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NONのんびりな展覧会前夜

 いくつまでこんなことできるかなあ? って30代の頃にも言っていたような気がするけれど、45歳になったいま、その一言はもう少しだけ重みがある。けれどきっと55歳になっても言ってるんだろな。って気もするから怖いような楽しいような。 そう、怖いような楽しいような、まさにそんな気持ちで、展覧会の初日を迎えた朝、僕はこのテキストを書いている。

 その展覧会とは秋田県立美術館で開催される「のんびり写真展 あこがれの秋田」だ。

 のんびりはその名のとおり、のんびり楽しい雰囲気を纏ってはいるけれど、その実、まったくのんびりしていないというのは、もはや周知の事実。今回の展覧会にあわせた、新作書籍のデザイン作業に翻弄され、忙しいなか、色校立会いで大阪から埼玉まで行かなきゃいけなくなったデザイナーの堀口さんは、ツイッターでこうつぶやいていた。

 うまい! とか言ってる場合じゃない。「のんびり、のんびりしてないってよ!」が、噂だったらカッコいいのに。マジでいつも土壇場ギリギリまでドッタバタだ。

 展覧会の搬入とはいえ、僕たちは莫大な予算があるわけではないので、いろんなことを自分たちでやらなきゃいけない。いい意味でもわるい意味でも手作り感は否めない。しかし、だからといってクオリティが低いものをつくるのは絶対にいやだから、もはや「のんびりチーム」の一員だと思っている秋田の施工会社のベックさんにお手伝いいただきながら、今回もなんとかかんとかギリギリ、泥んこになりながらも、よい展示が完成したように思う。

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 先日書いた、ケーブルテレビの話じゃないけれど、地方なんだから、田舎なんだからという無意識の遠慮みたいなものが、田舎のクリエイティブの質を下げているのは間違いない。今回の展覧会はAKT秋田テレビという放送局の50周年という冠がついていて、つまりは予算の半分はAKTさんが出している。なので、本展のテレビCMなんかも流してくれるんだけれど、最初にあがってきたCMの、その内容ではなく、クオリティを見て愕然とした。あまりにもお粗末で、展覧会づくりに必死になっている、僕たち現場のクリエイティブを舐めているんじゃないか? とすら思ってブチ切れた。

 しかしそれもこれも、AKTさんには悪気がないのだ。ただただ、無意識にキー局のようなものはできないというのが刷り込まれている。しかし、その考え方の元をたどると、それはきっと予算だからつまらない。「お金がかけられないから、これくらいで仕方ないだろう」「そんなに予算がないから、身内に頼むしかないだろう」こういう感覚が染み付いてしまっている。

 けれど僕は、地方の限界は地方の人自身が作っていると、ずっと言い続けている。のんびりを作る以前、最初に秋田県庁の人に講演に呼んでいただいたときも、「原発反対!」の手書きのチラシと「オール電化」のデザインされたチラシ、それぞれの印象と影響力の話をもとに、そのことを伝えたのを覚えている。

 秋田県知事の佐竹さんが、以前「高質な田舎を目指す」と言った。この「高質」なんて言葉はそもそも存在しない。言うならば高品質なんだろうけれども高品質では伝わらないのだ。品質が高いのではなく、質が高い田舎を目指す。その質とは何か? それは決して、ハイソな高級リゾートのようなものを言っているのではない。丁寧に仕込む純米酒だったり、綺麗に処理をして並べられた朝市の山菜だったり、届かせたい相手にむけて懸命につくるCMだったりするはずで、その丁寧な気持ちこそがクオリティだ。

 田舎暮らし=丁寧な暮らし。という、なんだか都会にとって都合の良いイメージが量産されたから、秋田の日々の暮らしはさぞ丁寧なんだろうと思う人も多いかもしれないが、田舎ほど、農薬や添加物やらに侵されている土地はない。それもこれも、上述の無意識の遠慮、いや、もうはっきり言えば、謙遜という名の甘えがさまざまなクリエイティブをなあなあにしてしまっている。正直僕は8年ほど秋田に通いながら、常にそこと戦い続けている。その裏側はもう壮絶だ。

 とにかくいまは、放送されたというドキュメント番組も、作り直したというCMも一切見ていない。自分たちのやるべきことは、良い展示をつくること。そして本展にあわせて出版する上述の「書籍版のんびり」を良いものにすることだと、そこに専念してきた。少ないメンバーでできることは限られている。とにかく目の前のもののクオリティを積み上げていくことでしかない。今回も、のんびり秋田メンバーが精魂果てそうになるまで作業をつづけてくれた。本当にありがたい。

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 そんなのんびり秋田のNONのんびりな展覧会。どうかぜひいらしてください。精魂込めて作った新刊も一般販売に先駆けて、展覧会場で先行販売します。そして、展覧会に来てくれればその意味がわかると思うのですが、最高に美味いあきたこまちも数量限定で用意しています。その他、のんびりグッズもいろいろ用意しています。入場料をいただかなきゃいけないのが心苦しいですが、どうか、お誘いあわせのうえ、お越しいただけますよう、よろしくお願いいたします!

↓ここからは定期購読のみなさんへのお礼として、展覧会の風景を垣間見れる、搬入風景の写真を公開します。

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藤本智士(Re:S)

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ラッキーカラーはブラウン!
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藤本智士(Re:S)

編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』共にリトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』など手掛けた書籍多数。

Re:S note(りすノート)

2006年に創刊した雑誌「Re:S(りす)」編集長の藤本智士が、いまあらためてお届けする、あたらしい“ふつう”のnote「Re:S」。 日々のこと。旅のこと。地方のこと。編集のこと。 記事アップは月4回以上かなぁ。
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