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赤い公園 - THE LAST LIVE 「THE PARK」

 2021年5月28日の赤い公園の最後のライブから2年が経ちました。 個人的にはその間にいろいろな事があったので”まだ2年か”という感じですが、思い出せない事もだんだん多くなってきました。 演奏の様子そのものはBlu-Rayディスクとして残されているのでこれからも何度でも繰り返して見る事ができますが、その時感じた事等、本当に忘れてしまう前に書いておきたいと思います。

開演前

 自分は開演前に流されている曲を意識的に聴くタイプではないのでどんな曲がかかっていたのか実はあまり覚えていないのですが、久保田早紀の「異邦人」がかかった時は”なんか不思議な曲がかかってるな”と思った記憶があります。 後に同じく会場にいたTwitterのFFさんに聞いたところ、Spofityの”津野米咲のルーツ”というプレイリストから順番に再生されていたようです。

 プレイリストのタイトル通り、津野さんの音楽のルーツと言える曲を集めたリストですが、その内容の幅の広さに改めて驚きます。 私自身が好きなのは つのごうじの「大好きぶぶチャチャ」、Rachel's の「Music for Egon Schiele」、ケイトブッシュの「バブーシュカ」、フランクザッパの「Inca Roads」でしょうか(朧げな記憶ですが、「ぶぶチャチャ」と「Inca Roads」はかかっていなかったような気がしますが)。 赤い公園のファンの方であれば、このプレイリストの中に少なくとも数曲は大好きな曲が含まれているのではないかと想像するのですが、その好きな曲のタイプによって、赤い公園の音楽に聴いている内容が違ってくるのではないかな、と思ったりします。

 旧体制最後のライブ”熱唱祭り”では開演前のアナウンス(録画録音は禁止とか)を佐藤さん自身が行い、津野さんがその機会のために特別に作った”千明音頭”に乗ってメンバーが登場するという趣向がありましたが、このライブではいきなり演奏が始まった記憶があります。

「ランドリー」

 3人のゲストがサポートとして加わる事は1ヶ月ほど前に発表されていましたが、実際にどのような演奏になるのか(たとえば小出さんとキダさんの二人は交代制で、同時にステージに立つ機会はあまり無かった)は全く分からない状況でした。 旧体制最後の『熱唱祭り』はギター、ピアノ、ブラスのサポートを加えた上でそれまでの通例通り同期再生を含み、かなりCD音源に近い演奏でした。 ライブで津野さんはピアノ(キーボード)とギターを曲によって持ち替えながら演奏してきていたので、今回も同期+リズム隊+ゲストによるギター・キーボードの生演奏というスタイルなのかな?と想像していたのですが、結果としては同期は全く使わず全て生演奏で、編成だけを考えると新体制のライブのスタイルを基本的には継承していた形になります。
 いきなり始まった一曲目が「ランドリー」だったのには本当に驚きました。 旧体制でも初期を除いてさほど演奏されていない(冒頭の和音からして、CD音源をそのまま再現するにはコーラスの音程・バランス含めて完璧に演奏する必要があり、相当難易度が高いのではないかと想像しています)曲で、新体制がFUYUツアーでこの曲を演奏した際には、コーラスは無しで、またとても印象的なピッチシフトをかけたベースがボーカルと絡む部分(二度目のAメロ)は完全に違うアレンジになって簡略化されていました。 ラストライブでも冒頭やサビのコーラスは除去されていて、G on Fという冒頭のコードの独特な響きが大きく変わってしまっていたので最初は何の曲なのか一瞬分かりませんでした。 しかし、FUYUツアーと大きく違ったのは、その他の部分では基本CD音源を出来るだけ忠実に再現しようとしているように思えるアレンジで、藤本さんのピッチシフトをかけた独特のベースの響きが再現されていてとても嬉しくなりました。 この曲が一曲目に選ばれた理由はBlu-Rayディスクの副音声でも語られていないので、分かりません。
 旧体制の最後のライブで当然演奏されるだろうと思われながら演奏されなかったのは、この「ランドリー」と「風が知ってる」の二曲です。「風が知ってる」は石野さんが加わった新体制の赤い公園の初ライブで一曲目に選ばれた曲です。 ラストライブの冒頭でで、もう一曲の「ランドリー」が演奏されたのも偶然ではないんだろうと思っています。

