見出し画像

チェックボックスの自由、不自由から見えてくるもの

チェックボックス機能を持ったデジタルツールは結構あります。

基本的に、四角の状態でクリックすればチェックマークがつき、もう一度クリックすればチェックマークが外れる、という非常にシンプルな動作です。別の言い方をすれば、チェックマーク的なものの機能を抽象化・モデル化したとものと言えそうです。

で、このチェックマークにも、大きく二つの表現があります。一つは、行頭に必ずつくもの。タスク管理ツールでは一般的ですね。もう一つが、どこにでも挿入できるもの。これはノートアプリに多いタイプです。

でもって、前者の場合は自動的にチェックボックスが挿入されるか、一度作成されたら次行から自動的に挿入されるかのパターンで、後者は任意のショートカットなどで自分で挿入していく、という形になります。また、後者であっても、行頭にチェックボックスがある場合に限り、次行から自動的に挿入されるものもあります。ハイブリッド型です。

さて、実はこれだけです。これだけなのです。

デジタルツールの、チェックボックスは、これだけの表現しか持ちません。本当に、皮肉でもなんでもなく、「オン・オフ」しかないデジタルなのです。

手書きのグラデーション

一方で、手書きのチェックボックスは表現が多彩です。

たとえば、以下。

新しい手帳で始めるバレットジャーナル④ 分類のためのKey

あるいは、以下。

Patrick Rhone » The Dash/Plus System

正確には「チェックボックス」とは言えませんが、ある項目に対する操作方法の表現は、無数にあります。たとえば、アナログのチェックボックスなら「半分だけ塗りつぶす」ということで進捗割合を表現できますが、デジタルのチェックボックスではそれができません。項目に対する操作は、「やった」か「やっていない」かの二通りしか取れないのです。

もちろん、二種類しかない方が話は単純です。「チェックしたものは実行済みだし、チェックされていないものは実行されていない」。このような環境であれば、おそらく認知的な負荷は小さいでしょう。それはそれで一つの目指すべき形なのかもしれません。

しかし、灰色の状態が扱いにくい、という問題は依然として残ります。あと、チェックボックスを付けるのはふさわしくないけれども、タスクと一緒のスペースに置いて検討したい項目、というのもそのツールには載せにくい問題もあります(この辺はアウトライナーが結構得意です)。

で、手書きのポイントは、単に表現できることが多い、といことではありません。というかです。デジタルツールだって最大級の根気があれば、表現を増やすことはできます。自分でプログラムを書けばいいのです。でも、なかなかそれは難しいですよね。

一方で、手書きならば、「こういうマークを使おう」と思ったら、即座に実行できます。何かしら合わない部分があったときに、簡単にカスタマイズしやすいのです。

もちろん、その代わりに、手書きでやってしまえば大部分の自動化要素は失われてしまいます。それが多大な効率化の損失を招くこともありえるでしょう。

しかし、です。

その効率化の損失を踏まえてなお、表現したいことと表現できることのズレがあるならば、手書きという選択はありえるかもしれません。あるいは、せっせとプログラミングの勉強をする、というのも一つの選択ではありますね。

本来付けるべきでないもの

表現が限られている、というのは、ようするに「使える言葉が少ない」状態を意味します。常に、「やるかやらないか」を突きつけられている状態なのです。

だから私は、普段のタスクマネジメント全般で、タスク管理ツールを使いません。もう少し言うと、自動的に項目にチェックボックス機能を挿入してくるツールを使いません。

もちろん、扱いたい対象が非常に限定的なものならば、話は別です。たとえば、切迫した状況で確定申告を進めようとしているならば、必要な手順を上から下にこなしていくしかないのですから、そういうのをツールに放り込んで、一つひとつチェックしていくのは全然ありです。

でも、そういう状況でないのなら、とりあえずタスクになりそうなものを書き留めておき、そこでいろいろ考えた後で、タスク化の選別を行いたいと思います。が、そういう表現を持たないツールだと、これが結構心理的にしんどいのです。なにせ入力した項目は、すべて「やるかやらないか」状態なのですから。

その点を考えるなら、もし私がタスク管理ツールを自分で作る場合には、〈inbox〉に入っているものに関してはチェックボックスを自動的に追加しない仕様にするでしょう。「2分でできる」や「ネクストアクション」として、自分が認識したものに限り、チェックボックスを付けるようにすると思います。あるいは、どうしてもチェックボックスを付けざるをえないなら、〈inbox〉に入っているものには、自動的に「〜〜について考える」という文言を追加すると思います。〈inbox〉の処理って、つまりはそういうことなので。

でもって、こういうことが、「やるかやらないか」以外の言葉(表現)を手にする、ということです。

で、言葉を、概念をたくさん手に入れていると、こういうことについて考えられるようになります。

さいごに

ここまでの話だと、いかにも手書きの方がいいよ、という風に聞こえますが、別段そういうわけではありません。単に異なる表現を必要とした場合に、すぐさま実装しやすいのが手書きというだけのことです。デジタルツールが用意している表現で事足りるならデジタルツールでもぜんぜんまったく問題なく使っていけるでしょう。

ただ、デジタルツールの場合は、あらかじめお膳立てがしてあって、使える表現が選りすぐられており、それを増やせる見込みが小さいだけでなく、その表現だけで考えてしまいがち、という問題はあります。

デジタル麻雀で小牌することはできませんし、デジタル将棋で盤をひっくり返したり、相手に駒を投げつけたりすることもできません。できません、というよりも、そういう選択肢はあたまに上らないでしょう。コマンドの中から選ぶ、という感じに思考がなるわけです。

もちろん、先ほど書いたように、管理対象がすべて「やるかやらないか」な状況であれば、それはそれで問題ないでしょう。が、そうでないならば、一度チェックボックスが自動的につかないツールで「考えてみる」経験をするのは結構いいかもしれません。そういう風には思います。

※この記事はR-styleに掲載した記事のクロスポストです。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?