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出版の分散と集約 #burningthepage

本は死なない』の第11章「出版業界の革命的変化」より。

印刷技術が開発されてから間のない頃は、グーテンベルクのような人物が3つの役割をすべてこなしていた。

この3つの役割とは「出版社・書店・作家」のことです。

印刷や装丁を手がけるだけでなく、事前予約を行ったり印刷後にお得意客に配本したりといった販売業務を行っていたわけです。さらに、他の作品を再翻訳したりするなど著述業に近いことも行われていたそうです。

「出版業」の黎明期にはひとり、あるいはごく少ない人間だけで、その業態が運営されていたのでしょう。おそらく「本」の人気が高まり、市場規模が拡大するに従って、それぞれの仕事を専門で行う人が出てくるようになったのだと推測します。ようするに、その仕事で「食える」ようになっていったわけです。

このあたりのお話はアレッサンドロ・マルツォ・マーニョの『そのとき、本が生まれた』が面白く読めますので、ご興味あればどうぞ。

で、電子書籍の登場によって、上のように分化していったものが再び一つになろうとしている、と著者は指摘します。

それはセルフパブリッシャーの登場__でもあるのですが、それ以上に販売店の拡大という文脈で語られています。たとえば、Amazonですね。

Amazonは広い目で見れば「書店」ですが、KDP作家からみれば、「出版社」でもあります。KDPサービスを使えば、通常のファイルから電子書籍ファイルを作成することができ、それはつまり「出版技術」を彼らが有していることを意味します。電子書籍における「出版技術」です。

そもそもすでにAmazon主導での本作りも行われており、逆に出版社が販売サイトを持っていることも考えれば、この両者は明確な線引きがしにくくなっていることはたしかでしょう。

そして著者はさらに思考を一歩進めて、Amazonなどの販売店(販売プラットフォーム)が、もっと直接的に著述の分野に参入してくる未来も予想しています。Amazon専属作家、Amazonの社員ライター、といったものです(実際はもっと複雑な形になるでしょうが)。

著述業そのものがやがて企業の資産の一部に組み込まれ、グーテンベルクの時代は出版社がその役目を担っていたが、今度は書店が出版、著述、販売の3つを掌握することになる。出版業界のバランスが変わっていく中で、テクノロジーに最も精通している者が勝者となるのは間違いないだろう。

テクノロジーが重要な点は間違いありません。でも、高度な技術を持っているだけでは仕方がないこともたしかです。

グーテンベルクの時代では、出版に関する技術が専門的なものでした。だから、その技術を持っている人が中心になったのです。

しかし、現代の電子書籍における出版技術は(もちろん高度ではあるものの)、かなり簡易化され素人でも少し勉強すれば手を出せるレベルにまでなっています。ここが直接的な差別化になるとは思えません。

むしろ、Amazonのワンクリックによる購入という仕組み(&特許)のように、販売に関わるテクノロジー、あるいは読みたい本を探してくれるテクノロジー、さらには読者同士が交流する仕組みを生み出すテクノロジー、といった出版に関わる技術以外の分野に鍵があるような気がします。

そしてそのことが、これからの出版業界の中心が出版社ではなく、販売店になっていくだろうとう予測を支えます。販売に関するデータ(それもビッグデータ)を持っているのは販売店なのです。そのデータを、テクノロジーの利用に反映させられるという点で、やはり販売店には強みがあります。

逆に、出版社も独自のプラットフォームを持ち、その利用者を増やせるようなテクノロジーの利用ができるのならば、十分ゲームプレイヤーになれるでしょう。

そうした業界全体の動向とはまったく別に、セルフパブリッシャーは特定のプラットフォームに依存しないことも重要です。むしろ、小さいながらも自分のプラットフォームを持つことが生存戦略になっていくでしょう。

たとえば、私の場合であればブログやメルマガがあります。だから、急にAmazonから取り扱い中止の予告を受けても、「じゃあ、楽天koboで販売しますからよろしく」とブログで告知すれば、致命的な状況にはなりません。

もし、プラットフォームの人気だけで販売していたのならば、悲惨な結果になってしまうでしょう。そういうリスクは避けたいところです。


少し遠い未来では、いくつかの大手プラットフォーマーがどんと存在し、その周りに零細セルフパブリッシャーと、編集やプロモーションといった機能を持つエージェントがあまたちらばり、その時々によってくっついたり離れたりしながら本を作り、大手プラットフォームの販売網を利用して本を売る、というような形に移行していくでしょう。

が、どのような場合でも、

「読者といかにつながるか?」

という意識を忘れてはいけません。それは大手でも零細でも同じことです。

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