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扁桃腺は父の形見

子供の頃、高熱を出した時には周囲は優しく「大丈夫?」と声をかけてくれた。今でももちろんそう言ってくれる人はいるけれど、「体調管理がなってない」と言われたり、「休むのはずるい」と思われることが徐々に増えてきた。 僕はもう周囲から見れば子供ではないのだから、高熱を出したって、看病する人もいなければ、病院に行ったとて事務的な対応をしてもらうだけだ。多少の責任を突きつけられたり、陰口を言われたりすることには、いい加減に慣れなければいけない。 高熱を出して苦しんでいたとき、隣の席の女

    • 対比・類比・包含

      楽しそうに見えるあの人は おそらくは楽しくない あなたは楽しそうに見えると誰かに言う人も おそらくは楽しくない 幸せそうに見えるあの人は 幸せを感じてはいないような顔をしている 不幸の中にいるように見えるあの人は 不幸の中に幸せを見出しているように見える 不幸の中でしか得られない心地のよさに依存しているように見える 不幸であることで幸せを夢見ることができる幸せを噛み締めているように見える 不幸であればこそ幸せを失う恐ろしさが付き纏う不幸を知らないままにいれる。 不幸を覗

      • 過剰反応

        血が巡るたび 伸ばした爪を思い切り跡がつくまで押し付けられたような痛みが規則的にやってくる。 僕は座っているだけである。 目頭に鉛でも乗ったのだろうか、目を開くことができない。 目薬を何遍もさしてやっても、どこに流れたのか、すぐにまた水分をくれといわんばかりに目が乾く。 気づけば片方の目が赤く血走っている。もう片方の目は、対比で余白が目立つが、眼窩は窪んでいてはっきりとしない。たしかに目を見ても、その目はどこも見ていないような気がするし、触わろうとしても、するりと向こうに抜

        • 「帰省の車窓から」

          先週末、年末にしなかった帰省をすべく、新宿から甲府の間を走る特急電車に乗っていた。 窓の外に目をやると、手前には住宅や田、雨で勢いを増した川があった。奥には切り立った崖があり、毅然とした岩肌の断面を見た。 雨に濡れて所々が暗くなっていた。 一寸の途切れもなく山が連なっていた。 山々には形のない靄がかかり、それは自然の吐いた息がそこに残っているようだった。 たっぷりと湿り気を帯びた靄の先は色や形がぼやけていて、おそらく実際の距離よりも遠くに感じた。 尾根に沿って、山道の小径に沿

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          入り口の石

          何かを食べたいわけじゃない ただ咀嚼の音を感じていたいだけ。 周囲に認められたいわけじゃない ただそこにぽつりといたいだけ。 あなたのことを嫌いなわけじゃない ただなにも知られないままいたいだけ。 好きで下を向いてるわけじゃない ただ誰とも目を合わせずにいたいだけ。 今この場所が気に入らないわけじゃない。 ただ時の流れをゆるやかにしたいだけ。 べつのとこかを望んでいるわけじゃない ただ自分の内側の声に寄り添ってみたいだけ。 べつのどこかに期待しているわけじゃない

          入り口の石

          俗にいうY字路

          一度レールを外れたら、戻るのは大変だと 一度レールを外れた人間に、社会は冷たいと 幾度となく聞かされてきた。 いや、幾度なく聞かされてきたからこそ、 その言葉の重さを見誤り、舐めるようになり、 僕はレールを外れた。 僕は幼少からの周囲の言い伝えをおざなりにし、 自分は非凡な何かしらを持っているはずだという魅力的な考えに、しがみつくように従った。 建前と無関心から放たれる数々の社交辞令に、受け身を取って適切にさばくことができなかった。 結果、僕はレールを外れた。 新しいレールは

          俗にいうY字路

          痛がりなわたくし

          あなたを殴ることにする 別に殴りたいわけではない。 もともと暴力は好きじゃない。 そもそも、だれのものであれ、怒りの発露というものそれ自体に、ある種の滑稽さを感じながら、しかしどこか怯えながら生きてきたような人間だ。それに、反撃される可能性を考えると、危険もかなりある。効果的とは到底思えない。 それでもあなたを殴ることにする。 別に強い恨みがあるわけではない。 それでも、どうしても、殴ることは必然に思える。 そうでもしなければ、あなたは、あなたに連なる人たちは、これからもまた

          痛がりなわたくし

          年内目標・妄想

          寝ぼけながら右手をベットの下でふらつかせ、スマホを探り当てる。 瞼も意識も重いが、それでもなんとか時間を確認する。 すると画面中央になにやらでかでかとスクリーンタイムとやらが、装飾的な意味しか見出せない棒グラフと共に表示されている。 よくわからないけれど、先週より数%分だけ、スマホに触れている時間が長くなったらしい。 今週は映像をつぶさに見ることが要求される仕事があったから、それはそうかと思う。 時間を確認すると、寝坊はしていないものの、決して余裕があるとはいえない状況だった

