!」 大声で呼ばれて我に返った。 「ご…ごめんなさい…」 「大丈夫?」

          『Nameless Story』⑨

          『Nameless Story』⑧

          「保育士 白石麻衣」 「うわっ…」 避難所までの道のりで甚大な災害に直面したことを実感した。私の知っている街は、その面影を完全に失っていた。 『人生がどうかなんて、まだ分かりませんよ』 あの隊員さんの言葉もずっと頭に残っている。 心の中にしまいこんでいた気持ちを覗かれるた気分だ。 ずっと誰かに見つけてほしかった、自分じゃ勇気が出なかったその気持ち。でも… いろんなことを考え過ぎて、頭の中はぐちゃぐちゃだった。怪我した足を引きずりながらも、私は避難所にたどり着いた。

          『Nameless Story』⑧

          『Nameless Story』⑦

          「大学生 遠藤さくら」 昔から物静かで、人前に出ると緊張で言葉が上手く出てこなかった。 「さくらちゃんってさぁ…」 そんな陰口を言われたことなんて幾度となくある。 もう唇を噛み締めることすらしない。ひっそりと生きて、ひっそりと死んでいく。そう決めたつもりだった。 頭だけは良かったから、将来のことも考えて医学部に進んだ。 人付き合いから逃げるために勉強をしていただけなんだけどね。 その日は講義に向かう途中だった。大きな揺れに驚いていると、間髪入れる時間もなく、街が

          『Nameless Story』⑦