見出し画像

津野米咲・赤い公園の音楽 - はじめに

父はいろんなジャンルの音楽を聴いてポップスを作る人だったんです。クラシック、ジャズ、フュージョン、現代音楽、アイドル、バンドものも聴くし。私がジャンル関係なくいい音楽はいいと思えるのは、津野家に生まれたからだと思いますね。家にはたくさんCDがあって、お母さんもピアノが弾けて。あと兄が2人いるんですけど、上はギターが弾けて、2番目はドラムを叩けるんです。私は小さい頃、ピアノを習う前はカスタネットやタンバリンを叩くくらいしかできなかったんですけど、家のリビングで突如として始まる音楽会に参加するのが楽しくて。 その原風景が今、一番、赤い公園の演奏に生きてるなって思うんです。ピアノと歌に突然、笛が入ってこようが、みんなで一斉に歌い出そうがなんでもよくて。そこにみんなが集ってることが重要で。

音楽ナタリー 2013年8月14日

 これは”公園デビュー”がリリースされたタイミングに行われたインタビューで津野米咲さんが答えた物ですが、赤い公園の音楽の背景を非常に端的に表していると思います。 ”突然笛が入ってきた”り、”みんなが一斉に歌いだす”ような事は徐々に少なくなりましたが、解散するまでこれは赤い公園に生き続けていたと思います。 解散コンサートでの石野さん、藤本さん、歌川さんの3人による演奏コーナーはこの”原風景”を思い出させてくれました。

 バンドがオリジナル曲をまとめ上げる工程は千差万別と思います。 私が以前友人と組んでいたアマチュアバンドは全員が作曲をしましたが、メロディとコードを書いた譜を配った上で、その他の楽器のパートを自分で弾いて見せたり歌ったりして自分の意思通りに演奏して貰おうとする人、自分でパート譜まで書いて渡すが、ベースのフレーズ等はうまく書けないのでベーシストに詳細は任せたり(私です)、歌詞カードにコード書いてくるだけで演奏は全部まかせっきりだったり(面白い事にこの人の本職は所謂クラシックの作曲家で、楽譜だけで作曲家の意思を全て演奏者に伝える事のプロ)。 赤い公園がどのようなプロセスで曲をまとめていったかは時期により、曲により、また外部プロデューサーの有無により違ったとは思いますが、基本的には作曲家としての津野さんが各パートにも気を配ってまとめ上げていた事は間違いないと思います。

先生のフルスコアをこっそり複製して、メロディはピンク、対旋律は黄色、ベースは青色と引き分けて見たら、さっきまでメロディをフルートが吹いていたのに、次はクラリネット、その次はオクターブ下をトロンボーンが担当していると分かって。 目まぐるしいバトンタッチが行われているのが面白かったんです(中学時代の吹奏楽部で演奏したコープランド作曲”アパラチアの春”について)      

装苑 2016年2月号

 つのごうじさん(米咲さんのお父様で著名な作曲家・編曲家)が作曲・編曲した曲のレコーディングに小学生時代から参加していたり、中学の時には既に吹奏楽のスコアを見て編曲の面白さに目覚めていました。

今になってピアノはずっと続けておけばよかったと思いますけど、自分で自由に曲を作りたいという気持ちが常にあったので。ピアノをやめたのも、課題で曲を作ることになって、そのときに先生から「ドとシを一緒に鳴らしちゃダメ」って言われて。そのとき習っていた範囲で曲を作らなきゃいけないことにどうしても納得いかなくて。それで音楽を学ぶことにちょっとトラウマがあるんですよね。 でも、いつか余裕ができたらちゃんと音楽を学んで、自分の理論を広げたいなとは思ってます。

                              音楽ナタリー 2013年8月14日

 ご自身が上のインタビューで語られているように、少なくとも赤い公園の初期の頃の津野さんの音楽知識は幼少時の音楽学校、お父さんから見聞きした知識に加えて独学で学んだものが中心だったようです。 ただ、メジャーデビュー盤である”透明なのか黒なのか”に収められた曲達を聴き、採譜してみた私は、その音楽の”豊かさに”驚かされています。 この後、いくつかの実際の曲の特徴を取り上げながら、津野さんの、赤い公園の音楽の魅力について記していきたいと思います。

音楽(に)は貪欲です。知らないのが悔しいというのがあるので。    

CINRA.NET 2012年5月11日

赤い公園との出会い

 初めて聞いた赤い公園の曲は、”今更・交信”です。 2013年頃、パスピエの成田ハネダさんの気になる同世代バンドとして赤い公園の名前を挙げていて興味を持ちました。
 当時、ちょうど今更・交信が出たばかりのタイミングで、今更のイントロと交信のサビのメロディの美しさに驚き、そこから遡って”透明なのか黒なのか”と”ランドリーで漂白を”の二枚のミニアルバムを購入しました。 その後はずっとリアルタイムで追いかけています。
 
 私は2011年から2019年初めまで海外に駐在していた為、当時日本で赤い公園がどのように受け止められていたのか実は知りません。 ライブも、佐藤さんの脱退が発表された後、一時帰国して”熱唱祭り”を見に行ったのが初めてです。 よって、旧体制のライブは最後のライブ以外は映像でしか見た事が無く、残念ながらあまり言及出来ません。

熱唱祭りの後、私が実際に見たライブは以下の通りです。

2018年1月4日 こめさくpresents~もぎもぎカーニバル〜特別版「赤い公園ワンマンライブ2018☆はじめまして☆」(立川Babel) ー 三人での演奏
2018年5月4日    VIVA LA ROCK 2018 (さいたまスーパーアリーナ) ー 石野さんのデビュー
2018年12月30日 COUNTDOWN JAPAN 18/19 (幕張メッセ) 
2019年4月21日   Re:Frist One Man Tour 2019 (宇都宮HELLO DOLLY)
2019年5月4日     VIVA LA ROCK 2019 (さいたまスーパーアリーナ)
2019年9月23日   Tricot 爆祭2019(-Vol.12-)(渋谷TSUTAYA O-EAST)
2019年11月10日 FUYU TOUR 2019 “Yo-Ho”(EX THEATER ROPPONGI)
2019年12月28日 COUNTDOWN JAPAN 19/20 (幕張メッセ)
2021年5月28日   THE LAST LIVE 「THE PARK」

採譜の方法その他

採譜にあたっては、音源をLogic Proに取り込み、曲のテンポに合わせてテンポマップを作製した後、一小節ごとに耳コピで採譜しています。 基本、津野さんの基本的な作曲プロセスに従い、ベース→ボーカル→ギター→その他上物という順番で採譜しています。 自分はピアノ弾きで、ギター・ベースについては基本的な演奏は出来ますがエフェクター等にはあまり明るくありません。 またドラムについては全く基礎知識が無い為、歌川さんのパートについての言及が少ないのは一重に著者の楽器に対する知識不足による物です。