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#4 麺の硬さとコシに関する考察

麺の硬さはコシには必要

今回は麺の硬さについて考察する。
下図で示されるように、一般的に麺が硬いほどコシ勾配が高くなる傾向にある。
たとえば茹ですぎたインスタントラーメンのように柔らかい麺だとコシがなくなってしまうというのは誰しも経験することだろう。

茹ですぎた麺はコシがなくなる

しかし硬すぎると逆にコシはなくなる

しかしコシを出そうといたずらに麺を硬く仕上げることで、コシそのものが台無しになるケースがある。
特に「柔らかい小麦粉(中力粉〜準強力粉)」「中加水〜高加水」「中太〜太麺」というもともとの素性が柔らかい麺に対して、強すぎる圧延をかけることで、コシ勾配が損なわれるケースは少なくない。

圧延が強すぎる麺もコシがなくなる

圧延が強すぎると組織は簡単に壊れる

製麺機の大和製作所の興味深い実験がある。製麺過程での複合回数を増やすことで、麺の硬さが増していくが、一定回数を超えると逆に少し柔らかくなるという現象だ。これは圧延が強すぎて、グルテン網とデンプンの構成が破壊された状態と考えられる。

https://www.yamatomfg.com/contents/advantages-of-combining/

潰れた麺ではコシ勾配が形成されにくい

麺のコシとは、茹でた時の麺の表面と内部の吸水率の差(水分勾配)である。

圧延が強すぎた麺は茹でても水分勾配は形成されにくい

しかし圧延が強すぎて密度高く踏みしめられた状態では、茹で過程でもデンプン(アミロース)が湯中に溶け出しにくく(アミロースが溶け出すことによって、吸水が進む)、麺表面と内部の吸水の差(水分勾配)が形成されにくいと考えられる。(圧延が強い麺は茹で時間を長くしても全体的に均一に吸水が進み麺が柔らかくなるため、コシ勾配の形成とはならない)

「強い圧延」と「短い寝かせ」が硬い麺に

ただし圧延が強い麺帯であっても、寝かせる時間を充分にとることで、潰れた麺構造でも復元されていく。これは水和と呼ばれるグルテン網の自然形成の働きによるものと考えられる。
このため「圧延が強いほど長時間の寝かせが必要」と言える。

逆に
・強く圧延したにも関わらず寝かせ時間が短い麺
・充分密度高い麺にも関わらず茹でる直前に強く手揉みされた麺

これらのケースで「コシを損なう硬い麺」となる。

茹でる直前の手揉みはデリケートな工程

特に茹でる直前の手揉みは、麺が復元する時間はないので、非常に精妙な力加減がポイントとなる。
たとえば七彩のように、面打ち職人の上半身の荷重と麺棒による圧延レベルであれば、茹でる直前にギュウと手揉みをする圧延で、ちょうど良い密度バランスになっている。

七彩@八丁堀  [2023/03/24]

しかし製麺機で充分な圧延をかけた麺を、更に茹でる直前にギュウギュウと手揉み圧力をかけると(特に加水高めの麺であれば)簡単に組織が潰されて、いくら茹でてもコシ勾配が発現しない、硬いだけの麺となりやすい。

藪つか@上野 [2021/10/04]


コシの素晴らしい麺は芸術だ

このように、圧延という過程は「コシ勾配」を形成する非常に精妙な過程である。
「麺を鍛えてコシを出す」というのは間違った認識である。もちろんコシを出すためには圧延は必要だ。しかし強すぎる圧延は簡単に麺組織を破壊することにもなる。

しかしこの絶妙な圧延加減のコシのある麺に出会うと、今日も美味しいラーメンを食べられて幸せだと感じるのだ。ご馳走様でした。

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