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リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム EPISODE 01 『リ:スタート』 Vol.1

はじめに

 この度は数ある記事、作品の中から本作品(「リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム」)をお手に取っていただき、心より感謝を申し上げます。

 これからお読みいただく際の注意事項を以下に添えさせていただきます。

 本作品は現在『note』のみで連載しております。その他のブログサイト、小説投稿サイト、イラスト投稿サイトでは連載しておりません。この作品は一部無料にて公開しているものですが、掲載されている画像、文章などは著作権フリーではありません。無断転載、コピー、加工、スクリーンショット、AI学習はお控え頂くよう、ご理解の程よろしくお願い致します。

 この作品の物語はフィクションであり、登場する人物、場所、団体は実在のものとは一切関係ありません。また、特定の思想、信条、法律・法令に反する行為を容認・推奨・肯定するものではありません。本作には、演出上一部過激な表現が含まれております。お読みの際は、十分ご注意ください。




Chapter 01 「目撃」


 ここは島国『日和』――かつて龍の形をしていたこの国は、二十年前に起きた日和大震災によって七つの島々に姿を変えた。
 西から数えて五つ目の島『関京県』の東部に位置する街『東浜辺市』は、震災後、復興とともに誕生した人口約七十万人の政令指定都市。面積は九十二・九三平方キロメートルで、六つの行政区――琴球ことたま区、代田しろた区、英賀えいが区、弾教だんきょう区、浜辺はまべ区、利加りか区がある。
 貿易を盛んとする『南浜辺市』と、首都機能の一端を担う『雛都市』に隣接しており、アクセスしやすい、比べて家賃相場が安い、田舎と都会のバランスが取れている、治安がいい、などの理由から近年は国内、国内外からの移住者が増加している。昨日北の県からこの街へと引っ越してきたばかりの十六歳の女子高校生、勇木ゆうき愛叶あいかもそのうちの一人。彼女は今、電動シェアバイク『キャビー(CADBE)』に乗り、東浜辺市の街中を駆け巡っている。
 ミディアムショートの茶色い髪、クリームカラーのコートと赤いマフラーが靡く度、小柄で太いタイヤはうっすらとこぼれる白い吐息とともにアスファルトへと音を鳴らしている。
 歩道と軽車両・電動バイク専用の道路を覆う雁木造《がんぎづくり》は先の大通りの交差点まで続いている。
 立ち並ぶ店から漂ってくる食べ物の香ばしい、甘い匂いが胃袋を誘惑をしてくるが、彼女は止まることなく先へ進む。
 青信号の交差点を左に曲がり、大通りに出る。道はまっすぐで平ら。専用道路を越えて無理に路上駐車する車もなく、快適に走ることができる。
 空を埋め尽くしそうなほどの高い建物たちが次々と現れる中、愛叶が向けた視線の先に、他の建物とは明らかに異なる目立つ形状の高層ビルがあった。
 長方形のブロックを二つ縦に重ねたような建物は上下色が異なっていて、上部は金色、下部は銀色を基調とし、その境目をハッキリとさせるためなのか、中央は捻じ曲がっている。
「うわっ! あれすごいな~。よく建てたね。おっと、前見なきゃ」
 信号が赤になった。前後ブレーキをゆっくりと効かせ横断歩道の手前で停止する。愛叶はキャビーを降りて軽車両・電動バイク専用道路から歩道へと移った。歩く人たちの妨げにならないように歩道の端に寄る。
 手袋を外して、コートのポケットから取り出したスマートフォンを縦に開いてスリープを解除。メニュー画面から、プリインストールアプリ『モノシリ』を起動させる。
 スマートフォンのカメラをビルに向けると、画面上に建物の名前と詳細情報が表示され、スピーカーからアシスト音声が流れてくる。

