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#6 麺の太さと加水率の関係


多加水麺と低加水麺の特徴

麺の特徴で誰にでわかりやすいのは「太さ」であり、その次は「加水率」であろう。
加水率とは、麺を作る時に小麦粉に加える水の量のことである。加水が多めを「多加水麺」、少なめを「低加水麺」と呼ぶ。

多加水麺の特徴

・麺表がチュルチュル滑る。
・モチッとした噛みごたえ。
・麺は軽くウェーブがかかっていたり縮れていることが多い。
・昔ながらの中華蕎麦、喜多方ラーメン、手打ち麺など。

低加水麺の特徴

・パッツンとした噛みごたえ。
・ストレート麺であることが多い。
・麺表はつや消し感があることが多い。
・九州ラーメン、意識高い系ストレート麺など。

この加水率に加えて、細麺であるか太麺であるかという特徴が加わるのだが、ほとんどのラーメンは「中加水・中細〜中太麺」のカテゴリーに入る。

今回は特徴的な
① 低加水細麺(ハズレなし)
② 低加水太麺(満腹中枢麻痺)
③ 多加水細麺(名店率高し)
④ 多加水太麺(最難関)
について解説する。

① 低加水細麺(ハズレなし)

グルテン高めの小麦粉を低加水で仕上げる。低加水のため強い圧延で製麺を行う。

硬めの極細麺にで生まれる疑似コシ

細麺低加水麺であるため、麺の水分勾配(コシ勾配)は形成されにくい。その代わり口の中で何本もの細麺がパツパツパツと弾ける噛みごたえが楽しい。複数の細麺の集合体が一種のコシ勾配(疑似コシ)を形成している。

九州ラーメンで、バリカタと替え玉が生まれた背景

ただし低加水細麺は水分を吸いやすい(伸びやすい)という欠点がある。
このため麺量が多いと後半は伸びて疑似コシが失われる。この欠点を補うため九州ラーメンは麺の量を少なめにして替え玉で麺量を補充する方式が一般的となっている。
またバリカタなど硬めに茹でることが通という文化も、低加水細麺の伸びやすい麺で「疑似コシ」を楽しむ文化である。

千龍@玉名 2022/12/17

意識高い系ラーメンが低加水細麺を採用する理由

九州ラーメン以外に低加水細麺を採用しているケースが多いのはいわゆる「意識高い系」と呼ばれるラーメン店だ。それらのラーメンの特徴は
・インスタ映え
・上品なスープ
である。

凝った上品なスープと、麺線の整った見栄えにはこだわりたいという店主にとっては、製麺所の「低加水細麺」は心強いパーツであろう。

入鹿TOKYO@六本木 2022/06/15

低加水細麺にしておけばハズレなし

まず低加水細麺はストレートのきれいな麺線が作りやすいので、インスタ映えしやすい。
また、低加水細麺は圧延を強くしても、歯切れも良く、また食べているうちに麺の吸水が進むため、「茹ですぎ」にさえ注意すれば、まず失敗しない鉄板の中華麺と言える。

② 低加水太麺(満腹中枢麻痺)

オーションと呼ばれる小麦の風味が強くかつグルテン含有量の多い硬めの小麦粉を低加水と強い圧延で太麺に仕上げている。いわゆる二郎系と呼ばれるラーメンの特徴だ。
とにかく低加水と強い圧延で、硬い太麺に仕上げながら、茹で時間も長めで、麺の外側は充分吸水が進んでいるため麺勾配は形成されている。
このため噛み進めると弾力が増すコシを感じることが出来るが、全体的には硬めの太麺であるため「ワシワシ」という食感で表される。

ほとんど噛まずに麺を呑み込むジロリアン

麺のコシは感じられるが如何せん硬いため、すぐに顎が疲れてしまう人が大半であろう。このためジロリアンの食べ方を観察していると、この硬い太麺をあまり噛まずに飲み込んでいるようだ。

この極太硬麺を口に頬張ると数回噛んだだけで飲み込むため、ジロリアンは二郎系ラーメンを食べる速さが異常に速い。その理由は、噛む回数が少ないため満腹中枢が満腹を検知する前に、通常のラーメンの2〜3倍を胃袋に流し込む食べ方となりやすい。

もみじ屋@明大前 2023/05/30

満腹中枢を虜にする仕組み

二郎系ラーメンは、オーションという風味の強い小麦と極太麺という麺量から、二郎系スープは、この麺に負けない強い塩味強いグル成分で構成されている。
短時間の満腹による血糖値急上昇の快感に、強い旨味と脂身が満腹中枢記憶されてる点が二郎系ラーメンの魅力となっている。


③ 多加水+細麺(名店率高し)

多加水だが細いストレート麺を提供するラーメン店もある。
もし「低加水細麺」で提供すれば、多くのラーメンファンから「コシがあってハズレなし」と太鼓判を押されることがわかっていても、わざわざ柔らかな弾力の「多加水細麺」に挑戦する店もある。

その大きな理由の一つが、店主が「国産小麦でしなやかなコシの麺を追求した結果」であるからだ。

・小麦の風味を追求すると、国産小麦が選択肢となる。
・輸入小麦に比べてグルテンが少なめの国産小麦は加水高めと相性が良い。
・加水高めだと柔らかめの麺になってしまう。
・そのため圧延を強くし歯応えを保つために細麺となる。

この「多加水細麺」の店では「麺の硬めには応じられません」というお店が多い。
「硬いのがコシ」ではない。「しなやかだがしっかりとした弾力があるのがコシ」であることを知っている店主のラーメン店だからだ。

飯田商店@湯河原 2022/04/24

④ 多加水+中太麺〜太麺(最難関)

中華麺の製麺で最も難しいのがこの「多加水太麺」だ。プロの製麺所でもこの「多加水太麺」を提供しているところは少ない。

実際「多加水太麺」を提供するラーメン店の多くは、自家製麺であることが多い。しかし残念ながら、
・しなやかで弾力のあるコシ
・モチりとした快感の歯応え
を両立させている「多加水太麺」は本当に少ない。

くろ喜@浅草橋 2022/12/12

「低加水細麺」は、麺の素人でもそこそこ失敗のないインスタ映えするラーメンを作ることは簡単だ。
しかし「多加水太麺」は、強い麺作りの情熱の店主であったとしても、成功しているケースが難しい。

「高加水太麺」が最難関となる理由は
1,高加水太麺は適切な圧延が難しい(硬いのが良い麺という勘違い)
2,お餅のように粘る歯切れ(風味の良いデンプン系の小麦の採用)
に集約されるが、これはまた別の機会で解説したい。


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