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競馬予想におけるAIとの付き合い方を考える ~ 2.人間と競馬

前回記事からの続きです。

前回記事では、AIと競馬の関係性について、相性の良い部分・悪い部分を紹介し、相性の悪い部分からさらにAI予想の限界についても述べました。

今回の記事は、AIと競馬の関係がどうであれ、人間と競馬の関係が究極的には問題になるという話へ向かいます。ともに競馬とAIについて考えましょう。

Ⅱ. 競馬と人間

競馬に何を求めるか
 ・競馬予想におけるAIとのスタンス
    ・競馬予想AIの過剰人気
 ・競馬AIの人気理由
 ・競馬予想家の人気理由
 ・好みの問題と学びの必要

競馬に何を求めるか

競馬予想において、AIがどれだけ強力であっても、また逆にAIにどれだけ限界があっても、私たちが競馬予想をする際にAIを活用するか否かは好みの問題になります。

というのも競馬はあくまでも一般的には娯楽であって、科学ではないので、AIが真理に近づくとしてもそれを活用することが必要にはならないのです。

娯楽をどう楽しもうといいじゃないか、って話ですよね。

とはいえ、現実にAIを駆使して競馬予想で儲けてるっぽい人を目にすると、そちらへの誘惑があるのも事実。

AIの破壊力を前にして、私たちが競馬を楽しむ上でAIをどう位置付けるべきか。

・競馬予想におけるAIとのスタンス

AIのある世界で競馬予想に向き合うスタンスとしては大きく3つあると考えます。

A.  AIなんていらねぇ派
B.  AIをアシスタント的に活用したい派
C.  AI予想派

A. AIなんていらねぇ派

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こちらはまさに競馬は娯楽で、予想の過程も娯楽のひとつとして楽しむというタイプとします。

血統なりラップなりの特化型予想家や競馬トラックマン、直感的予想家などはこちらに分類されます。

AIが「なぜ」の部分に答えてはくれないこととは対照的に、血統やラップの独自の理論を用いて予想される場合には、競馬が「分かる」という瞬間が思いこみにせよ、体感的に味わえると思います。

これにより知的好奇心が満たされる体験ができますよね。

B.  AIをアシスタント的に活用したい派

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競馬予想において全くAIを活用しないわけでもなく、全面的に活用するわけでもない中間的な立場です。

AIは、IA ( Intelligent Assistance )という立場との対立の繰り返しの歴史があります。IAは人間の知能を拡張するという立場でAI的なものを人間の補助的な役割として考える立場です。

それに近いスタンスと言えます。AI予想を予想ファクターのひとつとして扱い、自分の予想スタイルのスパイス的に活用するような形です。

実際にJRA-VANではマイニング予想がランキング形式で提供されており、活用されている方も多いでしょう。

この立場はAと完全に独立しているわけではないと思うんですね。

退屈なことはPythonにやらせよう』という本がありますが、私自身そうなのですが血統・配合予想に集中したいために、その他の数字のアレコレはAIにやって欲しいんですよね。

血統・配合予想が楽しいからそれに集中したいけど、それだけでは当たらないってことも認識しているからこそ、その他のファクターはAIにお任せ願いたいって感じですね。

C.   AI予想派

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AIだけで競馬予想する立場です。おそらく最も有名なのは株式会社AlphaImpactによる競馬AIでしょうか。その他新聞社からも提供されていたりしますね。

個人と競馬と付き合い方というテーマですが、このCタイプは、自分自身で競馬予想AIを作成する方他人が作った競馬予想AIに丸乗っかりする人に分けられます。

この3つのスタンスは、競馬に何を求めるかで変わってくると思います。

おそらく A<B<C の順に 楽しみたい気持ちよりも儲けたい気持ちが強いのではないでしょうか?