 《「東浜辺クラウンズスクエア――華山ファースト不動産株式会社が運営する地下五階建て地上六十階建ての駅直結型複合施設ビル。2039年1月から着工を開始し、2044年12月に完成。2045年に商業施設、同年の7月にはホテル、屋上展望台がオープンした。木造建築をイメージした建物を覆う窓は耐震・防風・防汚・防滴・防曇の強化コーティングガラスが使用されており、二つの長方形の積み木を縦に重ねたような世界に類をみない先進的なデザインから東浜辺市のシンボルとも呼ばれることもある。屋上展望台の他に庭園、公園、屋外のイベントスペースを併設している。キャッチコピーは『ここで生まれる、世界へと繋ぐ、輝く冠』(ウエキペディア百科事典情報より引用)」》

「ふむふむ。どんな内装か拝見させてもらいましょうか」
 元ネタ不明のものまねをした彼女は再びキャビーに乗り、専用道路へと戻った。
 愛叶は興味が湧いたものにはすぐに惹かれる傾向がある。そのため、世間一般的に若々しくないとされるものにまで視野を広げてしまうことも。例えば歴史探訪や実行中のぶらり街巡りもその一つ。彼女をそのように染まらせたのは不登校時代に見ていたネット動画だった。
 赤から黄色、青色へ変わる瞬間、一台の黒いワゴン車が重低音と爆音を鳴らしながら交差点を通過した。
「うわ、危ないな……。都会でもあんなことしてる人いるんだね」
 少量の毒を吐きつつ、愛叶はアクセルを回し次の目的地、東浜辺クラウンズスクエアへとキャビーを走らせた。




Chapter 02 「クラウンズスクエア」


 ◇


 レンタルポートにキャビーを停め、すぐ目の前にそびえ立つねじれたビルを見上げる。
「ひゃ~、近くで見ると迫力が違うなぁ。北瑠日市の駅前にも高いビルはあったけど、こんな形のデカい建物はなかったもんね~。よし、記念に一枚撮ろう」
 スマートフォンを取り出してカメラアプリをクイック起動。カメラモードをプロにして外観写真を撮った。
 その場で写真の映え具合を確認していると横から風に吹かれてしまった。
「うっう……寒いぃ……」
 愛叶は肩を竦め、入口へそそくさと足を動かした。
 寒さから一転、店内の暖房が全身をじんわりと温め、鼻の中をくすぐってくる。彼女は鼻をつまんで押し寄せて来るくしゃみをこらえた。
 東浜辺クラウンズスクエアの建物内は和風モダンの建築様式。噴水広場を中心とした吹き抜け構造が遥か上階まで続き、各階の柱や天井の至る所に設置されている照明は、来たもの拒まず、和を以て貴しとなすといった暖色で、心にホっと、豊かさをもたらしてくれる。
「わ、何これおしゃれ。めっちゃ落ち着く……。え~っと、お店は何があるんだろう」
 店内入り口付近にあるフロアガイドを覗く。
 地下二階から地上十四階までの店舗一覧が記載されているフロアガイドのすぐ隣に、注意書きが書かれたプリント紙が貼ってあった。愛叶はそこに書かれている文字を読む。

 【 お客様へのお願い 】

 近年、全国で子どもを連れ去ろうとする悪質な事件が多発しております。
 小さな子どもをお連れのお客様は、お子様から手を、目を離さずにショッピングを楽しんで頂くようお願い致しております。

「連れ去ろうとする事件? そんなニュース聞いたかな……。でも、物騒だね。ここで迷子になったらお終いかも。なんて言ったらダメだよね。子どもに何かする人がいたらわたしが許さないから」
 愛叶は一言言いながらフロアガイドに目を通す。
「――おっ、キウイシェイクドリンクのお店ある。えっ? 蒙古ニュータンメン中島も太戸屋も! 地下三階から地下一階は食品系かぁ。二階からファッションと雑貨、コスメフロアなんだね。ピカチーニ、クロイ・ユー、脱毛のことならダンゼ、ロフトハンズもカトリもある」
 地上一階~八階のフロアはお手軽な価格でコスメ、ファッション、雑貨・インテリア、グルメ、サービスなどを楽しめる店が多数出店。家族連れやカップル、年頃の若者たちに多く利用されている。
「ライア・ソックス、ハーバー・リ・メージ、シャルメンテェ、フェックビーン・スーツファクトリー、華山呉服店――。知らないお店が多い……上のフロアに行くほど高級店って感じかな」
 九階~十四階のフロアは世界的有名ブランド店や、三ツ星を獲得したレストラン、ホテルなど、ワンランク上を提供する店が出店している。
 五十八、五十九階、最上階は有料の展望台で、ここは予約必須の大人気スポットである。そのためか、週末のこの日は大勢の人々で溢れかえっていた。
 愛叶は早速エレベーターで十四階に移動。見慣れないお洒落な雰囲気のお店や、吹き抜けから見える風景にきらきらと瞳を輝かせ、次々とその興奮を写真の中へと収めていく。
 地上階すべての階を回った愛叶は、次に地下三階にあるフロアを目指す。

