病名のつかない子供たち

こんばんは。切通です。

今回私が紹介する本は児童精神科医である著者宮口幸治さんの「ケーキの切れない非行少年たち」という本です。

この本を手に取った経緯が
とあるSNSで見かけたnoteがきっかけでした。

それがこちら。

noteの中でも記載されていますが私が見かけた時のタイトルは「小4で人生が決まってしまう話」というものでした。2人の子供を持つ自分としてはタイトルから気になってしまい、読了後、noteの中でオススメされていたこの本を手にとりました。


内容は
児童精神科医である著者が医療少年院の勤務を通じ、非行少年の多くが「境界知能」の子供たちだったということを知ります。
境界知能については後ほど解説しますが「犯罪を犯したという認識ができていない子供たち」に対していかに更生させるか、認知機能を向上させるか、そして社会をよくしていく、ということを目的で書かれています。

非行少年に共通する特徴

筆者がこれまで数百人の非行少年と面接を行い、共通した特徴として以下の5つ(+a)が挙げられています。

・認知機能の弱さ
・感情統制の弱さ
・融通の利かなさ
・不適切な自己評価
・対人スキルの乏しさ
+ 身体的不器用さ

その中の「認知機能の弱さ」と「不適切な自己評価」について簡潔に紹介します。

認知機能の弱さとは

簡単な足し算や引き算ができない、漢字が書けない読めない、簡単な図形を写し出せないなどがあります。

また本書のタイトルにも帯にも書かれている「ケーキを切れない」というのが「丸いケーキを三等分に切ることができないこと」で、非行少年と面接した中で筆者が驚いたことの一つとして挙げられています。

不適切な自己評価とは
例えば
・自分のことは棚に上げて他人の欠点ばかり指摘する
・どんなにひどい犯罪を行なっていても自分はやさしい人間だという
・プライドが変に高く、変に自信を持っている、逆に極端に自分に自信がない
などといった自己評価を適切に判断できていない少年たちがみられたとのことです。
それでは適切な自己評価はどのように育つものなのでしょうか。

適切な自己評価は他者との適切な関係性の中のみで育つ

心理学者のゴードン・ギャラップは集団の中で普通に育った野生のチンパンジーと集団から隔離して飼育したチンパンジーの自己認知の発達を比較しました。すると隔離して飼育していたチンパンジーには自己認知能力を示す徴候がみられなかったことが判明します。

人も同様で自己を適切に知るには、人との生活を通して他者とコミュニケーションを行う中で適切にサインを出し合い、相手の反応を見ながら自己にフィードバックするという作業を数多くこなすことが必要です。
自分の不適切なところをなんとか直したいと考えるときは「適切な自己評価」がスタートとなります。行動変容にはまず現実の自分に気づくということ、と自己洞察や葛藤をもつことが必要です。
自己に注意を向けさせる方法として「他人から見られている」「自分の姿を鏡でみる」「自分の声を聴く」などがあります。
自分が変わるための動機付けには自分に注意を向け、見つめ直すことがまず不可欠となるのです。

軽度の知的障害、境界知能とは

ここで先ほど紹介した「境界知能」についてですが
知的障害とは一般的にIQ70未満と定義されています。ですが1950年代の一時期、「IQ85未満」とされていました。
知的障害の定義が変わっただけでIQ70〜IQ84の子供達は存在し、現在では境界知能と言われている範囲にあたります。
またWISC(児童向けウェクスラー式知能検査)と呼ばれる児童向けの知能検査の知能分布からIQ70〜IQ84の子供達を算定するとおよそ14%に値し、標準的な学級の1クラスに置き換えると35名のうち5人程度に相当するのです。
IQ70〜IQ84の子供たちは「知的に問題がない」と判断されてしまい支援を受ける機会を逃してしまっているということです。

知能検査には児童向け知能検査WISCのほかにウェクスラー成人知能検査WAISやCAPASなど様々な検査方法があります。
一つの検査ではIQ80に相当し「知的な問題がない」と判断されたものの、別の検査を実施してみるとIQ60の値になり施設に入所する、といったケースも存在します。

つまり健常人と見分けがつきにくい軽度の知的なハンディや境界知能を持った人たちは通常の日常会話も普通にできるため、実際には支援を必要としているにも関わらず、自分でも他人でも気づきにくく支援を受けることができない、というのが現状なのです。

まとめとして

・少年犯罪を犯す子供たちの中には犯罪を犯したという認識を持てない子がたくさんいるということ
・非行少年と呼ばれる子供達の多くは境界知能の可能性が少なくともある
・境界知能の子供たちは支援を必要としているにも関わらず、現状支援されていない
・支援には学習面、身体面、社会面の3支援とされ、特に社会面と学習面(認知機能)が必要とされている
・一般の学校教育ではそういった機能を向上させるカリキュラムが組まれていない、また現状追加させることも難しいということ

始めに紹介しました「小4で人生が決まってしまう話」というnoteを読むまで、この本をとることはなかったと思います。教育現場の遅れについては度々取り上げられていますが、支援が必要な子供達が実は大勢いる、という全く知らない現状を知ることができました。

自身の子供にもその可能性が0ではないということ、そして今後11年間は義務教育と向き合う親の立場として知らなければいけない現状がまだまだあることを痛感させられました。

もし興味があればまず始めに紹介したnoteを読んでもらえれば、と思います。


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おまけ:朝の5分で行う認知機能トレーニング

本書の中でもっとも着目しているものが学習の土台とされている見る力や聞く力、想像する力と呼ばれる認知機能です。
この認知機能を向上させる方法としてコグトレ(認知機能強化トレーニング)について紹介されています。

例えば
写す:「点つなぎ」
点と点で結ばれた見本にある図形を見ながら同じように移していきます。(視覚認知の基礎力向上を計る)

覚える:「最初とポン」
出題者が3つの文章を詠み上げ、対象者に最初の単語だけを覚えてもらいます。詠みあげた中で動物の名前が出たら手を叩きます。
例)
サルの家には大きなツボがありました。
大急ぎでネコはそのツボに入ろうとしました。
ツボを壊そうとイヌが足で蹴りました。
答え)サル、ネコ、イヌを覚え復唱させる、サル、ネコ、イヌの時に手を叩く
(聞く力を向上させる)

など、道具は不要で簡単に出来るものとして詳しく紹介されています。

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興味があればコグトレで検索してみてください。
それでは。