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電子書籍が変えるもの、残すもの #burningthepage

『本は死なない』の「はじめに」より。

最初に確認しておきたいのは著者について。

著者はAmazonのキンドルプロジェクトに参加していた人間であり、紙の本をこよなく愛する人間でもあります。まず、これを押さえておくのが、本書を読み込んでいく上では大切でしょう。

片方では、紙の本への愛着があり、もう片方では、新しい技術が感じさせる未来もある。その狭間で絞り出されてきた著者の思考は、話題性をかっさらうために極端なことを言う、という方向には飛んでいません。私たちの日常的な読書体験、というものを土台にして話が展開されていきます。

ろくに本を読まない人間が語る「読書の未来」や「電子書籍について」は、実体と呼べるものが欠片も存在しないものが大半ですが、本書の著者はキンドルプロジェクトに関わった人間という前に、一人の本読みとして思考を繰り広げています。ある意味では、リアルなお話なのです。

それを踏まえた上での以下の箇所。


 いまやキンドルは大きな唸りを上げながら、世界中で読書熱を再燃させている。

まず、実体験のお話をしましょう。

私は高校生ぐらいまではかなりの漫画好きで大量に集めていました。たぶん1000冊ではきかなかったと思います。しかし、一度引っ越した際に、ほとんど全ての漫画を処分しました(させられました)。

それ以降、もう漫画は買わないでおこう、と思い人生を寂しく送ってきました。大量の本を処分することほど悲しいものはありません。長年付き合ったペットとの分かれと似たようなものがあるでしょう。

それからは漫画を読みたくなったらネットカフェに駆け込む、という生活を送ってきました。

でも、KindleがiOSで使えるようになって、ポツポツ漫画を買い始めるようになりました。まだ、以前ほどの勢いはありません。でも、たしかに我が家(実際はクラウド)に漫画本が増え始めたのです。

最初は『日常』、次に『サラリーマン金太郎』、そして『Fate/Zero』や『僕だけがいない街』……、今後も漫画本は少しずつ増えていくでしょう。漫画熱がKindleによって再燃しているのです。

そういうお話は、もしかしたら珍しくないかもしれません。

本好き・読書好きの人間が願うことは何でしょうか。

ひとつには、自分が読書を楽しめること。それがベーシックにはあるでしょう。でも、それだけではないはずです。

おそらく、本の文化を守るということもそれなりにあるのではないでしょうか。なぜならば、本の文化そのものが「継承」を体現しているからです。自分が著者から受け取ったもの。それと同じようなものを、次の世代も受け取って欲しいと願う。別におかしい話ではありません。

有川浩さんの『図書館戦争』では、表現の自由についての争いが描かれていますが、図書館を守ることは、たんに同時代における情報のアクセスを守ることだけを意味しません。次の世代、その次の世代に本を残すという意味もあります。

そのコンセプトをどんどん蒸留していけば、本の骨格はさほど重要ではなくなります。本に書かれている情報が受け継がれていることこそが、真なるコンセプトなのです。

もちろん、できるかぎり本の骨格も残しておきたい。そう願わずにはいられません。本好きならば、表紙の美しさや装丁の存在感も、本の魅力のうちに含めるでしょう。でも、そうしたものを作るためのコストが、徐々にペイできなくなりつつあります。

さらに本の数が増えれば増えるほど、物理的な本を保存しておくためのコストも上がります。なにせ人類にとって地球は狭いのです。

だから、もし本に関する何もかもが失われるような事態が訪れてしまうのだとしたら、私たちは何かをノアの箱船に乗せなければいけません。それは何なのかを考えてみると、やはり本に載せられている情報、ということになるでしょう。

そのひとつの答えが、電子書籍です。

もしかしたら、その未来像はあまりにロマンがないように感じられるかもしれません。

でも、電子書籍によって、新しい読書体験が生まれるかもしれません。必ずしも悲観することだけではないのです。そして、新しく生まれる読書体験には、新しいロマンがあるかもしれません。

そのロマンについて、これから『本は死なない』という本と共に読み解いていきたいと思います。

(続く)

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