 総店舗数約三百店の食品フロアは東浜辺クラウンズスクエアの顔の一つ。
 お惣菜、お弁当、お菓子、デザート、各県のご当地グルメ……たくさんお金があれば全部買って帰りたいほど美味しそうなものばかりだ。
 しばらく流れるように商品を眺めていると、向こうから人混みをかき分けるように、いや、避けられるように、このフロアに相応しくない恰好をした男性二人組が歩いてくる。
 一人は長身長髪白肌で鼻ピアス、上下黒のレザー服にウォレットチェーン、ライダーブーツ。もう一人は色黒のツーブロックヘアー、赤色の『ザ・アンダーフェイス』ジャケットとスキニーデニムパンツ、ハイカットスニーカーは中肉中背の体を覆っている。
 眼つき鋭く肩を揺らしながらガニ股で歩くこの二人はチンピラ? ギャング?――いやいや、人を見た目で判断するのは良くない。ただイキってるだけだ……。そう控えめに思っていても明らかに異様な雰囲気を放っている。アクション映画などによく出てくる悪役といった面構えと服装だ。懐に銃やナイフを隠し持っていてもおかしくはない。
 愛叶は目を合わせないように背中を向け、商品陳列棚を見つめる。男たちは後ろを通過した。
 男たちに視線を向けて彼女はこう呟いた。「アレ、本物のヤバい人たちでしょ……ここに何の用があるんだろう」 
「いらっしゃいませ。こちらの商品おすすめですよ」
「あ、すごく美味しそうなので、またあとで来ます」
 接客をしてきた津中つなか紅蓮ぐれん唐揚げの店員さんに断りを入れ、人混みをするりと抜けていきながら男二人組の後を追う。
 やがて男たちは、【 職員専用入り口 】とも何も書かれていない黒い扉を開けて中へと進んで行く。
 扉の前まで辿り着いた愛叶は恐る恐る黒い扉を開けた。

