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D2(Dの食卓2)について

このnote記事を書くにあたり以下の動画を視聴したことがその原動力となりました。
もし『Dの食卓』やそのクリエイター『飯野賢治』氏をご存じない方、または改めて考えてみたいという方は視聴をしてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=rIIfLU4C49Y
令和ビデオゲームグラウンドゼロ実時間版飯野賢治とは何者だったのか?『Dの食卓』、『風のリグレット』、『エネミーゼロ』そして『きみとぼくの立体。』の作家を再評価する

『D2』(Dの食卓2)はワープ開発のドリームキャスト用ゲームソフトだ。

このゲームについて書こうとしたとき、思い出話に寄ってしまう。

中学生の時分、このゲーム終盤の理解しがたい物語展開とクリアに至った際は衝撃を受け、唖然としていた。年齢もあるかもしれないがゲームをクリアしてああした虚脱感を味わったのは初めてで、少しすると感情がどっと涌いてきて知り合いに長文メールを送ってしまった。
いまならぜったい見返せない。

当時は自分のなかにそれを受け止めきることも、比較のできる対象の知識もなかったのでなぜか『メタルギアソリッド』のエンディングを並び立てて文章を書いた記憶がある。

『D2』のエンディングは当世風に言えば『君の名は。』
ただし人間ふたりが巡りあったのちに挿入される実写による自然の映像、CGで描かれた恐竜の滅亡シーン、そしてわれわれの生活する地球についての文字情報が淡々と表示される。

あらためて見返すと、それらはとくに何も語っていないのだが明確な意図によって配置され、プレイする側はそこから何かを見出しうる。

飛行中にハイジャックを受けた旅客機に隕石が激突し、カナダの凍土で遭難状態になった主人公・ローラと乗客たち。多くの乗客が怪物に変異して襲い
くるなか雪山を探索しその謎に迫る、というのがこのゲームの導入部分だ。

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パッケージにはアクションアドベンチャーとジャンル名が付けられ、いわゆる『バイオハザード』に代表されるようなサバイバルホラーを想起させられる演出がなされている。
雪山を歩いていると往時のロールプレイングゲームのように怪物と遭遇し、主観でのリアルタイムガンシューティング戦闘に切り替わる。

本作は戦闘を経て経験値を得ていけばレベルが上がるところなどロールプレイングゲームとして位置づけられることもあるが、たしかにベースの部分はそうだと感じる。
当時はある程度幅を持たせて物語の舞台を描写しやすい花形のジャンルだったのもそう感じさせる一因なのだと思う。

一方で、しばらくぶりに観察するようにプレイしてみると複合的にさまざまな要素を取り入れているなと気づく。

上に挙げたもの以外にも、施設内の探索ではそれまでメーカーが主に製作してきた主観視点の3Dアドベンチャーゲーム(インタラクティブムービー)の要素をはじめ、スノーモービルによる移動、野生動物のハンティング、写真撮影などバラエティに富んでいて、1999年末の家庭用ゲーム機のタイトルとしてはそれぞれの要素にさほど断絶を感じさせないものになっている。

さすがに操作体系は2020年代の目で見ると古く感じるが、それでも雪山のグラフィックの描写や物体のアニメーション、特にこの頃から問題に上がり始めた3D視点ゲームのカメラワークについても、キャラクターとの距離の取りかたや視点の自動回転の速度などが気を遣って調整されている。

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フィールドではやや主人公から離れた位置にカメラの視点を設定し、UIを表示しないことで急峻な雪山の広大さが見て取れ、ボタンを押すと主観視点であたりを見渡すことができるなど、映像描写やプログラムの表現をみせる技術デモンストレーション、環境ソフトとしての一面も垣間見える。

ゲームハードの性能向上と開発側の技術の蓄積によって、それまでワープがリリースしてきたインタラクティブムービーの部分もまた変化している。
『Dの食卓』から『エネミー・ゼロ』そしてこの『D2』に至るまで、プリレンダリングムービーによって映像処理されていたものが徐々にリアルタイムでのポリゴン演算シーンに置き換わるなか、『D2』ではついに人間のキャラクターがポリゴンで描かれるようになる。

イベントシーンの多くがリアルタイムのデモで描かれ、相手に話しかけた際の短いシーンも方向や体勢によってカメラワークや動きが若干変化する。
屋内の限定的なシーンで使われるのみだが、プログラムされたものの不自然さを感じさせない映像になっていて、インタラクティブムービーというジャンルが持つ鑑賞者の操作でアクセス可能な物語世界に新しい表現を付け加えている。

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まったく​同一の会話内容だが、カメラワークや状態の異なるカットシーン。

ガンシューティングの戦闘は敵に狙いをあわせてひたすらにマシンガンを撃ち続ける。弾数は無制限。プレイヤーは一箇所にとどまり動くことはできない。
こう書くとあまり面白くなさそうだがプレイ当時から不明瞭なよさを感じていて、今回再プレイしたところそれがリズムアクションやパズルゲームのような部分にあると理解した。

