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目的は、売上アップだけじゃない。土屋鞄製造所が、ブランド公式でリユース事業を始めた理由とは?

こんちには。リコマース報です。今回は土屋鞄製造所(以下、土屋鞄)の事例をご紹介します。1965年にランドセルメーカーとしてスタートした土屋鞄。丈夫なランドセル作りで培ったノウハウを軸に、大人向けのシンプルなレザーバッグの数々でも人気を博すメーカーです。

そんな土屋鞄が2022年に定期的な取り組みとして始めたのがブランド公式のリユース品の販売。メンテナンスやリペアに留まらず、二次流通事業を開始したのは何故だったのでしょうか。同社の執行役員を務める三木氏に話を聞きました。

(株)土屋鞄製造所
執行役員 コミュニケーション本部 本部長
三木芳夫氏

(聞き手:Free Standard株式会社取締役 野村晃裕)

※この記事は、2022年10月に東京ビッグサイトにて開催された「FaW TOKYO (ファッション ワールド 東京)」のセミナーから一部を抜粋してお届けしています。


土屋鞄がリユースの事業を始めた理由とは

ー今回はなぜ、そしてどのように土屋鞄さんが公式リユースの事業を始められたのかをお伺いしていきます。2022年の夏にノースフェイス、およびユナイテッドアローズのリユース事業参入がニュースになりましたが、土屋鞄さんはトライアル期間を含めると2021年から始められています。他社より先行して始めた理由はなぜだったのでしょうか?

当社は57年続いている皮革製造メーカーなのですが、長年ブランドとして商品を販売する中で、使っていただいた商品のその後について十分にサポートできているわけではない、つまりメーカーとしての責任を取り切れていないのではないか、という思いがありました。当社は自社で職人を抱えているので、これまでもリペアサービスは対応していたのですが、さらにお客様の購入後に対して何か取り組みができないかを考え始めたのが最初のきっかけです。

メンテナンスやリペアだけでなく、製品を再生して世の中に循環させていくことは現代の社会的責任の観点からも不可欠になってきています。そういった時代やトレンドも後押ししてくれた部分はありますね。何より、リユース品の販売は「時を超えて愛される価値をつくる」という当社のミッションとも合致しているので、早期に始めるべきだと考えました。

土屋鞄製作所公式サイトより引用

土屋鞄がブランド公式でのリユース販売に踏み切れた理由とは

ー最近、サーキュラー・エコノミーやその手段としての二次流通事業の開始に興味を抱くブランド様が非常に多くなってきています。ただ、いろいろなリスクや手間を考えるとすぐには踏み切れず、悩まれている会社様が多いことも事実です。その中で、土屋鞄さんがブランド公式でのリユース販売に踏み切れた決め手はどこにあったのでしょうか?

実は、リユースを事業化しようというタイミングで、普段私どもの製品を使っていただいているお客様に実際に話を聞いてみたんです。「当社がリセールを開始することについてどう思うか」というアンケートをお送りしたら、そのレスポンスが非常によかったんですよ。そのご意見にはすごく背中を押されました。

いわゆるロイヤルカスタマーの方に直接お聞きすると同時に、数十万人ほどが登録してくださっている会員様へメールマガジンをお送りしました。メルマガの開封率も普段は数%ですが、リユースのアンケートの回答率は5〜10%程度いただけたので、お客様からの関心の高さも感じられました。もちろん様々なご意見がありましたが、総じて好意的なコメントが多かったですね。

ー実際の消費者の声が集まると心強いですね。ただ、リユース事業を検討している各企業からは「自社ブランドで中古品を販売することはブランド毀損につながらないのか?」という質問もよくいただきます。その点について土屋鞄さんはどう考えていらっしゃいましたか?

当社には「時を超えて愛される価値をつくる」というミッションがあるので、リユースという取り組みはむしろ土屋鞄というブランドの輪郭を際立たせられる取り組みになるのではないかと考えました。そもそも、当社はプロパーで販売する際の基準もめちゃくちゃ厳しいんですよ。傍目では気づかないくらいの瑕疵がある程度の商品もB品扱いになったりします。リユースの商品にもしっかりした基準を設ければ、品質の部分はクリアできるだろうと思っていました。

回収から再販売までの工程とは

ーリユース事業を開始することによってブランド価値を高めることもできると考えられたのですね。回収から再販売までにどういう工程があるのかも具体的に教えていただけますか?

