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「赤と青 または藍より深い青」

【踊り子号殺人事件(仮)】


「名探偵、江戸川ドガ様の事件のお時間です」

水戸本丸(仮)殺人事件

幼なじみの相棒、桶川拓斗の暗示のような言葉で、いつも江戸川土我こと、ドガの日常はなぜが殺人事件へと巻き込まれてゆく

少女アリスが、ぶつぶつ呟き白うさぎが横ぎって、追いかけて行った先は鏡の国だったように・・
なぜか桶川拓斗の周辺で事件は起こることに気付いたのだ
拓斗によってもたらされる数々の不協和音
事件を呼ぶのは
わたし、変り者JKの江戸川ドガだけの問題じゃないような気がしている、今日この頃

「やめれ!あんたはあたしに殺人事件と言う厄介事を運んで来る地獄の使者だ!」

下田の夜


拓斗の闇を感じつつも見たくないふりをする

だって拓斗はヤングホーリーホックの黒いダイヤモンドと言われている逸材だ
飛び散る汗の粒でさえ、女どもは飴玉のように欲しがる
ドリブルシュート一直線のスタンドプレーですら、誰もが桶川拓斗の黒い影に釘付けになる
葵の騎士団の中では高校生ながら拓斗の、勝手に隠し撮りされたブロマイドが、一番人気だと言う

シーズンオフ
はたまたそんなシーズンなのか
ドガと拓斗は、高校生最後の修学旅行へと旅立つことになる

『踊り子号』終焉を飾るレールオンその日から、ドガと拓斗は同じフィールドに立っていることを再確認したのだった

いくつもの貌を持ち、いくつもの線を走り抜ける『踊り子』

神出鬼没

鬼や悪魔の類いは不滅だとでも言うかがふさわしい

我孫子駅ホームには駅蕎麦弥生軒が三軒存在する
全国チェーン大盛り定食ありがとうやよい軒とは、歴史も格式も全く違う
我孫子駅弁から発達した、変わり種を戴く老舗の蕎麦屋さんだ
その名も唐揚げ蕎麦
文明開花にさいたコロッケ蕎麦もマッツ青だろう
マッツ青と言うなら、世に知れる前の山下清画伯が住み込みで働いていたといふ
店頭写真には服を上下着衣の若かりし画伯がいた
有名になればドガの元にもサイン下さい、とか連絡が来たりするのだろうか
拓斗に群がる黄色い声のピンク色の虫じゃあるまいし
特に松戸よりの6号店はいつも若者でごった返していた
肉汁がジュシーで、熱々で噛みきれずにいるそばから蕎麦に滴り落ちる
取手よりの8号店はいつも閉まっていた記憶があった
上り線の5号店についてはすっかり失念していた
拓斗もドガもどうせならうどんの熱々がいい
同じ松戸よりの、と言うか松戸駅構内入り口の蕎麦屋の唐揚げ蕎麦よりも、新鮮揚げたての肉肉しさがあった
臨場感とごったがえる喧騒と熱気があった頃は、戦場のようだった
今や全世界を巻き込む伝染病の煽りか、人が少なくなった
全国民が、全人類がかからねば終息
いや、かかることに運命づけられているのだろうか
ちらりと映る
団体列車踊り子号を見送る朝のホーム
やはり、まだ弥生軒は静けさの中にある

旅立ちの朝


「あ~姐さん、またご一緒にあべこの唐揚げうどん、食いたいっすねぇ~。合宿に遠征におデイトに、あたしたちはなぜかいつも取手止まりの愛の逃避行。東京だったら帰れなくなった二人、手と手を取り合って・・」

上を見上げると、桶川拓斗が頭部の座席シートに両肘をついてドガを見おろしている

「なによ、拓斗。あんたあっちの車両でしょ」

「姐さんと離れると、あたしさみしいの」

「うっざ」

「やだっ!姐さんたら暗あぃ!花の修学旅行で読書ですの!?しかも、はるはあけぼの~😱あけぼのどこですの!?木枯らし舞ってません?漢字で書いて曙!なんか強そうですじゃん!なにが悲しくて枕草子なんか読んでいるのよ~。あたしという者がありながら」

「うっさいなあ~。寝る」

「ま、ま。これお飲みなされ」

差し出される紙コップ
温かいぬくもりと湯気
眼の端にすら映らないように、顔をひねってはいるものの、隣近所の女どもの視線は射たい

「は、なにこれ」

「キャラメルラテー❤️」


ふわふわ鼻に甘くてくすぐったい香り

「ヒステリーに効きます」

「うっざ」

背もたれて窓の外を見る

バカヤロー

あたしの席からじゃ海が見えないんじゃね?

きっとあたしは世間の並みのJKの恩恵から全部見放された
どうでもいい、カッコ悪いところしか見られない子なんだ
たぶん蜘蛛の糸の最後尾にしがみつくか指くわえて、ぼ~っとしてて
ぶら下がった瞬間に上から落ちてきた全亡者に押し潰された、惨めな餓鬼

それでも海はわずかな陽の光でも、きらきら輝いているはず

はるはあけぼのの・・

いまは限りありて絶えむと思はむ時には・・

橘則光歌


水戸本丸(仮)殺人事件に続く、江戸川ドガ事件ー夜明け編

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