 冷たい風とともに入り込んでくる情報。白で統一された無機質な廊下、男たちが歩いていく先には、左へと曲がる角が見える。
「何ここ、バックヤードとかじゃ無さそう……。どこまで続いてるんだろう?」
 何故かここには防犯対策の機械が一つも設置されていない。また、暖房も作動しておらず、店内と比べて温度に差がある。
「ちょっと見るだけなら後つけても平気だよね……」薄く白い息をこぼしながら今から自分が行う行為を正当化し、靴を脱いで忍び足で男たちに近づいていく。
 突き当りに差し掛かり、愛叶は陰から顔を覗かせる。
 廊下はさらに続いていて、男たちはその途中にある扉の前で立ち止まり、煙をふかして談笑をし始めた。
 お酒とタバコで肥大化した声。気が悪くなるほどの周波数が狭い空間内に響き渡る。
 愛叶は察した。あの人たちは人の気持ちがわからないタイプの人間だと。
「絶対裏社会と関係あるよ……引き返そう……う?! ひゃっ、はっあ、はっくしょん!(あっ! ヤバい!)」
 盛大なくしゃみ音に男たちは反応し、彼女が居るほうに顔を向ける。
 愛叶は亀のように頭を引っ込ませ、これ以上音を立てないよう急ぎ足で出口へ向かう。
「ヤバいよヤバいよ……顔見られちゃったかも……。なんでくしゃみ出るの。全然予兆なかったじゃん。……もう、早く出よう」
 後悔を速さに変えて愛叶は歩く。
 扉はすぐそこ。今走れば〝現世〟へ出られる。だが、それはできそうにない。
 冷さと恐怖による興奮状態で太ももが上がらない。早歩きで精一杯だった。
 あと三歩、二歩、一歩で扉に手をかけられる――その寸前で大きな声が響き渡った。
「おいお嬢ちゃん! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ~!」
 これまで何度も相手を黙らせてきたであろう威圧的な声にびっくりしつつ、愛叶は振り向いて、
「はっ! す、すみません! すぐに出ます!」と、言って扉に手をかける。
「迷子か?! 迷子なら俺がサービスカウンターまで連れてってやるぞ!」
「け、結構です! 失礼します!」
 明らかな意図を持って近づいてくる男に身の危険を感じた愛叶は急いで白い空間から抜け、人混みの中に紛れ込んだ。
 後ろを振り向く。幸いにも男たちの姿は無かった。
「はぁ~危なかった~。あの場所何だったんだろう……。これ以上深堀りしない方がいいね。ふぅう……しかし暑いなぁ、一旦外に出ようか」
 恐怖からは解放されたが、心理ストレスを受けたことによる体温の上昇と店内の暖房の良さで嫌になるほど暑い。コートを脱いでも、着ているセーターが暑さから解放させてくれない。
 靴を履き、体中汗でまみれる前に速足で一階へと上り、出口に向かう人の流れに乗っかって外へ出た。
「うわっ、さっきよりも寒い……もう、店の中ってなんであんなに暖房が効いてるの……。デニムじゃなくてロンスカ履いて来ればよかった」
 白いため息が薄っすらとこぼれた。
 髪の毛をかき分けて、額、首筋の汗をピンク色のハンカチで拭く。そしてコートを羽織る。
「えっと、あっち方面に行けば公園があるみたいだね。そこを一周したら家に戻ろうかな」
 案内板で併設している公園施設を確認し、今日最後の目的地へと足を運ぼうとしたその時、近くから重たく鈍い音が轟いてきた。
 車のクラクションが鳴り、また鈍い音が轟く。悲鳴も聞こえ、煙も上がる。
 歩く人々は立ち止まり、事が起きたほうに顔を向けている。あるカップルは少し興奮気味に何が起きたかを知りたがっている。
 愛叶もそう思い、事が起きているほうへと歩き出す。
「屋外イベントスペースに車が突っ込んだらしいぞ」「おいおい、まだ奴らが暴れてるのかよ。アレ規制されたんじゃないのか?」「奴ら完全に駆逐したって聞いたんだけどな……」「ホント迷惑だよね。あの地区の人」
 通りすがりに不吉な会話が聞こえてきた。愛叶はここから離れようと後ろを振り返った。――わわわあああっ!
 ある人が突然叫び、それに連鎖して周囲の人たちも声を上げ一斉に逃げ出した。
「へっ、なになに……?! きゃっ!」
 また何が起きたかを知れる間もなく、愛叶は逃げまどう人々に押し倒され、地面に倒れ込んでしまった。
「痛っあ……」
「大丈夫ですか!?」
 愛叶に手を差し伸べる人がいたが、その人は後ろを振り返るや否や、血相を変えて慌てて逃げ出した。
 起き上がった愛叶は視線を正面へ向ける。彼女は声を漏らした。
「はぅ?! 何、あれ……」
 そこに立っていたのは、白と茶色の装甲を全身に纏った人型の鎧猫よろいねこだった――。