「絶対的な関係・絶対零度」

 初回限定版のBlu-Rayには津野さんが参加した最後のライブ(オンライン)である”0日目”を収めたディスクも付属しています。 収録曲はかなり重複しているので、比較するのも面白いのです。 昔からサビの”絶対的な関係を手探っても掴めないの”の”の”の部分のボーカルの音程がずっと気になっています。 Aのコードですが楽器はAとEの音しか鳴らしておらず、ボーカルがCを歌えばAマイナー、Cシャープを歌えばAメジャーのコードのなるのです。 自分は、CDもライブも含めて佐藤さんはここで限りなくCシャープに近い音程を歌っていたと思います。 この曲が主題歌だったドラマ『LOST DAYS』のサントラにはピアノ独奏版の「絶対的な関係」が収録されており、そこでもここはCシャープになっています(ただし、これは編曲者のアイデアかも知れません)。 一方で、石野さんは明らかにCを歌っていますよね(よってここはAマイナーのコードになる)。 新体制で演奏される際は一貫してCで歌っていた記憶があるので、津野さんからすると、ここは”CでもCシャープでもどっちでもいいよ”、という事なのでしょうか。
 この曲に続けて「絶対零度」を演奏するのは”0日目”のアイデアですが、緊張感あふれる”0日目”の演奏と比較してテンポもゆったり目に感じ(実際のBPMはほとんど同じだと思いますが)、メンバーの表情も全く異なるのでなにか違う曲を演奏しているように感じます。 

「Pray 」

 この曲、1番を非常にゆっくりしたテンポで演奏したのには驚きました。 勝手な感覚ですが、津野さん本人はこういう演奏は”なんか恥ずかしい”と言って避けていたのでは、という気がします。 もともとCDの音源ではかなり早めのテンポが設定され、感傷的になる事をあえて避けるような印象です。
 これは私だけかもしれませんが、大げさになりすぎる事を避けてあくまでも小粋でいたい人、というのが津野さん・赤い公園のイメージで、そこが大きな魅力と感じています。 結局、この曲は津野さんを入れた4人では一度もライブで演奏される事がなかった曲で、実際に4人で演奏していたらどういう演奏になっていたかは誰にも分からないのですが。 一方で、恥ずかしがらずにこういう演奏(聴き手によっては大げさと感じるかも知れない)をいつでも普通に出来るようなバンドでないと、”ドーム”に至るのは難しいのかな、と思いながら聴いていました。

「Yo-Ho」

 CD音源ではドラムもベースも津野さん本人による打ち込みなので、藤本さんと歌川さんは楽器演奏では参加していません。 津野さんはそれをちょっと申し訳なく思っていたようですが。 LAST LIVEでは、基本的には0日目と近いアレンジで、津野さんが弾いていたピアノを歌川さんが弾き、ドラムは石野さんが操作するリズムマシーン、そして藤本さんがシンセベースを弾くという演奏。 もともと、0日目も、それより前のインスタライブでも(ここでは津野さんがギター弾いてましたね)CD音源とはかなり違うイメージで、コード進行が分かりやすいアレンジになっていました。一方でFUYUツアーでは津野さんはフレーズシーケンサーかフレーズサンプラー的なものを使っていたようですが、その際の演奏はある意味CD音源よりも更に和声感を無視したオスティナート中心の物で、ラストライブの演奏とは正反対。 津野さんの中ではどちらが原曲なんだろう?と思いながら聞いていましたが、個人的にはラストライブの演奏の方が好きかも知れません。 演奏する姿も、津野さんが子供だった頃、家族で楽器を持ち寄って即席の演奏会をしている様子を思い出させてくれました。

