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出版社と著者と読者が知恵を持ちよる場、本にかかわる人たちの交差点「ブックフェア・ポトラ」は2月4日に開催です。


出版という世界に入ったのはいまから17年前でした。その頃の出版の世界はいまとはずいぶん違ったよ。

まだ、地方には古い本屋さんが残っていたし、いまほどインターネットが普及していなかった。

わたしがネットから出た最初の作家、というふうに言われていたのは、メールマガジンの登録読者数が11万人いたからで、これは当時(個人としては)、一位か二位だったと思うよ。地方紙の発行部数くらいの登録読者がいた。

ネットでマーケティングして読者を携えて本を出した、そう、考えてみればなかなか最先端のデビューの仕方だ。

いまなら、ネットから話題になるなんてあたりまえだけどね。それどころかネットでコンテンツが売れる時代になった。17年前はまだ、そこまでネットは普及していなかったんだ。

まあ、そんなへんな作家なので、文壇というものからはとても遠かった。ふつう、純文学(これも死語に近いけど)系の新人作家は小説誌の新人賞をとってデビューするからね。いまもそれは、文学の王道だろうなと思う。わたしの場合は獣道を走って来た感じ(笑)

ネットには詳しかったけれど、出版の世界は未知だった。文筆業を職業とする、つまりプロの作家になってみると、文芸ってかなり特殊な世界。

もう、びっくりすることの連続。

編集者と作家って、仕事相手のような友人にような、不思議な関係。

たとえば、わたしは編集者を選べない。出版社の都合で「担当編集者」が決まるのね。そして、出版社の都合で担当編集者が変わる。

担当編集者の異動は年々早くなって、最近だと、半年で「さようなら」なんてこともある。大きい会社ほど人事異動が多いんだよね。

担当者が変わるたびに「引きつぎ」というのがあって、お見合いみたいな感じで新しい担当者と顔合わせ。

「よろしくお願いします」「こちらこそ」「なぜ編集者に?」「大学の時……」って(笑)これを繰り返すの。

みんなとても優秀な人たちだけれど、わたしの作品にさほど興味がなさそうだなあ、という人も担当になる。それは、相手と話をしてみればすぐわかるよね。このシステムに慣れるまで、けっこうストレスだった。

(もしかしたら超売れっ子作家は担当者を選べるのかもしれないけど)

大手の出版社だと一人の編集者さんが40人〜50人の作家を担当すると聞いた。それじゃあ、全員に真面目につきあっていたらカラダが持たないよなあ。

「わたしのことはほっといてくれていいですから」と言うこともあった。だって、テーマに興味がない人と話しているのはお互いにつかれるもの。

編集者さんの話題も、すごくいろんなことに詳しい人もいれば、家族や食べ物の話題が好きな人も。距離感はマチマチ。ほんと十人十色。宗教とか事件とか、核に興味がある私とは、趣味合う人は少ないよね。

書こうとしている作品の題材に興味をもってくれる人と出会うのは、とても幸運なことなんだなあと思った。

小さな出版社は、少し事情が違っていて、編集者の人数も少ないし、一度担当になった人がずーっと担当ってことが多い。

あたりまえだけれど、原稿執筆は一人で黙々と書くのみ。デビューをしたい!と思っている時と、作家になってから「おもしろい作品」を要望されて書くのとでは、プレッシャーがぜんぜん違った。