          年内目標・妄想

          対話

          おまえはどこにいく おまえこそどこにいく おれはどこにいく おれはどこにいる おまえはどこにいる おれとおまえはここにいる おれとおまえはいまここにいる おれとおまえにとっての ここといまとはなにをあらわしている なにを暫定的に置き換えている おまえはどこにいる おまえはなにをいう おまえは何故

          早帰宅のすゝめ

          帰宅してから、次の日までに、やりたいことが多すぎる。 ドラマも観たいし映画も観たい。 本も読みたい。 ぼっーともしたいし 湯船にもじっくりと浸かりたい 連絡は全部届かないようにして、 自分が社会から隔絶されたかのような錯覚に陥りたい。 それが錯覚でなくなったとき、 何を未練がましく思うのか、 何によって極論の選択を回避するのか、 そもそも回避できるのか、 考えてみたい。 たまには根拠もなしに、できすぎちゃった未来なんかを想像してみたい。 日常の諸々の色彩が最も鮮やかだった幼

          早帰宅のすゝめ

          履修

          「履修」 なんて、何らかの作品に触れる際に、絶対に使って欲しくない。 なんで、あなたは、何らかの作品との出会いの中に、義務や目的を持ち込むのだろう。 そして、自身のそのスタンスを、鼻を鳴らして、顎をちょっとクイっとあげながら、妙に誇張して表明していることに、あなたはどの程度自覚的なのか、 それは、いつからなのか。 そんなあなたでさえ、人に囲まれているように見えるのは、僕の目の不調のせいだろうか。そんなことはない。 あなたは、(皆が指摘することを自重しているだけで、でも確かに

          褒め褒めホメオスタシス・ホモノミー

          安易に人を褒めるのはいかがなものか。 そいつがその気になったら、その結末の如何の責任を取れるのか。 そもそも責任とはだれのなにを、どこからどこまで、どのかくどから切り取ったものなんだ。 ぼくにはそれがずっとわからないのだが、 どうやらほかのみんなはなんとなくわかっているようだ。 でなければあの強い口ぶりで、責任とやらを他人に追求できるはずがない。押し付けられるわけがない。 人を褒めるのは、なるほど、やめておいたほうがよさそうだ。他人の何かを担がされるのは面倒だし、 そん

          褒め褒めホメオスタシス・ホモノミー

          年末年始の過ごし方(2023〜2024)

          誰かと、顔を合わせてお話でもしたい気分です。 ですが、 お酒は飲みすぎたくないですし、 脂っこいものを食べすぎたくもないです。 俗に言う、仕事や職業に関する話を聞きたくないですし、 聞かれたくもないです。 気を使いすぎたくないですし、 気を使われすぎたくもないです。 波長の差異を 確信したくはないですし、 曖昧にしたくもないです。 お金や時間や体力を 使いすぎたくはないですし、 使いすぎるほど残っていないとも思いたくないです。 次はなさそうだなと思われたくはないで

          年末年始の過ごし方(2023〜2024)

          踏切・公園

          耐えかねて、踏切を渡ることにした。 往復があまりに途切れなく続くものだから、向こう側も見えやしない。 轟音を立てながら走る電車は、所詮ただの鉄塊にすぎない。 どんな遊びでもできそうなくらいの広さのある公園に、 淡いグレーの、全く汚れがない大きめのダウンを着た大人の男の人がいた。 その男の人が近づいてきた。 その男の人は、近くで見ると、想像よりはるかに若かった。 目がまんまるで、肌が不自然につやつやしていて、犬や猫とおんなじくらいかわいいとさえ思った。 でも、不思議と、警戒を

          踏切・公園

          「あなたの趣味は何ですか」

            「あなたの趣味はなんですか。」 誰もが幼少の頃から経験してきた なんてことはない王道テンプレ質問のはずなのに......。 いざ答えるってなると思ってたよりムズくない? 思ってたよりていうか、もう普通にムズい。 普通にっていうか、割と本気でムズい。 割とじゃない。ムズい。答えの自由度の幅が深く、広すぎる。 あとヒントも少なすぎる。大抵、この質問は関係が構築される前に投げられるわけだが、 そうなると相手の妥当っぽいラインも推測しづらくてしょうがない。 でも、テンプレ過ぎ

          「あなたの趣味は何ですか」

          お願い事は、ひとつから。

          【みなさま、この投稿のいいね・コメント・保存のご協力、よろしくお願いします!】 といった文言が添えられた投稿を種々のプラットフォームで目にする。流れてくる。避けようとしても出てくる。 思う、 「お願いしすぎじゃないのか? え、見ず知らずの人に3つも頼んじゃうの? せめて1つにしといたほうがいいんじゃない? ご協力、よろしくお願いします!とか、低姿勢の体裁を一応とっているつもりかもしれないけど、傲慢さと他力本願なスタンスが、滲み出ちゃってるどころか、全く隠せてないよ!下心が

          お願い事は、ひとつから。