Chapter 03 「青水と緑風」


 猫の特徴と精密機械ロボットを掛け合わせた突起形状の装甲。毛色を表現したメッキは太陽の光に反射し、左右狂いなく完成されているフォルムは恐怖よりも先に美しさを与えてくる。
 鎧猫は地面に手をついて二足歩行から四足歩行へと体勢を変え、常人とは思えない動きで周囲の人々を襲い始めた。
 通報を受け駆けつけて来たと思われる警察官たちは即座にライフル銃を構え、鎧猫に向けて発砲した。しかし銃弾を何発も受けても怪物はひるまない。
 鎧猫は振り返り、警察官に向かって疾走。高く跳び上がり警察官の一人を襲った。
 コンクリートに押さえつけられた屈強な体格の警察官は怪物からの攻撃を受け、血を流しながらも鎧猫の身体を殴り、蹴るなどの抵抗をした。が、力及ばず力尽きてしまう。バディであるもう一人の警察官は退避し、応援を要請する。鎧猫――怪物は人々を襲い続ける。
 血を流し、はげしく倒れ込む人々。なぜこんなことが起きているのか。この非現実的な〝惨劇〟を目の当たりにしている愛叶には考える余地もない。今すぐ逃げなきゃ――。だが、恐怖で足がすくんでしまい、その場から動けなくなってしまった。
「ちょっ、ちょっと動いてよ……!」
 呼吸が荒くなる。視線の先では愛叶に気がついた怪物が、四足歩行から二足歩行に体勢を戻し、鳴き声を上げながら徐々に近づいてくる。
 怪物の鋭い両手爪には血が色深く付着している。全身に悪感が走る。今にも泣きだしそうな声で、嫌だ、と発する。しかし彼女を助けられる者は誰もいない。これで最後だと悟り、強く目を瞑る。
「きゃあ!……あぅ!!」

 ――ビシャン!!

 その時、煌びやかな音ともに、強い風が突如として吹き荒れた。
「わっ!」
 何かが当たったのか、怪物は勢いよく吹き飛んでいく。
 愛叶の頭上を緑色の帽子と緑色の制服に身を包んだ女性が通り過ぎる。地面に着地した女性は槍の形をした武器を手に、体勢を戻し威嚇する怪物に向かって走り出していく。
「え!……ちょっと何あれ?!」
「おい、そこの! そこにいないで早く逃げろ!」
 後ろから声が聞こえ、誰かが愛叶を掴み立ち上がらせる。
 青い帽子と青色の制服を身に纏った少女は愛叶の腕を掴み、戦闘現場から近くの物陰へと導く。
「終わるまでそこにいろ!」
「う、うん!」
 水色髪のツインテールを揺らし、青色の制服の少女は振り向きざまに背中から青いライフル銃を取り出し、タイミングを見計らって怪物に向けて発砲をする。
 愛叶は柱のくぼみから、こっそりと色付きの二人を見つめる。

 二人の服装はそれぞれデザインは異なるが、共通して金色の菱形のダイヤが胸元に、金色のラインが服の随所に施されている。帽子――キャスケットに近い形のキャップハットをかぶり、左手首には腕時計のようなものを付けている。
 深緑色のショートボブの女性は緑のネクタイに黒と白のツートンカラーブラウス、右側は長袖、左側は半袖の左右非対称のジャケットロングコート、肩、肘に黒のプロテクター、両手にはブラック&ホワイトカラーのグローブ、黒のスパッツがちらっと見えるほど短いストライプウェーブプリーツスカート、ディープグリーンのブロックヒールサイハイブーツ。と、全体的に少し露出が多い印象。
 一方、少女が身に纏う青色の制服には露出が全くなく、ストライプウェーブ柄の短いプリーツスカート下には活動的な黒のレザーレギンスを履いている。両足には青と白のショートブーツ、胸元には二葉の青いリボン、両肩、両肘に黒のプロテクター、ブラック&ホワイトグローブ、黒と白のバイカラーブラウスの上に着ているロングコートはスカートを隠しつつ、風に靡いていた。

