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甘酸っぱい恋の話

「お前、好きなやついるの?」

まっすぐ私の目を見て、その人は聞いた。
心臓が飛び出しそうなのを堪えて、なんとか絞り出した答えは

「好きな人?!い、いないし!!」

私のアホ。
これは絶対フラグだったのに。

後悔しても遅い。
「ふーん」そう言ってその人は部室を出て行った。

夕方の、ちょっと薄暗い部室で2人きり。遠くで野球部の声が聞こえていた。

その人が出て行ってから、さっさと用事を済ませて部室を出る。
なんて答えたらよかったのかな。もしかして両思い?いやそんなことはない。そんなことをぐるぐると考えながら帰路に着く。

高校1年生。今となってはまだまだ子供だけど、突然大人の入口に立ったような、不思議な年齢。

大人っぽい先輩たち、急にメイクをし出した女の子たち。自分たちもあんな先輩になりたい、可愛くなりたい。皆こぞってファッションやメイクを研究していた。

同じ吹奏楽部で
同じパートで
隣の席で

好きになるのに時間はかからなかった。

その人には女の子の幼なじみがいて、その子が毎日べったりくっついていた。
入る隙間なんてないぞと言わんばかり。部活も一緒。


いつの間にかできてしまった歪な三角関係のまま、夏の強化合宿を迎えた。
私と好きな人は、「お弁当係」。早朝に部員全員分のお弁当を玄関まで受け取りに行く係だった。

部活動を終え、ご飯やお風呂を終えた夜。先輩たちは何やら部屋で盛り上がっている。

1年生の私たちはこっそり部屋を抜け出して、まだ見慣れぬ合宿所を探検していた。

誰かが小声を上げた。
「鍵あいてる!!屋上!!」

うわぁっと小さい歓声を上げ、次々に屋上に上がる。
夏なのに夜風は意外と寒くて、少し話したらみんな中に戻って行った。

私と、好きな人と、幼なじみだけが残った。

「ちょっと、寒いね」

「毛布持ってこようか。」

毛布を持ってきて、ごろんと横になった。

空には満天の星。

隣には大好きな人。

私はこの光景を、きっと一生忘れない。

「星…すごいね」

「あぁ。」

「楽しいね、合宿」

下らないことを話しながら、ゴロゴロしていた。そのうち、幼なじみの女の子が眠そうになってきた。
無理もない、午前中からさっきまでぎっちりコンクールの練習をこなした後だ。時刻は2時。

ふと、隣にいる好きな人と手が当たった。
そのまま手を握られる。

心臓が跳ねる。

どうしよう、、すぐ隣には幼なじみがいるのに。
緊張と嬉しさで固まってしまい、手が離せない。

星空、夜風、人の手の温かさ。

どうしようもなく、好き。
初恋はもっと前だったけれど、きっとあれは憧れだったんだろう。こんな気持ちになるのは初めてだった。

気づいたら幼なじみは寝ていて、空は白くなっていた。

「もう寝れないじゃん」

「お弁当係だしな(笑)」

そのままほとんど寝られず朝を迎え、そのままお弁当を取りに行った。

一緒に外に出たら、急に近づいてきて、着ていたジャージのファスナーを上げられた。

「な、なにっ?!」

「胸。見えそう」

ちょっと怒ったような口調。

「あ、ご、ごめん。ありがとう」

お弁当係の仕事も無事終わり、朝ご飯の時間になったが、なんだか胸がいっぱいでほとんど食べられなかったのを覚えている。

その後も何度か思わせぶりな態度に振り回されたが、結局淡い恋は実らなかった。


そんな高校1年生の、なんのオチもない夏のお話。
そんな彼と卒業後に再会して大人な関係になってしまうのは、また別のお話​───────

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