作家ってのは「長く書き続けられるかどうかなんだなあ」と思った。書かなくなる人がいっぱいいる。たとえものすごく才能があっても……ね。

デビューする前は一人で書く。自分の力だけで作品を完成させる。

でもね、作家というものになった、そのあとの長い時間を、一人でもちこたえるのはけっこう大変なことで、それを支えてくれたのが編集者の方々だった。

それも、どちらかといえば規模の小さい会社の編集者のみなさんだった。担当が変わらないってことは、とても安心できたんだ。

たとえ仕事をしていなくても、たまに会ったときに「このあいだの作品は……」と感想を言ってくれるのがうれしかったし、とっても励みになった。

なのにここ数年、小さいけれど良い本を出してきた老舗の出版社が倒産したりして、うわー!あそこが潰れるのかって、とっても残念だった。

私は本が好きだから作家になったと思う。本が嫌いで作家になる人はいるのかな。わからないけど、あんまりいないんじゃないかな。

でもね、会っても、本や文学の話しをしない編集者さんは、わりと多いの。

「最近、おもしろい本ありますか?」って聞いても「ゲラ以外に読む余裕がないからなあ」って。なるほど、ゲラ読みは大変だものなあ。

こういう傾向はどんどん進んできていて、大手の編集者さんはとっても大変そうだ。会社の「売れる本を」という要望が以前よりきついんだろうと思う。

読書家で本が大好きで、本をつくりたくて出版社に入った人が、まったく別の部署に配属になる、ってことも多々ある。あー、あの人はあんなに本を編集したくて入社したのになあ、って。会社員は厳しいね。

17年間でたくさんの編集者の方、出版社さんにお世話になった。こうして作家をやっていられるのは、版元さん、編集者さんと、読者のみなさんのおかげだなあ、としみじみ思うようになった。

特にいま出ている新刊「逆さに吊るされた男」は、担当編集さんが4年間黙々と伴走して、助けてくれて、版元さんには4回も校閲を入れていただき、もうもうお世話になりっぱなしの作品で、自分一人では絶対に出せなかったと思う。(河出書房新社さん、ほんとうに感謝です。)

ちょっとバブリー感が残る時代に作家になったから、いつのまにか本を売るのは出版社におまかせでいいと思ってきた。作家はただ書いてりゃいいんだって。

おいおい、ちょっと待てよ。そもそもわたしは、じぶんでマーケットを作ってデビューしているのだから、もっと自力で読者とつながる工夫をしたほうがいいんじゃないか、と改めて思うようになった。

出版不況って言われてるけど、実はいろんな可能性が広がっている。もしかして今こそ、新しいことを起こすチャンスなんじゃないか?

出版の世界に違う風が吹いているのを感じる。この風は、どこに向かっているのかな、でもこの風はいい感じだ。

お金がかかると思われていた本づくりだけれど、いまは編集ソフトでゲラまで作れるし、印刷コストの低減や、出版コードが取りやすくなったこともあって「出版社」をつくりやすくなった。

そんなに大ヒットを出さなくても、好きな本を地道につくりたい、という「ちいさな出版社」が増えて、いろんな本のつくり方を思考錯誤し始めた。

本が好きな人は、なんとかしてじぶんの好きな本をつくりたいんだよね。その気持ちめっちゃわかる。

そりゃあ、本はヒットしたらたくさんの人が読んでくれる。

でも、どうだろうか。みんなが必要としている本ばかりでは、誰かを見捨てていないかな。

たとえば私の小説は、読むとめっちゃ痛いよ。たぶん、かなり精神的に苦労した人しか読みたくないと思うよ。

そもそもデビュー作が「ひきこもりで自殺した男」を題材にしていて、なんでそんな暗い小説が売れたのか、今となっては謎だもの。

人によっては「読んでいて気持ち悪くなった」とか「不愉快で最後まで読めなかった」と言う。うんうん。そうだろうと思う。

そういう人は読まなくていいんだ。私が書いているのはとっても辛い目にあった人が、あーじぶん辛かったんだな、同じように辛い人がいたんだな、って思ってもらえるような話だからね。

全員が「納得できて感動しちゃう」必要なんかないわけだよね。

市場は小さくてもだれかが必要としている本があるはず。それを、必要としている人にどうやって届けたらいいか。今ってこんなにすごいネットワーク時代なんだから、きっと工夫できるはず。

そういう「思い」を共有してくれる編集者、出版社の人たちと一緒になにかしたいなあと思った。いままでさんざんお世話になってきたから。恩返しをしたいという気持ちもあった。

小さな出版社は、みんな資金繰りは大変だよ。宣伝だって新聞広告にドーンとなんて載せられない。

人手がないから「書店営業をしたことがありません。営業が苦手です」という出版社さんもいた。びっくり。

でも、営業しなくても、本が売れてるってすごくないですか? 必要としている人がいるってことだよね?