回収は「買い取り」という形ではなく、すべて「寄付」という形で集めています。今まで3度ほどまとめて回収をするタイミングがあったのですが、一度の告知につき大体300〜400点ほどお送りいただきました。「買い取り」ではないのですが、その代わりに新規の商品を20%オフで購入できるクーポンをお渡ししています。そもそも回収にご協力いただけるのはロイヤルカスタマーの方が多いので、買い替えのきっかけのひとつとして捉えていただいています。

回収したものは一点ずつ状態を見ていき、リペアできる商品に関してはリペアの工程に回します。実際にリユースとして販売する商品の状態に応じて、およそ3段階に分けて価格帯を設定しています(※販売定価の50~75%程度)。リペアだけでなく、退色した箇所を補色する専任の職人もいるので、新品のA品と見紛うような状態になる個体もありますよ。

ちなみに単純な平均販売単価で言うと、リユース品は新品の1.5倍ほどあるんです。リユース品はリペアの工賃はかかりますが、製造原価が発生しないので、きちんと継続できれば収益性が高いという手応えも掴んできました。

リユース事業を開始する際にまず決めなければならないこととは

土屋鞄製作所公式サイトより引用

ーリユース事業において、回収をした後にリペア、販売していく流れがとてもイメージできました。土屋鞄さんのようにブランドがリユース事業を検討する場合、まずは何から決めて始めればよいのでしょうか?

まずは商品を買い取るのか、買い取らないのかでしょうか。当社の場合は買い取りではなく寄付回収だったので、お客様にお支払いする金銭は発生しません。また、ただ単に「リユースをはじめました」というだけではお客様に響きにくいので、どういうストーリーやメッセージを込めてWEBサイトを作るかという部分は最初に整理しましたね。

ーストーリーという部分ではどんな点を強調したのでしょうか?

私たちとしては「長く使っていただきたい」という思いで商品を販売していますが、ブランドコミュニケーションの観点に立つと、長く使うことを薦める一方で顧客からの回収を実施しているのはおかしいという見方もできます。そのことを踏まえつつ、元の使い手から別の使い手のもとに、モノが移っていくということはポジティブなことなんだというメッセージがWEBサイトからも伝わるように意識しました。結局、それが一番いいブランドコミュニケーションになるのではないのかなと思っています。

ー長く使えるという期待を込めて買っている消費者がいるからこそ、「なぜリユースを行うのか」は丁寧に伝えるべき、ということですね。リユース事業に取り組んでみた上での率直な感想も教えて下さい。

やはり良かったのは、回収に協力していただいたお客様に再び商品をご購入いただくという循環が生まれたことです。「今までは斜めがけのショルダーバッグを使っていたけど、これを機に肩掛けのワンショルダーにしてみます」といったお客様も実際にいらしゃいました。先程もお伝えしたように、回収に参加して下さるのはロイヤルカスタマーの方が多いので、リユース商品の回収は新しい商品を買って頂くよいきっかけになっているのだと思います。

また、使って下さったお客様の想いに触れられるという点は、想定していなかったメリットでしたね。回収時に鞄を検品していると、「今までこういう風に使っていて、とても思い入れがある鞄です」といったお客様の想いをしたためた手紙が入っていることがあるんです。長く使って頂きたいと真剣にものを作っている現場のメンバーからすると、そういったお客様の想いに触れられるのはめちゃくちゃうれしいことなんです。回収担当のスタッフは「今日もお手紙が入っているかもしれない」という宝探しみたいな感覚で作業しているそうです(笑)。そうやって愛されてきた商品をお預かりしているんだということを強く感じましたし、自分たちの仕事に改めて誇りを持つ機会になっています。

一方、大変だったのは、ありがたいことに当初想定したよりも、たくさんの鞄が集まったことでしょうか。日によっては回収した鞄が倉庫に山積みになるという日もありました。保管する場所などはもっとオペレーションを設計した上で臨むべきだったなと思いましたね。クリーニングやリペアの作業にどれくらいの人員をアサインするべきかなども含め、やってみないと分からないことが多くありました。

リユース事業を検討しているブランドへのメッセージ

―ありがとうございます。最後にリユース事業を検討しているブランド様へのメッセージをお願いします。

他のブランド様にとっても、拡がりつつある2次流通市場との向き合い方は避けて通れないテーマになっていると思います。自分たちの製品を売って終わりではなく、回収して新たな消費者の元に届けるところまで責任を持つことは、カテゴリー問わずものづくりを続ける上で非常に重要です。自社の開発現場やサプライチェーンともその思想を共有することで、自分たちのものづくりに対する思い入れがより一層強まるのではないでしょうか。

また、リユース販売に取り組むことで、お客様との新たなコミュニケーションのチャネルが作れるのも大きな魅力です。自分たちのブランドがお客様に今どう捉えられているのかをリアルに感じることができるはずです。自ブランドの新たな魅力に気づくきっかけにもなるので、もっと導入する企業様が増えてほしいなと思います。


■Free Standardについて
Free Standardは、ブランド、メーカーが自社リコマースを立ち上げることを支援するサービス『Retailor(リテーラー)』を提供しています。リコマースを本格的に立ち上げる上で必要なスキームの設計からオペレーションの運営に至るまで、シンプルでローリスクな形で実現可能です。

事例も豊富にございますので、お気軽にお問い合わせください。


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