電子書籍のインパクト #burningthepage

本は死なない』の第14章「グローバル化」より。

そう考えると電子書籍の登場は、本の歴史の中で、印刷技術の発明に次いで現れた2回目の波と言える。この2回目の波は、グーテンベルクが巻き起こした1回目の波よりも規模が大きい。

これまでいろいろなところで、私も同じことを書いてきました。「電子書籍革命」は間違いなくグーテンベルク以降最大の変化の波になります。グーテンベルク以上の功績と言えるかどうかはわかりませんが、規模が大きいことはたしかでしょう。

ざっと挙げてみるとポイントは4つあります。

・新しい技術の導入
・製作コスト・参入コストの低下
・運搬コストの低下
・自動翻訳の可能性

新しい技術の導入

紙の本が電子書籍に変わることによって、廃れる技術も当然あります。装丁に関するものが代表例ですが、それ以外のものもあるでしょう。そこでは、「本」に関する表現の幅が狭くなってしまいます。

が、その代わりに、音声・動画といったものが使用可能になり、さらに、一冊の本で章の並び方を変えられたり、他の読者の感想が本の「レイヤー」の上に載せられる、といったことも実現不可能ではないはずです。

新しい技術と共に、表現の幅も増えていきます。当然、その技術は現代のITと密接に結びついているので、ITの進化が止まらなければ、電子書籍の進化もまた止まらないでしょう。

製作コスト・参入コストの低下

グーテンベルク以降では、出版が産業化しました。ある程度資金を持つ人であれば、誰でも参入できるようになったのです。電子書籍は、それをさらに低下させます。

多様化はイノベーションの源であり、そこからまったく新しい「本」が生まれてくることが考えられます。それはフォーマットであったり、表現形式であったり、ジャンルであったりと、領域はいくらでも考えられますが、これまでの商業出版だけでは生み出されなかった何かが生まれてくるでしょう。

グーテンベルク以後で、世界中に生まれた本の多様さを思えば、電子書籍による製作・参入コストの低下は、さらなるバラエティーの扉を開けてくれることが期待できます。

もちろん玉石混淆感がますますアップするので、それを選り分けたり、リコメンドするシステムの進化もまた必要になるでしょう。

運搬コストの低下

一応紙の本は軽いので、世界中どこに向けてでも低コストで運ぶことができます。が、電子書籍ならネットの通信費だけですね。ある国で生まれた固有のコンテンツが、ますます世界中で読まれる可能性が出てくるのです。

それは翻訳とも関係してきます。

自動翻訳の可能性

電子書籍の自動翻訳は実現できる可能性があると思う。

本当に自動翻訳が可能なのかはわかりません。文芸作品は相当に難しいと思います。ただ、それ以外のインフォメーションやノウハウを伝えるものであれば、最低限の「読み物」は作れるようになるかもしれません。

むしろ私は、機械による自動翻訳を前提とした、文章の書き方というものをライターが身につけるようになる将来をイメージします。たとえば、siriに話しかけるときに、早口ではなくゆっくりと、明瞭に発音することがありますね。基本的なコンセプトはそれと同じです。

翻訳が一定のアルゴリズムに沿って行われるのであれば、それを意識した文章の書き方は成立するでしょう。プログラマが、プログラミング言語を使ってコンピューターに命令を伝えるように、自動翻訳作法に則った文章の書き方が生まれてくるのではないでしょうか。

それが可能になれば、言葉通り、どこかの国で生まれたコンテンツが世界中で読まれるようになります。

今でも、翻訳は盛んですが、特定の国の作品はあまり翻訳されない、みたいな事情はやっぱりあるでしょう。そういう制約から解放されるのです。

電子書籍の普及が、商業的にどのぐらいのインパクトを与えるのかについて、実は私はあまり興味がありません。

それよりも、世界レベルでの情報交流がどのように変化するのかが気になるのです。で、電子書籍の本当のインパクトはそこにあると考えています。つまり、商業メディアとしてみた「本」ではなく、人類が持つ文化活動としてみた「本」に、電子書籍は強い影響を与えるのではないか、と考えています。

これはたいへん興味深いテーマです。

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