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『蜂の物語』レビュー

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『蜂の物語』

ラリーン・ポール(著) / 川野靖子(翻訳)

🐝

果樹園にある蜂の巣で、フローラ族の蜂として生を受けたフローラ七一七が主人公。サルビアであったりサクラであったり、普通は花の種類で属名が決まる中、フローラ族というのは花の名も持てない最下層の種族名です。

最上位の女王を崇め奉り、決して覆ることのないカースト。
種族と役割で厳重に管理される蜂社会は、労働を称える教理で完全に支配されています。

”怠惰は罪”
”不和は罪、強欲は罪”
”受け入れ、したがい、仕えよ”

そして

『”フローラ族は蜂蜜を作ってはならない、なぜなら清潔でないから。蜂蠟(プロポリス)も作ってはならない、なぜなら不器用だから。まして餌を集めてはならない、なぜなら味覚がないから。フローラ族が巣に奉仕できるのは清掃によってのみ、そしてフローラ族には誰もが労働を命じることができる”』

衛生蜂といえば聞こえは良いですが、他者の排泄物や死体の運搬、清掃、そして上位族へ絶対服従を義務づけられ、口ごたえなど種族的にありえない(通常、喋れない)、絶対的に虐げられる運命の種族です。

しかし、本書の主人公であるフローラ七一七はほかの蜂とは異なっていました。

浅黒く醜く、頑丈で大きな身体で生まれた彼女は、言葉を喋れただけでなく、本来は絶対あり得ないハズの育児室の世話をしたり、働きバチとして様々な仕事を転々とします。
花蜜を集める外務にまで精通した彼女は、やがて……。

🐝

というかんじのストーリー。

とてもリアルに描写される蜂の生態・社会にまず度肝をぬかれます。
働きバチって、メスばかりなんですよね。「シスター・〇〇」、と花の属名で呼び合う乙女たちの世界。
そして厳格な教理と種族格差に基づく管理(&監視)社会でうごめく陰謀、権力争い、妬みや嫉妬、反逆、友愛。
もちろん人間の読者向けにかかれていますので人間風にアレンジして描写されているわけなんですけれど、あの小さな蜂の巣の中でこんなドラマがあったなんて。ほんと驚きの数々。虫の社会すごいです><

雌雄の役割や女王蜂の産卵、子育てなんていう、かつて教科書や虫の図鑑で知ったことが、まさに蜂の視点のエピソードで描かれるので、読めばすぐ蜂の巣の中の生活にどっぷりと入り込むことができます。これはもうちょっとした異世界譚です。(でも実は身近にある世界だっていうのもよいですね)

そして、フローラの身と、巣に次々を襲い掛かる危機の数々。スズメバチとの死闘や採蜜飛行のスリル満点な描写。虫たちの空中戦(!)などなど。
蜂の巣を舞台にしたシンデレラ・ストーリーかと思えば、なんだかスターウォーズやマクロスめいた展開にもなるので、男性の読者にも面白いかも!

(背中の羽根ってエンジン駆動らしいですよ??w)

実際、SFファンに評価されているようで、海外の書評をみると、マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』ばりの『蜂の物語』! なんて評されていました。

とうのマーガレット・アトウッドさんご本人もTwitterで

みずみずしいキーツ風の形容詞に満ちた、奇妙に心をつかむ ”シンデレラ/アーサー王”物語  (昆虫学ではないけれど、楽しいです。)

なんてふうにつぶやいてますねw
なるほど、アーサー王物語っぽいと言えばそうかも? さすがですw

著者のラリーン・ポールさんはイギリスの作家で本作がデビュー作とのこと。緻密な蜂の世界の描写がとても魅力的でしたが、次回作はなんと海の中、イルカの話だそうです。これも期待ですねー☆

いま、ミツバチって都会ではなかなか見かけなくなってしまっています。世界的に絶滅危惧寸前といわれていて、彼女たちが居なくなったらは多くの植物は受粉できず、めぐりめぐって人類もヤバイんじゃ? なんて噂されている虫たちです。本書は別に学習本じゃあないですけれど、こうした物語で彼女たちの世界をちょっと覗いてみて、興味を持つのはとても良いことなのではないかなとおもいました。知的好奇心を満足させるドキドキのストーリーです。羽根の生えてない人類にもおすすめです🐝

―――

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784152100283


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