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WEB Re-ClaM 第3回:海外ミステリブログ紹介① Pretty Sinister Books

WEB-Re-ClaM 第3回です。ところで皆さんは、未訳の面白ミステリの情報をどのように取得していますか。日本人の有識者をフォローする、英米の新聞の書評欄(個人的にはニューヨークタイムス紙がお薦めです)をチェックする、amazonで高評価の新作を試してみるといったところでしょうか。(何? 未訳の面白ミステリに興味がない? いやいや、こんな場末のnoteを覗きに来てそんなわけないじゃないですか) とはいえ、いまだ世に知られず埋もれたクラシックミステリを、日本にいる僕らが再発見するのは容易なことじゃない。「餅は餅屋」と言いますが、ここは海外のミステリマニアが運営しているブログやらワードプレスやらを覗くのが一番簡単(だし、恐ろしく濃い情報が一杯載ってます)(話によるとfacebookのマニアが集まるページが熱いらしいですね、まあ僕はアカウント持ってないので知りませんが……)。ということで、そういうちょっと美味しい情報が載っているウェブサイトを紹介してしまおうというのがこのコーナーの趣旨。その記念すべき第1回は、J・F・ノリス運営の「Pretty Sinister Books」です。

J・F・ノリスは品切れ絶版のミステリや怪奇幻想小説、冒険小説を主にターゲットにしているネット古書店の経営者で、またその収集した本を生かしてファンジンやブログにブックレビューを書いているという奇特な御仁です。厳密に数えたわけではありませんが、2011年1月のブログ開設以来500本近いいわゆる「クラシックミステリ」の紹介記事を書いています。自他ともに認める古本マニアにしてヴィンテージミステリマニアだけあって、取り上げているのも一筋縄ではいかない作品ばかり。「あらすじ」「登場人物」「特筆すべきこと」「この作品から学んだこと」「作者について」の五項目を中心に組み立てた長文レビューは非常に面白いのですが、末尾につけられた「Easy to Find?」の項目が大抵「Scarcely」とか「Very Difficult」ばかりで、まー手に入らない。ようするに、彼の経営するネット古書店で買えということなんですが(在庫なし)……焦らさないでいただきたい。

もちろん、入手困難な作品ばかり紹介している訳ではありません。復刊された作品、作者の紹介記事は読みごたえ抜群にして購入欲をそそるものですし、また時に彼が絶賛した激レア本が復刊されて、それを強くリコメンドする記事を書いたりもしています。例えばこんな記事。

高い実力の割になぜか知られざる作家フランシス・ダンカンと、ロマンス小説を愛好する名探偵モルデカイ・トレメインを紹介した記事です。フランシス・ダンカンの諸作品は Vintage Books という出版社から多くが復刻され、気軽に読めるようになりました(電子版もあり)。純イギリス風の道具立てとアントニイ・バークリーを思わせる切れ味の鋭い終盤の展開で読ませる彼の作品が、日本語で読めるようになる日を期待します(そのうち別冊で出したい作家の一人です)。

彼の絶賛評が復刻に繋がった一例が、この The Hex Murder です。魔女の呪いに擬した殺人の容疑者とされてしまった新聞記者の青年が、アーミッシュの文化の中に真実を探る手掛かりを求めて大冒険を繰り広げる(その後に謎解きに取り組む)、「1930年代のX-ファイル」とも評されるこのまったく忘れられた作品は、作者であるアレクサンダー・ウィリアムズの他の作品とともに、2017年に Coachwhip Publication という出版社から復刻されました。

ノリスの紹介する作品は主に1930年代から50年代のものですが、時に現代の「謎解きを重視した作品」について執筆することもあり、個人的にはそちらにも強く注目しています。例えば、アンドリュー・ウィルソンA Talent for Murder (2017) は、アガサ・クリスティーの失踪事件に独自の解釈を加えた歴史ミステリですが、私はノリスの紹介記事を読んですぐkindle版を買い、あっという間に読み終わりました。この本は邦訳されないどころか紹介さえされない現状は謎、としかいいようがない秀作です。第二作はさらに面白いらしいのですが、私はまだ手をつけられていません。

彼の記事には多くコメントが寄せられており、それを読むのもまた一興です。有名な作家や評論家、ミステリマニアたちが集うコミュニティになっていて、そこから彼らのブログへとリンクしていくことができるのは嬉しいところですね。未訳の面白クラシックミステリを求める人はぜひ、こういったブロガーたちをリアルタイムでフォローしてみてはいかがでしょうか。

ではまた来週。

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