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メモ処理の種別2 / 知的な営みへのアンビバレントな思い / 忘れるはずのないもの

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2024/05/06 第708号

はじめに

Knowledge Walkersにて、最近の倉下のObsidianの使い方を紹介しました。

◇zenSidian | Knowledge Walkers
https://knowledgewalkers.com/?zenSidian

「使い方」と書きましたが、前半は設定・環境構築の解説になっています。

単純に「運用」だけを真似する場合、こうした設定は不要なのですが、そもそも「見た目」を重視した結果として生まれた運用方法なので、頑張って設定方法を紹介しています。なので前半は読み飛ばしても大丈夫です。

で、思うのですが、Obsidianはいろいろなことができるツールですし(Emacsに似ています)、実際にマニアックに使い込んでおられる方もたくさんいらっしゃるのですが、そのやり方をそのまま真似するのはいささかハードルが高い。

特に「リンクを重視したデジタルツールを使うことに慣れていない」「そこまでハードな知的作業を求めていない」人にとっては、「こんなやり方でバンバン知的生産をしていますよ」というノウハウはトゥーヘヴィーです。

なのでむしろまったく逆に、ほとんどのObsidianの機能を使わず、リンクベースのデジタルノートの使い方だけをより強く体験できる方法として「zenSidian」を提唱してみました。

本当にシンプルに使えるので、ややこしいことが苦手な方にはお勧めです。

〜〜〜AI編集者〜〜〜

講談社現代新書の企画がTwitterで盛り上がっておりました。

◇AI編集者とつくろう!わたしの現代新書|講談社 現代新書 創刊60周年

書名と著者名を入力すると、それっぽいコピーと共に表紙をデザインしてくれるサービスです。でもっておそらくそのコピー作成に生成AIが使われているのだと想像します。

で、一度やってみるとわかりますが、この「AI編集者」はなかなかのやり手です。いかにもそれっぽいコピーを作ってくれます。単純にその出力だけみれば「人間編集者不要」説が出てくるかもしれません。

たとえば私が「Twitterは死なない」というタイトルで本を作ったとき、案の一つとして、「不死鳥か。ただの青い鳥か」というコピーを提案してくれました。ツイッターの(かつての)アイコンが青い鳥であり、「死なない」というフレーズからの連想で不死鳥が出てきたのでしょう。見事な発想です。

ただ、ちょっと惜しい。

もし私が手直しするなら、「不死鳥か。それとも青い鳥か」にするでしょう。「ただの」というネガティブな表現を削るわけです。そうすることで、青い鳥のもう一つのイメージ、つまり、メーテルリンクの『青い鳥』との連想をつなげやすくなります。

そうすると、死してなお何度でもしぶとく蘇る存在なのか、それともさまざまな体験をしたことで大切なものがようやくわかった(そしてそれは手元にあった)という話なのか、という別の軸が立ち上がってくるのです。

その軸が立つことで、さまざまな機能拡張を目指すイーロン・マスクと、Twitterに対抗して作られたさまざまなSNSサービスを巡る旅のスタートが切れます。

という具合に、フレーズの一部分を手直しするだけで喚起されるイメージがけっこう替わってきます。その機微を調整するのが、著者であり編集者という存在でしょう。

一つの言葉からさまざまに出てくる連想とイメージ。それらを「多重」に重ねる仕事は、まだ人間の領域なのかもしれません。

〜〜〜考えることと時間〜〜〜

最近「考えること」がたくさんあるのですが、考えるという行為には時間と精神的余裕が必要なので、レシート処理のようにばったばったと切り倒す、のようなことができません。

それで結構困ったな〜と思っていたら、finalventさんから以下のツイートをいただきました。

私は「教えを素直に受け取ろう」マインドセットを育んでいるので、実際にやってみました。

◇ぼけーっと法 | 倉下忠憲の発想工房

うん。悪くありません。すべての「考えること」がまるっと解決したわけではありませんが、一定の落ち着きは得られた気がします。単に書くだけでなく、「書き並べる」ことに効果があったのでしょう。

というわけで、しばらくはこのスケッチブックを机の上に立てて置こうと思います。で、何か思いついたら追記するという運用でやってみましょう。

〜〜〜自己啓発書を巡る言説〜〜〜

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本では、自己啓発書を読むのはあまりよくないよ〜というニュアンスのことが書かれているのですが、その手の本をよく読んでいる人間としては複雑な気持ちがあります。

たしかに一部の本は人を閉鎖的な精神性に追い込む内容が書かれているでしょうし、一部の人は見知った領域から抜け出ないためにそうした本を読んでいることもあるでしょう。

でも、それがすべてではないはずです。

本にもさまざまなものがあり、人と本の関係も多様です。「自己啓発書はノイズがないからダメ」と一緒くたに切り捨てるのはあまりに乱暴な手つきに感じます。

実際、自己啓発書を読むことで、心理学・経営学・経済学に興味を持つこともあるでしょうし、何かしらの小説や古典に手を伸ばすことも「絶対にない」とは言い切れないはずです。

だからもし自己啓発書の内容に問題を感じているのだとしたら、「こういう本も読むと面白いかもね」と言ってくれた方がはるかにハッピーです。

皆さんはいかがでしょうか。自己啓発書・ビジネス書はよく読まれますか。あるいはよく読まれていましたか。そして、今はどんな感触をお持ちでしょうか。よろしければ、倉下までお知らせください。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は、メモ論の続き、知的な営みへの心情、デジタルツールとの付き合いについてお送りします。

メモ処理の種別2

前回に引き続き、メモの処理について見ていこう。

復習をかねて、私たちが書き留めるものの類型をもう一度列挙しておく。

・スケジュール/計画
・思い出/日記
・しなければならないこと(タスク・プロジェクト)
・業務日誌/作業記録/行為の結果
・忘れたくない情報(備忘録)
・資料(専門知識/非専門知識、短期/長期)
・打ち合わせ/取材メモ
・引用/名言/好きな言葉
・目標/クレド
・読書メモ/勉強ノート/各種感想
・アイデア/思いつき
・草稿/下書き/アウトライン
・著作目録/ポートフォリオ

こうしたものに潜む「処理」を取り出していこう。

■2.転記

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