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[実話怪談]ごめんください

これはS子が深夜に体験した怖い話。

その日は夫と二人で夜遅くまで、リビングでテレビを観たり他愛もない話をしてのんびりと過ごしていた。

「あら〜この人一気に老け込んじゃったわね」 

テレビ画面の向こうでは大御所タレントが今話題のグルメを紹介しているところだ。

「お〜そう言われれば老けたな。ちょっと痩せたか?」

夫はスルメをつまみに日本酒をちびちびやりながらそう言った。

S子がふと時計を見ると午前二時を回るところだった。

「もうこんな時間。そろそろ寝ましょうか」

そう言うとS子は台所に行き流しに浸けておいた夕飯の汚れた皿を洗いはじめた。

夫は洗面所で歯磨きを済ませると「じゃあ先に寝るよ。おやすみ」とS子に声をかけると先に寝室へと入っていった。

S子も後片付けを済ませ、歯磨きやスキンケアなどをしてから寝室に向かった。

和室の部屋の真ん中に大きめのダブルベッドがあり、夫は壁の方を向いて先に眠りについているように見えた。

S子もベッドに入りさあ寝ようとした時だった。

玄関の方から中年女性の少し低い声が聞こえてきた。

「ごめんください」

テレビも電気も消えた静けさの中ではっきりと女性の声が聞こえてきてS子はどきりと心臓が跳ね上がった。

寝室の壁に掛けてある時計を見るともう午前ニ時半をちょっと過ぎていた。こんな時間に訪ねてくる人がいるだろうかとS子は不気味に感じた。

ごめんくださいと聞こえたあと、何も物音はしなかったが、玄関の外で突っ立っているようなそんな気配を感じて、S子は怖いと思いながらも訪問者が誰なのか、こんな夜中に何用か気になり起き上がろうとしたその時である。

「出ちゃだめだぞ」

寝ていたと思っていた夫がS子に背を向けたままの姿勢で静かにそう言った。

「こんな時間に訪ねてくるなんておかしい。もし本当に何か理由があって来てるならまた声をかけてくるはずだから」

たしかにとS子は思った。

しばらく静かに様子を伺ってみたが、玄関の方からは物音一つ聞こえなかった。ただ何者かの気配は感じられた。

「外にいるのはこの世の者じゃないから絶対に出るなよ」

霊感のある夫がそう言うのでS子も言うとおりにした。

しばらくするとふっと重たい空気が軽くなったように感じた。

「もう居なくなったな。大丈夫」

夫が静かに言う。

恐怖でなかなか寝付けなかったが、その晩また誰かが訪ねてくるということは無かった。
 
生きている人間だったのか、それとも夫の言うようにこの世の者ではない何かだったのか。

どんな理由で訪ねてきたのか、もしS子が玄関を開けていたらどうなっていたのかなど、考えれば考えるほどゾクッとする出来事だった。




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