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1人の涙の話

 その教会の神父さんは、何と亡くなった人を1度だけ生き返らせる力を持っていました。なので皆、もう1度だけでいいから会いたい人がいると、神父さんにお願いして生き返らせてもらうのでした。

 生き返らせた人は1週間だけ、生前と同じように生活できるのです。1週間経つと教会に戻り、またこの世から去ります。

 それがいいことだと言う人も、悪いことだと言う人もいました。でも皆、神父さんに願わずにはいられなかったのです。

 伝えたい言葉があった人、一緒にやりたいことがあった人、聞きたいことがあった人。皆、神父さんに泣きながら頼むのです。

 しかし、神父さん自身は誰かを蘇らせたことはないそうです。

 「どうして神父さんは、誰も生き返らせないの?」

 ある日、教会に来た子どもが聞きました。神父さんは悲しそうな顔をして答えてくれました。

 「私もね、死ぬほど奥さんに会いたいんだ。だからこそ、生き返らせてはいけないんだ。」

 「どうして?」

 「私は弱いからね。」

 それだけ言って、後は答えてくれませんでした。でも、神父さんの目からは一筋だけ涙が流れました。

以上、らずちょこでした。

※この物語はフィクションです。

ここまで読んでくださった皆様に感謝を。

ではまた次回。

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