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FIREとWPPの両立を目指して


1. はじめに 

 近年、FIRE(経済的自立と早期退職)とWPP(働けるうちはできるだけ長く働き、公的年金の受給時期は繰り下げ、受給時期まで私的年金を取り崩す)の相反する2つのスタイルが注目されています。 

 FIREは主に若年層の憧れであり、脱社畜を目指す資産形成の取り組みです。一方、WPPは長く働き、イデコなどの私的年金を活用しつつ、公的年金の受給を遅らせる戦略です。WPPはどちらかというと中高年齢層の生存戦略であり、差し迫った老後生活への備えのイメージです。 

 一見すると相反する2つの概念ですが、実は両立が可能です。本稿ではどのようにFIREとWPPを両立させるのかについて私見を展開致します。ググってもFIREとWPPの両立に関してはヒットしなかったので認知されていないテーマかもしれませんが、仮説としてお楽しみください。 

2. FIRE×WPPの結論

 最初にFIRE×WPPを組み合わせたプランの概要を記載します。具体的には以下のステップを経ることで実現可能と考えます。 

①経済的独立の達成(FIの達成)
② 生活資金を稼ぐための仕事を辞め(REの達成)
③自身の趣味や関心に基づく活動をする法人を立上げ(Wの実践)
④適度な収入と経費のコントロール、社会保険料の圧縮と節税を実施し(Wの実践)
⑤年金を繰り下げ知力・体力が問題ない限り緩く長くストレスなく働く(WとPの実践)
⑥引退(退職)後に増額した公的年金を受給する(Pの実践)

 上記を段階的に実現することでFIREとWPPの両立が可能です。1と2はFIREのプロセスで3~6はWPPのプロセスとなります。次は各ステップの詳細を確認します。 

3. FIRE×WPPのススメ

 FIREに関しては認知も広まり実現に向け取り組んでいる方も多いかと思いますので一般論は割愛します。FIREは退職が目的ではなく、経済的自立を背景にした職業選択及び労働の自由の獲得が狙いです。退職が前提ではなく、働いても働かなくてもどっちでも良いという労働の自由を得ることがFIREです。 

 FIREとWPPの組み合わせでは最初にFIRE状態を目指すことから始まります。WPPと組み合わせる場合、フルFIREではなくサイドFIREでも特に問題はありません。(心の余裕を維持したい方はフルFIRE可能な資産を準備すると良いです)

 FIRE後のWPP実践の第一歩は自身の法人の設立です。個人事業主でも問題ありませんが、法人の方が各種制度を利用しやすい点からマイクロ法人の設立をお勧めします。このマイクロ法人は従業員の雇用等は想定しておらず一人社長の法人です。 

 WPP用のマイクロ法人では自身の趣味や特技を仕事にします。別に対して稼げなくても問題ありません。最低限の生活費はFIREまでに貯めた資産からの収入で賄います。

 WPP用のマイクロ法人では所得税・住民税がほとんど発生しない範囲で収入を得つつ、法人ならではの制度や控除を活用します。これによって最低限の社会保険料・厚生年金に抑えつつ、一定額の老後資金を確保できます。 

 WPP用の法人では週5フルタイムで働く必要はありません。週2日午前だけでも問題ありません。これがストレスなく緩く働くうえでの鍵となります。

 会社に雇用されている従業員ではありませんので、代表取締役であるあなたは自分の裁量で、気が向いたときに適度に働けばそれで構いません。(客商売の場合は顧客の都合を勘案する必要あり) 

 社畜として働くのは60歳が限界かもしれませんが、自分の裁量で働けるのであれば心身が健康なうちは生涯現役でも苦ではありません。そして知力・体力の衰えを感じたら自身の判断で引退すれば良いのです。これで先程の1~6のステップを実践することになります。 

 格差が叫ばれる状況においては長期的な目線での計画と実行が不可欠となります。上記のFIRE×WPPは理想論に近いかもしれませんが、目指すことで経済的自立・職業選択の自由・老後の安心・やりがいなどを見出せます。 

 無計画で60歳・65歳を迎えるより、20代・30代のうちからライフプランニングを意識して高い目標を掲げることで最終的な到達点はより高くなるはずです。 

WPPのイメージ図

4. LIFE SHIFTとDIE WITH ZEROの実践

 FIRE×WPP生活ではLIFE SHIFT 的なマルチステージの実践、DIE WITH ZEROの思考に基づいた計画的な資産の活用が大切です。FIRE達成後のWPPへの移行はインディペンデント・プロデューサー・ポートフォリオ・ワーカーとしての働き方を意味します。 

 FIRE後の資産管理はDIE WITH ZEROの思考が重要です。FIREは資産を維持しつつ資産の範囲内で生活するためDIE WITH ZEROとは相性が悪そうですが、そうではありません。

 FIRE後も資産運用は継続しますが、同時に資産の取り崩しにも注意を払い、意識的に資産を取り崩すことで最終的には相続性が発生しない程度に調整するイメージです。 

 DIE WITH ZEROは厳密には「ゼロで死ぬ」なので死ぬ際にちょうど資産をゼロにすることを意味しますが、寿命は誰にも分からないことからある程度のバッファが必要です。私はこのある程度のバッファが相続税がかからない範囲の資産と考えています。 

 相続税は3000万円+相続人*600万円で計算されます。よって相続人が2人であれば4200万円までは相続税は発生しません。これに加え、配偶者控除・小規模宅地等の特例・未成年・障害者控除・相次相続控除などがありますので適用される方は非課税額が拡大します。 

 FIRE×WPPにおけるDIE WITH ZEROは相続税制を念頭に各自の状況を鑑み、相続税対象外の財産を生前の長寿バッファとして活用しつつ、計画的に資産を価値あるものに消費します。 

 ライフシフトが登場した2016年時点では概念先行のイメージが強かったマルチステージですが、ようやく現実味を帯びてきました。とはいえ、それは人生100年時代が要因と言うよりはコロナを経ての社会の変化、資産形成意識の醸成など様々な要因が重なり合った結果と言えます。 

ライフシフトのマルチステージのイメージ図

 FIRE・WPP・LIFE SHIFT・DIE WITH ZEROはどれも比較的新しい概念であることからロールモデルの数が少なく、量的な検証に耐えたものではありません。

 よって机上では成立するし、今後の社会変化を鑑みるにそのような方向にシフトする可能性は高いと考えますが実験的な要素を含むことを理解ください。

 現在、FIRE・WPP・LIFE SHIFT・DIE WITH ZEROを実践している方たちはいわば第一世代です。20年後には第一世代の方のライフプランの検証が出来るはずです。 

 これから生まれてくる子供は検証結果を参考にライフスタイルを判断すれば良いと思います。時間的猶予の無い今を生きる大人は何かを得たければ、リスクを承知で新しいライフスタイルにチャレンジする必要があります。 

 日本はオワコンと言われ久しいですが、そのような状況でも個人レベルでは最適解を模索したいと思います。本記事が個人投資家だけでなく社会人全般を対象に広い視点でライフプランニングを考えるきっかけになれば幸いです。

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