おおよそ怪物は複数体で現れ、それぞれ特徴ある動きでこちらに迫ってくるが、左右に横跳びをしたり上下動をして視界の外へと消える。敵のいる側へ視点を切り替えるためにボタンを押すのだが、それが戦闘シーンの音楽や銃撃音、怪物たちの踊るようなステップと重なり合って韻を踏んでいるかのような感覚をおぼえる。
そして怪物たちの動きや攻撃の組み合わせにあわせて淡々と、せわしなく処理をしていくのは、見た目にはガンシューティングだが落ちものパズルでブロックが積みあがっていくような切迫感がある。

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フィールドでエンカウントする怪物に対してはそういった気持ちよさがあるのだが、それがイベントボス戦では視点の移動が少ないためか通常のガンシューティングゲームのボス戦とさほど差がなくなってしまい単調に感じてしまう。戦闘中の演出や強烈なボスたちのキャラクター性でそれをカバーしようとしているが、それはまた別の部分の面白さだ。

このマシンガン撃ちっ放し戦闘はトリガーを引くプレイヤーの感覚を徐々に麻痺させ、崩壊させていく。
プレイヤーは引き金を引いている間に空しさを感じ、ボスが倒れるとローラが虚しさを感じるシーンが挿入される。降りかかる火の粉を払うためだったものが、破壊するために引き金をひくことにシフトする。

物語上では無抵抗なものを破壊して虚無を感じ、感覚を失っていくなか、最後の敵との戦いを迎える。
最後の敵はグロテスクな外見で、アイコンとして「邪悪」だとひと目でわかる。そして大仰で尊大な台詞を吐きながらローラの「視覚」「聴覚」を奪い彼女に痛手を与えるが、奪われる感覚すらなくなっているプレイヤーにはまったく効き目がない。

最後の敵に到達するまでにプレイヤーの心理を空にし、さらにその敵が空々しい台詞を響かせることで余計にその空虚さを感じさせられる。
視えない敵を倒すために「聴覚」をたよりにしたギミックは前作『エネミー・ゼロ』で試みられ、同社の『風のリグレット』ではそもそも画面、「視覚」を取りさってしまった。
視覚・聴覚と並べ立てるとわかりづらいが、どちらも聴覚に集中することに重きを置いている。

『D2』はどうだったのか。
視覚と聴覚を奪う敵をみるとそうした過去の作品群へのオマージュや集大成として捉えてしまうかもしれないが、そうだとしたら余りにもうまくいっていないし、それにしてはあからさまな台詞と演出だ。

本当のところはどうなのか想像するしかないが、「視覚」と「聴覚」とは別の、具体的でない何らかの感覚を感じさせようとしていたのではないか。
たとえば「心」とか。

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『D2』はそうした表現に辿りつく前の、限界や制限を抱えたまま生まれたのではないかと思う。
最後の敵を葬るための演出は、感覚を奪われたローラの記憶の内にある、愛する者の心の声だった。

『エネミー・ゼロ』は実際に聞こえる音声がそのまま演出とゲームプレイを担保していたため問題はなかった。だが『D2』の心の声はプレイヤーには音声として聞こえ、ローラにとっては音声ではない。

心の声が音声や文字として表現されることはゲームのみならず多くのメディアで当然あるが、それはこのゲーム自身が課したポリシーに反する表現になってしまう。それがたとえどんなに慎重で注意深く入れられたものであったとしても。

それでもそうせざるを得なかったのは、そうした感覚をプレイヤーに感じさせる手法を見つけ出せない限界があったということなんだと、再プレイをして強く感じた。

こう自分が思うのも、このゲームのクリエイター『飯野賢治』氏がのちに製作したWiiソフト「きみとぼくと立体。」のプレイ感覚や、この記事を書く半年ほど前に『エネミー・ゼロ』をクリアした経験があったからで、『D2』をはじめてプレイした十数年前の段階では当然思わなかったことだ。

ただただ唖然として虚脱した当時と、クリエイターがひとつの限界に到達したことを想像した今では、序盤のデモシーンや、ゲーム中一貫して現れていた『花』のモチーフの見え方もまた異なってみえてくる。

『D2』は自らの美学を完遂しえなかったのかも知れないが、いつまでも凝固せず、不安定で、評価不能な衝撃を与え続ける。

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・D: The Game(前作『Dの食卓』の海外配信版)
https://store.steampowered.com/app/510590/D_The_Game/ (Steam)
https://www.gog.com/game/d_the_game(GOG.com)
・eno blog(飯野賢治氏の公式ブログ)
https://fyto.com/eno/
・Dの食卓2 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/D%E3%81%AE%E9%A3%9F%E5%8D%932

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