見出し画像

おいしい

おいしい思い出。まだ味がする。高校のアルバイト、どうやら私はお役に立たなかったようで辞めるまでに数々の鮮やかなご罵倒をご主人様から頂戴した。あなたの軽やかに弾む罵倒文句は私の記憶と体に重く刻みつけられました。困ったものです、2年経った今でもこの呪いは消えません。日本語も出来ないじゃないか、こんなの誰が雇うんだよ、𓏸𓏸文字みたいで全く読めねぇよ。勉強だけできても社会ではやっていけねぇんだよ、と。ああ懐かしい。あなたの言葉遣いは幼児が演じるお姫様みたいに自由奔放なお言葉遣いでいらっしゃった。まことに恐縮致します。あなたのご罵倒はまったく私めにとっては図星、おっしゃる通りでございます。素晴らしいアイのある社会教育を賜りました。幸甚千万、感謝いたします。おやめください。耳が痛いです。ご主人様、ご人格に問題はあれど、図星だった。怒るのは愚かだと自分に証明する最上の愚行、自身に逆張りをして治そうとした。お姫様であるから、自制が効いていない。哀れなご主人。当然バイトをやめたかったけれど人生で最も信用している人が「逃げ癖がつく。せめて3ヶ月は続けなさい」「半年は続けなさい」と言ったのでとりあえず盲信して半年続けた。カレーうどんが美味しかった。カレーうどんを食べるためにそのアルバイトに努めていた。お姫様はご機嫌麗しゅう際は賄いとして食事を作ってくれた。カレーうどんが美味しかったから、お姫様の有様を無視できた。社交辞令として「おいしい」と言った。おいしいとは、便利な言葉だ。すきも、おいしいも、挨拶のように鳴き声のように言っておけばいい。おいしそうに味を具体化してさしすせそを駆使し喋っていれば人と会話しなくて済むのだ。私が先程から言っているカレーうどん美味しいというのも、私の周囲が「この店のカレーうどんが一番」と異口同音に話していたから適当に同調していたにすぎない。私の浅はかな人生経験にもとる主観だが料理なんてどの店も同じだ。差異などない。味に興味がない。腐ってなければどれも美味しいのだ。自炊した際となんら変わりない。キッチンを汚す手間が惜しいから外食している。人間関係を円滑にする為に優秀な本能が誤魔化していたのだろう。おいしいのか美味しくないのかさっぱりわからない。人間性を入れたらまずく感じるだろう。アルバイト中、吐きたくなるほど嫌な気分はしなかったが、本当に何とも思わなかった。このアルバイトをして、人間性を無視して料理だけを目当てにするように躾られたから意図的に視野を狭くし人生を嘲笑する趣味を手に入れた。ほとぼりも冷めた、そろそろあの店にお邪魔してカレーうどんを頼んで美味しく感じるだろうか実験してみようか。この後に2.3個のアルバイトを経験したがこれ程にまで記憶に残る鮮やかかつ刻みつけらた経験は無い。貴重だ。ご主人様、感謝いたします。呪いは使命になってしまいました。私の日本語はぎこちなくてまだおかしいです。私の書く文字は意識すれば社交辞令として真っ先に褒められる程度には使えるものになりました。こんなの誰が雇うんだ、おっしゃる通りでございます。申す訳もございません。勉強だけできても社会でやっていけないんだよ、私はご主人の視点からだと勉強ができる人という認識だということだ。ご主人は勉強できるのはすごいとおっしゃっていた。敬意に欠けます。ご主人だからといって従者の全てを掌握した気になるのは烏滸がましい千万です。お姫様です。受け入れて嘲弄しましょう。おいしいです。私は頭の中で生きることしか出来ない。使命は暇つぶしなのです。私一人ではこんなに痛快で愚かでばかばかしい演劇なんて出来なかったのです。感謝いたします。悲劇、喜劇、差異はあれども感動したのです。感動した、つまり私にとっての名作であった。お元気ですか?お姫様。お邪魔させて頂きますね。さすがお姫様、教養の程度が知れていい。日々お世話になっていたからプレゼントを渡してみた。その1ヶ月後に辞めた。そしたら使った分だけ抜き「もう必要のないものですから」と家まで突き返してきた。この行動には疑問を覚えた。全て突き返してこそ恩を仇で返すの体現になるのではないか?自分の都合だけ貪って、お姫様、素晴らしいです。おいしい。性癖曲げられてしまった恩人。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?