全国の自治体さんへ。いま尼崎から学ぶべきこと。

 関西人が愛を込めて「尼(あま)」と呼ぶ尼崎。隣町の西宮市に住んでいるゆえに、わかった気になってた尼崎の町を、ご縁あって一日アテンドしてもらった。

 ダウンタウンさん効果で全国的知名度は抜群ながら、伴ってガラ悪い系なイメージも根強い尼。たしかに神戸に住んでた小中学生時代のイメージは、行くとカツアゲされる町。なかなかのイメージ。いやいやしかしこれがいま確実に変わってきてる。ある住宅ローン専門金融機関が発表した「本当に住みやすい街大賞2018 in 関西」では「尼崎」がまさかの(って失礼やけど)1位に輝いた。

 今回アテンドしてくださった尼崎市の職員Mさんが一番最初に案内してくれたのは、2005年に起きてしまったJR福知山線の脱線事故の現場だった。死者107名という大事故で、尼崎市のみなさんにとっては、阪神大震災かそれ以上に衝撃的で忘れられない出来事だったという。かくいう僕も現場を前にして、忘れかけていた記憶、というより、あの時ニュースをみながら感じたどうしようもない悲しみが蘇ってきた。

 脱線した電車が追突したマンションの一部をそのままに、それを覆うようにして建てられた慰霊施設には、案内されたその朝も、JRの職員さんらしき男性数人が手を合わせておられた。消防隊員の方がPTSDになってしまうほどに壮絶だった当時の現場のお話を伺いながら、僕は、尼崎を案内するというその一番最初にここへ連れてきてくれたことを何よりありがたく思った。

 仕事柄、さまざまな土地をアテンドしていただく機会が多いけれど、限られた時間のなかで、こんなふうに悲しい歴史を見せてくれることは少ない。誰しもよそ者には良いところを見せたいはずだし、ましてや市の職員としてのミッションもあるだろう。だからこれはきっととても勇気がいることだと感じた。だからこそ、僕はこの時点でMさんに全幅の信頼を置いた。

 そんなMさんがつづいて連れてきてくれたのは「潮江素盞鳴神社(しおえすさのおじんじゃ)」。小さな神社ながら、境内にある楠の巨木がとても印象的で、境内を囲む玉垣には、このあたりが地元だというダウンタウンのお二人と同級生で構成作家の高須さんの名も刻まれていた。

 そして何よりこの神社、そのお賽銭箱に特徴が。

 こんな風に賽銭箱の天面がそろばんに!

 ということは、商売繁盛の神さま? いやでも素戔嗚神社でしょ。そんなことないよね? あれ? どういうこと? と不思議に思っていると、Mさんが教えてくれた。

忍たま乱太郎効果なんです

 みなさんご存知『忍たま乱太郎』は、今年でなんと放送27周年を迎えるそうで、これはNHKのアニメ作品では最長だという。実はこの作者である尼子騒兵衛さん(女性漫画家)が尼崎出身ということもあり、その登場人物の名前に尼崎の地名が使われている。そこで忍たまファンの人たちが、キャラクターの名の由来となった土地を聖地巡りよろしく、訪れてくれるそうだ。

 そしてここ「潮江素戔嗚神社」のある「潮江」は、潮江文次郎という人気キャラクターの由来となっていて、彼の設定は、忍術学園六年い組の生徒で、会計委員長。ゆえの、そろばん!

 本殿のなかを覗くと潮江紋次郎の大絵馬が奉納されており(TOP画像参照)、ファンの方達と地域の人たちの幸福なつながりを感じて微笑ましい気持ち。そこでMさんがこんな話を聞かせてくれた。

 「市町村合併しかり、小さなバス停の名前しかり、なんでもかんでも、◯◯1丁目、2丁目、3丁目と揃えてしまいがちな世の中で、こういったファンの熱狂は、街の人たちや行政にも、昔ながらの地名を残すべきだという空気をつくってくれたんです」

 なんていい話なんだろう。

 「効率を求める」ことが正しかった時代は、もうとっくに終わったと僕は思っている。非効率的なるもののメリットを指す「不便益」という言葉があるように、不便さや非効率にあるカルチャーの熱狂が、僕らの日々を豊かにする

 実際ここ「潮江」のあたりには「浜」という地名だったり、明らかにこの辺りが海岸線だったことが伺える地名が残っている。地名はその土地の地層を知る大切なヒントだ。

 そしてさらに、日本中の自治体の人が聞くべきだと思ったのがこの言葉。

だからと言って、我々は聖地めぐりマップ的なものは作らないんです。行政はそういうときすぐにルートをつくったり看板をつくったりしてファンをアテンドしがちなんですけど、ファンの方達は自分で勝手に巡ってくれるので、【我々はそれを邪魔しない】というのが信条です

 日本中のさまざまな土地で行政の方にお会いするけれど、この考え方を持っている方は、圧倒的に少ない。凝り固まった行政サービス視点は、市民の無闇な「やってくれるんだろう感」を助長するし、自由に街を楽しむ若者やよそ者の可能性を知らず摘んでしまったりする。だから僕はこの言葉にめちゃめちゃ感動した。

 僕は「忍たま」ファンのごとく、いま、尼ファンになりつつある。

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藤本智士(Re:S)

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Re:S note(りすノート)

2006年に創刊した雑誌「Re:S(りす)」編集長の藤本智士が、いまあらためてお届けする、あたらしい“ふつう”のnote「Re:S」。 日々のこと。旅のこと。地方のこと。編集のこと。 記事アップは月4回以上かなぁ。
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