ブックフェアって、出版社や書店が企画することは多いけれど、作家が企画するってことはあんまりない。わたしは、一緒に売ることを考えたい。どうやったら、本を、必要な読者まで届けられるか、そのためにいろんな人と会って、直接に話しがしたかった。

ネットに長くいるから確信している、ネットっていうのは顔を合せてなにかするための道具。人間同士が直接つながって信頼関係をつくることが一番の早道なんだって。

なにより仲間がいると励みになる。本が好きだから。本の好きな人と本の話しで盛り上がりたい。情熱を持ち続けるために。書き続けるために。

今回の「ブックフェア・ポトラ」は、デビューした頃から担当編集者として本をつくってくれて、とってもすばらしい(心から尊敬する)本づくり人の丹治史彦さんと井上美佳さん、そして、元ダ・ヴィンチの編集長でいまは一人出版社「上丿空」の横里隆さん。同じく、1.5人出版社「地湧社」の増田圭一郎さんと実行委員会を作って準備を始めました。

「ちいさな出版社」は、いま、それぞれにいろんな取り組みをして、本を流通させる方法を模索しているのだけれど、その牽引役ともいえるのが「トランスビュー」という会社です。

だから「トランスビュー」さんの参加が決定したときはとてもうれしかった。みんなに「トランスビュー」さんのお話しをシェアしたかったからね。

出版の新しい流れをつくっているトランスビューの工藤さんと夏葉社の嶋田さんの対談は、ぜひ、これから「ひとり出版社」をつくる人たちに聞いていただきたいです。

「ちいさな出版社のつくり方」「これからの出版の流れ」
「世界市場へ向けての取り組み」
いろんなお話(知恵)を持ちよります。

「ポトラ」では、小さな出版社が本をつくり、どんな努力をしながら、それぞれに本づくりを楽しんで(苦しみつつも)いるのか、顔を合せて情報交換ができたらいいなと思っているよ。

そしてね、いろんな出版社さんが持ちよった本を、読者のみなさんに知ってほしい。ブースでは出版社さんが直接に本を売るんです。なんでも質問していいからね。

ほんとうに開催できるのかな? 出版社のみなさんはこんな企画に参加してくれるだろうか? 資金ゼロからの出発で夢みたいな話だった。

企画に協賛してくれた「日本ダウジング協会」そして、全面協力してくれた「桜神宮」さん、「興和サイン」さん、「メタ・ブレーン」、さらに全国から集まってくれた30人以上のボランティアスタッフのおかげで、この企画は、なんと実現しました。

「ポトラ」は2月4日(日)に開催します。

16社の出版社さんが出展します。詳しくはサイトをご覧くださいね。参加出版社のリスト、本の紹介、そしてイベントの申し込み方法などがアップされています。

「みんなで知恵を持ちよる本のお祭り ポトラ」


■以下にポトラのイベントを紹介

作家の津原泰水さんが全面協力!「小説講座」を担当してくれました。津原さんの小説講座、テキストまで用意してくださって感激です。

文筆家・南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)さんが、日本中のおもしろい本屋さんを紹介する、本屋さん探検講座もあります。

徳島からアアルト・コーヒーさんが自家焙煎のコーヒー持って参加してくれます。

禅僧の藤田一照さんが、応援講演に来てくれます。

ダウジングの講習会もあります。

女優の宮崎ますみさんが、屋台でママをしてくれます。
(ますみさん、男前サイコーです。ありがとう)

本が好きな人、本を書きたい人、本にかかわる仕事がしたい人、ひとり出版社をつくりたい人、ぜひ「ポトラ」に遊びに来てください。

読んでくださってありがとう。



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