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「校長の贈る言葉」原案:ハッピーエンドー

【原案】
夕日を眺めていたら、涙が止まらなくなった。

喜び、悲しみ、怒り、様々な感情から涙が溢れてしまう。
このままでは……体が干からびてしまう。


 卒業生の皆様、保護者の皆様、本日は誠におめでとうございます。さて本日は天候にも恵まれ、ここ数日間の雨が嘘のように晴れ渡っております。澄み渡った青空はまさに卒業生の皆様の前途を祝福しているようです。また桜のつぼみもほころびはじめ、もう数日もしないうちに、校庭の桜も満開になることでしょう。
 
 さて、えー、天気予報によれば、今日は午後からもすっきりと晴れわたるわけであり、それすなわち、卒業生の皆様の、前途を祝すことになる、といったことは今しがた述べた次第です。
 
 ここで、改めて、申し上げなくてはなりません。毎年、全国の校長はこの贈る言葉に大変、頭を悩ませております。ご存知の通り、卒業式は卒業生、保護者、私ら教員らが皆、最も涙しやすい場面であります。しかしながらこの人数が一斉に涙を流せば、体育館は一気に涙の洪水となり、式典が台無しとなってしまいます。実際、一昨年は私の贈る言葉に感動してくれた生徒たちの涙で体育館が水没してしまい、多額の修繕費がかかったのです。
 
 だからこそ、去年からは今しがたのように天気の話などを繰り返し、徹底的に「つまらない話」をするようにしていたわけではありますが、今度はあくびを咬み殺す生徒が続出。その涙でまたも体育館が大洪水。やはり多額の修繕費がかかってしまいました。まったく私たちの涙の量というのには改めて驚かされます。
 
 そして今年はというと、このように、これまでの経緯を説明することで、卒業生の皆様には冷静に涙を引っ込めていただき、また大人の事情を開けっぴろげにすることで、多少の興味を持ってもらおう、そう画策したわけであります。
 
 さて幸いにして目下のところ、私の画策は成功しているようで、みなさま、涙を流すことなく、贈る言葉を聴いてくださっているようでありましたが…
 
 いや、妙ですね。どうにも、再び涙を流す生徒たちが増えてきているようです。感動も退屈も与えていないつもりでしたが、一体どういうことでしょうか。今話しているうちに、すでに、皆様の足首、いや、膝くらいまで、涙がもう溜まってきております。
 
 そうか、わかりました。
 
 ここ数日の雨が嘘のように晴れ渡ったということは、花粉の量がとんでもないことになっているのですね。その涙でしたか。また水浸しです。また修繕費がかかります。すみません、泣きます。卒業、おめでとう。

いつもいつも本当にありがとうございます。