散歩を贅沢品として味わう ~周回遅れのステイホーム~
水曜日。
「明日から、ホーチミンの社会隔離が更に厳しくなる」という噂が流れ、再び買い溜め騒動が起こる。
「既に不必要な外出禁止で、公共交通機関も止まり、スーパーに行くぐらいしか出来ないのに、これ以上の規制ってなんだろう?」
と思ったが、噂ではスーパーに直接行くことの禁止(デリバリーのみ)という説が有力だった。
先週の今頃も同じことがあった。
TwitterやLINEで飛び交う噂、スーパーにできる長蛇の列、それをSNSにアップする人。
先週の今頃はそれに振り回されて懲りた。
なのに、また同じことをしてしまう。
買い物列にこそ並ばないものの、宅配アプリの売れ残りの野菜をポチる。
「ホーチミン」でTwitter検索しまくり、嘘か本当か分からない情報をかき集める。
そんな自分が嫌になり、19時から寝るまで「ネット断ち」することにする。
携帯をオフにして同居人に預け、マンションの敷地内を散歩する。
■
私が住んでいるところは、18本のタワーマンションから成るマンション群、というかもはや街だ。
全てのマンションの一階にコンビニやスーパーが入っており、昼間はそのどこにも行列があった。
しかし夜はそれはほどんどなくなっていた。
なのに、やたらと人出が多い。何をするでもなくたむろしている。3人以上集合禁止なのに、2家族だろうか、10人近くで子供を遊ばせている親のグループもある。
野菜などの生鮮品は既に棚から消え失せている。スーパーはもう並ぶ意味がなくなっている。
「もはや買いだめし尽くした」「すべきことはない」「でもなんかふわふわする」「明日からどうなる?」という空気が人々から漏れ、そわそわが縁日に並ぶお祭りのようだった。
それは決して悪くない雰囲気だった。
少なくとも、犬の散歩やジョギングすら咎められる外出禁止令が出され、全てのベンチに使用禁止のテープが貼られ、警備員が敷地内を巡回する、本格社会隔離初日より、明らかに良いグルーヴが流れていた。
毎日同じ場所を散歩すると、微妙な雰囲気の差に気付けて面白い。
野良猫も5匹見た。犬を散歩させる人も2人見た。この一週間で一番動物を多く見た日だった。
■
噴水を見つめている少年がいた。
マンションの車止めの前に作られた、なんということのない申し訳程度の噴水なのだが、電気が仕込まれていてグラデーションで色が変わるのだ。数秒目を話すと別な色になっている。
私が少年を見ている間、少なくとも1分間ぐらいは、彼は噴水を熱心に見続けていた。
水を見ていたのか、色の変化を見ていたのかは分からない。
私が小さい頃も、「水って不思議だ。瞬間瞬間その場所を流れる水はちがうのに、同じところを通り続ける」と思い、よく水を見つめていた。
あの精神があれば、マンションの敷地内しかうろつけないこの社会隔離中も、新鮮な発見に満ちて過ごせるはずだ。
■
どこにいても結局一緒で、精神が解放されていれば自由だ。
たとえどこに出掛けても、精神がロックダウンされていれば不自由だ。
心の中にいる自分と仲良くすることだけが大事だ。
(心の中の自分とのデート場所として外が選べないのは確かに不便ではあるが)、でも、たかがロックダウン程度で、精神まで牢獄に入ってしまうのはダサいな、と思える強靭さが出てきた。
むしろ、気を散らせる対象が減って、心の中の自分とのデートに集中できる。
渋澤怜(@RayShibusawa)
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7月9日より、ベトナム・ホーチミンでは本格的な社会隔離体制が続いています。そんな中で、久々にnoteを動かし、新規マガジン「周回遅れのステイホーム」を書くことにしました。
はじめた動機は
・ステイホーム中の鬱回避策。「何かやった感」を得て前向きになりたい
・私自身が不安に弱く、新たな発令がある度に「ホーチミン」でTwitter検索しまくって、余計な情報に煽られてしまう。そんな中、なるべく落ち着いた、ポジティブな発見のある文章を、まずは自分の、ついでに他の人のために書きたい。
・予定が無い日々にリズムをつけるため
などです。
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