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あけなさい


この、うつくしいひとへ

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「あけなさい」

古風で艶やかな、歪な箱のなかに、清純な羽が幽されていて。箱を震えながら耐え忍んでいるわたしは、ずうっと座らせられているの、小ぶりなかわいい椅子に。そうして、立つ力を失くしていた。

あけたい。
あけたくない。

「あけなさい」

あたしもあけたのよって、だからあなたには、初めて会ったとき右首に深々とした切り傷がついていて、黒い糸で縫われていたじゃない。左腕も右腕もズタズタで、消毒液がパチパチ拍手の音をしていて、綺麗な音だなって、手を取った。傷を愛しているのです、と薬の副作用で呂律のまわらない舌で告げると、あなたは笑った。あたしパンドラの箱を開けてしまった二匹のチェシャ猫。記憶の傷は生き残った孤児すべての希望だった。
(二匹のチェシャ猫はあなたの心臓の刺青。)

「あけなさい」

舌を絡ませながらあけると箱も椅子も揺らいで消えた。あなたがペロリと頭からたいらげてしまった。

シャンデリアを折ったみたいだよね。かつてわたしの肩甲骨にあった。イブが愛撫する肩甲骨。

だから、落っこちた。ビルディングの上から。
白鳥のドレスをきて、冬の夜の海に入った。
ナナカマド色の絨毯から、空を見た。雲の眩暈と隠れた、きっときらめいている星と。

葬送は幾度も失敗した。

「それでいいの」
その人は明るく笑いながらわたしに羽を渡した。写真を撮る指先から香油が滴っているので、このひとはきっと、もう生きていないんじゃないと思う。
「いつか再生する羽の切っ先で指を切らないように」

いつかあけなさいと命じる日が来るように。

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Model:櫛流 Kushinagare/Photo&Hairmake:田中修子Shuuko Tanaka https://twitter.com/ShuukoTanaka

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