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数学ギョウザ【#note杯】

 小さい頃から習い事を沢山やった。習字、ピアノ、公文、ダンス。どれもそこそこ、上手でも下手でもない。成績も中の中、特技なし。フィクションの主人公は勉強駄目でも特別な何かを持ってるもんでしょ。けど私はなんもない。モブ中のモブ。

 私は学食で食事を終えてぼんやりしていた。
「進路調査票、明日までだから」
 視界に白衣の足元が見えた。見上げると数学の宜野座(ぎのざ)先生がトレーを持って見下ろしている。うちのクラスの担任だ。渾名は“数学ギョウザ”

 私は俯いて大きなため息をつく。
「せんせ、私って特別なものナンもないっす。何やったらいいか分かんない。器用貧乏っていうか」
「君の字は綺麗だ。器用貧乏、いいじゃないか。少なくとも君の答案は、採点時のストレスが少ない」
 びっくりして顔を上げた。既に先生は返却口に向かっている。

 ストレスが少ない?なんだそれ。なにそれ……。自然と口元が緩み、ふふ、と声が出た。
 世界が、少しだけ変わった。


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