「オレンジ」

 アンコール前の最後に演奏された「オレンジ」も、基本はCD音源に忠実な演奏であったと思います。 
 ”0日目”の音源をお持ちの方は是非そちらをもう一度聞いてみていただきたいのですが、”0日目”での4人の演奏のアレンジは(シングル発売前であるにも関わらず)、CD音源よりも更に手の込んだ効果的なアレンジになっています。 Aメロの裏で津野さんが弾くスケールを使った裏メロやそれに対応するベース。 要所要所でコードまで更にエモーショナルな響きに変更されています。 
 それを思い出すと、ライブ全体を通してこの時ほど津野さんの不在を強く意識した事はありませんでした。 『THE PARK』リリース後の赤い公園は、コロナによる緊急事態宣言で物理的な活動が制限されている状況の中でも更に急速な進化を遂げていて(オレンジに限らず、THE PARK収録曲も”0日目”のライブのほうがアルバムで聴くより魅力的に感じます)、特にバンドとしての4人の演奏力はもし予定通りツアーが実行されていたら、恐ろしいほどに成長していただろうと思います。 それが素晴らしい演奏であった事は間違いありませんが、ラストライブの演奏は時計の針が戻ってしまったように思えました。

「KILT OF MANTRA」

 アンコールで「キーボード+ベース&ドラムの曲って何だと思いますか?」と聞かれた時声出し不可のライブだったので当然誰も声をあげられなかったのですが、私はこの曲が演奏されることを期待していました。 この曲は、佐藤さんが脱退し、次のボーカルを探すかどうかも分からない状況で不安を抱えていた藤本さんと歌川さんを励ますために作られた曲で、3人体制のもぎもぎカーニバルのアンコールで演奏されました。この曲が『THE PARK』に収録されると知った時も嬉しかったですが、津野さんのいないライブのアンコールで石野さんが歌ってくれた事は、本当に嬉しかったです。CD音源では、「迷い疲れてー」という部分でバンドメンバーがエール交換をするような部分があります。順番は「迷い」(ピアノ)、続いて「疲れて」(ドラム)、その後「一緒に」(ベース)、そして最後に「踊ろう」(ボーカルーハンドクラップ)ですが、「0日目」でもラストライブでも、なぜかこの順番が変更されて、「疲れて」の後のドラムが無く、続いて「踊ろう」の後の石野さんのハンドクラップに続けて歌川さんがカウベル(0日目)を叩いているようです。0日目は、歌川さんが自分のパートを忘れてしまったのかと思いましたが、LAST LIVEでも同様だったため、何らかの理由で順番が変更されたのだと思われます。些細なことですが、ずっと気になっています。

 

 ここまで書いた事は、2年という時間が流れる中で改めて考えた事であって、当時思っていた事ではありません。 LAST LIVEの開催が発表され、チケットの抽選が始まった時、聴きに行きたい気持ちと聴きたくない気持ちの板挟みになっていました。 申し込みをしなかったらきっと後悔すると思ったので申し込みはしましたが、正直、抽選に外れてくれれば(かなり倍率高そうだったし)聴きに行かないで済む理由が出来る、とすら思っていました。
 理由は、”津野米咲のいない赤い公園は赤い公園じゃない”という個人的な思いに尽きます。 津野さんのいないライブを聞けば、その事実を追認する結果になるだけだろうと思っていましたし、実際ライブを聴いた後、自分の予想は間違っていなかったと感じました。 ”0日目”が、たった数ヶ月前に発表されたアルバムよりもはるかに先の地点に到達していて、ライブバンドとしての赤い公園の本当のポテンシャルを見せてくれた事を考えると、正直なところLAST LIVEの演奏は、レベルは非常に高くても懐古的であり、これより前に進む事は津野さん抜きでは無理だと改めて思わされたのです。 ただ、これを一番よく分かっていたのは聴衆ではなくて、やはりメンバーだった訳です。
 ライブの終了間際に石野さんが上の言葉を口にした時(それがメンバーの総意だという事も)、赤い公園がこの日をもって解散するという判断はやはり正しいのだ、と改めて思いました。 そして、津野さんがいなくなって以来少なからず混乱していた自分が、メンバーの皆さんの将来の幸せを(音楽に関係があろうとなかろうと)改めて祈る気持ちになり、また同時にこれからもいろいろな形で生き続けて行くであろう赤い公園の楽曲が新しい聴き手を見つけて行く事を応援していきたいと思えるようになる為に、このライブは必要であったのだな、と思います。