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月は本当に綺麗?

赤いショルダーバッグがベランダの先のヒサシに置かれていた
なぜ、と思っている私が見ていた夢だった
私は布団から出たくなかった
早くしないと遅刻する、そんな夢を見たのもそのせいだ
一度目覚めた
その後、その夢の続きを見る
夢の続きを見たいと願った時期もあったが
見たいと思わなくても続きを見るような日が、最近はある
続きはもっと悲惨になっていた
私の赤いバッグは振り返ると、ドクドクと水が大量に流し込まれていた
ああ、私のバッグから水が、と思った
向かっているはずの車の中で、私は素足にジャージを履き出す
ロングのニットワンピースの下に…
行く気などさらさらないようだった
遅刻しそうだと思いながら、そのことについての悲愴感はなかった

ふと赤い色の意味を考えた
生命力
情熱
活力
勝ち気?
プライド?
怒り…

ほんの2日前、面白いように青い車が何台も連なる風景を見たのを思い出した

私ははた目に見た印象よりも、生きる事に必要性も感じていないし、楽しくも思っていなかった

時々の夜
なんとなく誰か人が通るような
予感のような
気配のようなのがある

肌を突き刺すような氷に包まれたくらい
恐ろしく寒い夜
何度も夢の中で怖いと叫ぶ自分がいて
半ば目が覚めているから本当に叫んでいる声も私は知っていた

凍える私に背を向けて
悟朗は冷ややかだった
ただ暖めて欲しかった
ただ抱いて胸に顔を埋めさせて欲しかった

悪夢にうなされて目覚めた後に
吾郎は遂に私を抱きしめて眠ってくれなかった

ただ一言

「月が綺麗だねぇ」

と言った

私は月の放つ光の帯を見ても
月を見ないようになっていた

吾郎が機嫌が悪くなる時

それは私が違う男の名前を寝言で呼んだ時だ
聞いても教えてはくれない

私は思い当たりのない男の名前を想像するが
実際なんと呼んだかわかる訳もない
推しやらの名前を呼んだ彼女は可哀想だ

月の明かりと窓の柵にもたれて
視線と視線が電線で交差してぶつかる

そこに立っていた誰かが
夢の中の私の相手だったのか

今夜の私は、いつまでも眠れないでいる




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