 激しく金属がぶつかり合う音が何度もお腹に鳴り響いてくる。
 緑色の制服の女性が機械の槍から機械の弓へと武器を変形させ、怪物に向けて風の矢を放った。
 怪物は連続で攻撃を受けたためか、ふらふらと揺れ体勢を崩している。
 その隙を狙い、青色の制服の少女は青いライフル銃の銃身下部を二回スライドさせ、怪物へ銃口を向けると――オリエンス・アクア!――魔法の呪文のような言葉を言い放った。すると、銃口から即座に水色の大光弾が発射された。
 高速回転しながら飛ぶ大光弾は怪物に着弾。大きな水飛沫を上げて吹き飛ばす。
 壁を破壊し地面に転がり落ちる怪物。全身を覆っている鎧機が徐々に剝がれて消えていき、やがて人間の女性の姿になっていく。女性は衣服も何も着ておらず、裸体だ。
 青水と緑風の二人組は武器を特定の位置に収め、動かなくなった女性に近づき、腰を下ろして何か確認を行った。
「……まさか、お亡くなりに……?」
 そう思ったが、女性の体は動いており、命が奪われたわけではなかったようだ。
「よかった……。でも、襲われた人は……」
 視線を現場に戻すと、惨劇があった場所はいつの間にかブルーシートが敷かれ、コーンが設置されて立ち入り禁止となっていた。見渡しても怪我をした人たちを処置している姿が見当たらない。
「へっ、どういうこと? 悪質なフラッシュモブ? そんなことないよね。あの人たち、血流れてたよ……」
 違和感に遭遇した愛叶。先ほどまでの恐怖はすっかりと無くなっていた。
 色付きの制服を纏う彼女たちは警察官と会話を交わした後、再び風を起こし姿を消した。
「あれも何なの……ご当地ヒーロー? 色は派手だけどちょっとかっこよかったかも……」
 愛叶にまた、興味をそそられるものが増えてしまった。
 現場に規制線が引かれ、イベントスペース一帯は立ち入り禁止となった。
 何事もなかったかのように人々は再び歩き出す。この街ではこういう事件が起きることは珍しくなく、強盗や交通事故と同じで日常茶飯事なのだろう。
 物騒だ……とにかく早く家に帰ろう。そう思い、その場を離れようとしたとき、後ろの方からまた誰かに声をかけられた。驚いた愛叶は振り向く。
 そこには先ほど戦っていた二人に似ている深緑色のひし形ショートボブの女性と左前髪に黄色いヘアピンを付け、長い水色髪を束ねているおさげの少女が立っていた。どちらもセンスのある服装をしている。
 少女はスポーツミックススタイルで愛叶より身長が低く、女性はエスニック・ベーシックスタイルで平均身長よりやや高い。
「君、怪我はなかった?」深緑色の髪の女性が話かけてくる。
「は、はい……何にも……」
「よかったわ~。今後も巻き込まれないように気をつけてね」
「あ、はい……(今後もって、あんなこと頻繁に起きてるの?)」
「サキ、いちいち確認はいいから早く昼飯に行くぞ」
 水色髪の少女は愛叶に一言も言わず、不満げな顔をしながら立ち去っていく。
 サキという女性はため息をついて返事をした。
「わかってるよ。もうせっかちだな……それじゃあまたね!」
 元気にそう言い、深緑色の髪の女性は立ち去っていった。
「はい……さよなら……」
 突然のことが連発し過ぎて情報の整理が追いつかない。愛叶はほんの少しだけ、ボーっとしてしまった。
「あ、まだお礼言ってない……あ、あのっ!」

 ――ぐぅう。

 今すぐ追いかけてお礼を言いたかったが、魔法でも使ったのか、すでに二人の姿は見えなくなっていた。
「えっ、もういない……。あの二人何者なんだろう? 気になるけど、それよりもお腹空いちゃったな。この辺にレトロな感じのいいお店のないかなぁ。スマホで調べるのは何か味っ気ないから、誰かに教えてもらおうっと。えーっと、訊きやすそうな人……あ、あのおじいちゃんとおばあちゃんに訊いてみよう。――あの、すみません。お尋ねしたいことがあるんですけど――」




 お話はEPISODE01 Vol.2へと続きます。

 お忙しい中、最後までお読みいただきありがとうございました!✨

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