・競馬予想AIの過剰人気

上に述べたAIとの距離感についての3つのタイプのうち、Cタイプに含まれる「他人が作った競馬予想AIの消費者」に注目しましょう。

あえて消費者と書くのは、競馬予想ビジネスもAIブームの例外ではなく、まさに人気コンテンツとしての地位を築いています。

自分でそれなりのAIを作れるならば、どんなファクターをインプットさせて、どんなモデルで予測しているのかも、理解した上で使えるので人のAI予想を購入する必要はそこまでないですからね。

私がJRAの新聞売りをしていた時も、いかにもアナログ競馬おじちゃん同士がニッカンのAI予想について話していた。
新聞紙一面を支配するAI予想によって、およそデジタルの世界からは一番遠い層にもAI予想がリーチしている事が分かります。

またnetkeibaの競馬予想家のお気に入り数を見ると面白い事が発見できます。

2020/09/14時点の情報ですが、以下のように株式会社AlphaImpactが提供する2つのAIがお気に入り数で3位と4位と大人気な様子がうかがえます。

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しかしながら、回収率や的中率を見れば明らかですが、決して特段優れたクオリティではないです。これは過剰人気ですね。

・競馬AI人気の理由

ではなぜ人気コンテンツなのでしょうか?

・AIブームの空気感
・AIが人間を上回る予想をする期待感(的中率向上、回収率向上)
・自分にはない技術
・娯楽ゆえのAIへの嫌悪感のなさ(cf. 医療診断でのAI活用への嫌悪感 )
・AIサービス主のブランディング

などがあるのではないでしょうか。

でなければ人気の説明がつきません。

なぜならAIは予想の根拠を因果関係を含めて説明はできません。なので、予想を見ても面白くはありません。

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あるのは買い目と簡単な指数のみ。

・競馬予想家の人気理由

逆に先ほどのお気に入り数の1位と2位は亀谷敬正氏と井内利彰氏です。

これまた両氏ともにnetkeiba上の馬券成績は芳しくないようです。

しかし両氏は血統、調教とそれぞれに特化した競馬の視点を持っています。
それゆえに競馬予想のスタンスに一貫性があり、受け手も予想の根拠が容易に理解できます。ここにブラックボックスはありません。

さらにAIにない強みとして、彼らは予想するだけでなく、独自の視点・理論を持つためにそれを軸にして、結果を説明することもできます。

それによって競馬が「分かる」という体験ができます。

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人生というものは詰まるところ、
単一の窓から眺めたときの方が、
遥かにすっきりとして見えるものなのだ。
( The Great Gatsby )


ここまで、競馬予想AIの登場により、競馬に何を求めるかのかという問題に直面すること、それによって消費するコンテンツも変わってくることを述べました。

好みの問題と学びの必要

AIを作って投資競馬をしている方にせよ、アナログに競馬予想をしている方にしても、競馬はどこまでいっても遊びですから、そこは社会的な問題にAIを導入するか否かというような深刻な問題は生じません。

だから、競馬AIとどんなスタンスを取ろうともすべては自由で好みの問題です。

とはいえ、実際にAI予想がオッズにも影響を与えていて、渋いオッズも増えていますよね。競馬を楽しみたいというスタンスには、馬券を当てることも必要条件として含まれているはずです。

となれば、AIを使わずとも、AI予想に何ができて何ができないのか、強みと弱みを学び続けることは競馬を楽しむためにも重要なのではないかと思います。


参照した文献・記事


・JRA-VANのマイニング予想の仕組み

https://jra-van.jp/fun/dm/mining.html

・『退屈なことはPythonにやらせよう』(Al Sweigart )(https://automatetheboringstuff.com/
Pythonというプログラミング言語でどんな事を自動化できるのか、個人レベルで便利な話が書かれています。無料で読めます。英語ですが。

・『Pattern Recognition and Machine Learning』(Christopher M. Bishop)
https://www.microsoft.com/en-us/research/uploads/prod/2006/01/Bishop-Pattern-Recognition-and-Machine-Learning-2006.pdf
機械学習の定番本ですが、MicrosoftよりPDFで英語版ならフリーで提供されています。

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