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UNISON SQUARE GARDEN 田淵智也インタビュー 『Ninth Peel』と20周年を前にしたバンドとの向き合い方を語る

2023年4月12日、UNISON SQUARE GARDENの9枚目のアルバム『Ninth Peel』がリリースされました。

今回は『MODE MOOD MODE』『Patrick Vegee』のリリース時に引き続き、バンドのメインコンポーザーである田淵智也さんへのインタビューをお届けします。

※過去のインタビューはこちら

アルバムの美学を突き詰めた2枚を経て、バンドとして自然体で作られたアルバム『Ninth Peel』。ただ、「自然体」と言いつつ、そこにいろいろな企みがあるのもこのバンドの面白いところです。

今作における田淵さんなりのユニゾンとの向き合い方、そしてこの先もユニゾンを続けるための工夫と決意について、大いに語っていただきました。約10,000字、一気にどうぞ。



自分の実感にこだわりすぎなくても、バンドで音を鳴らすとかっこいいものとして受け取ってもらえる

――前作『Patrick Vegee』のインタビュー時では「『MODE MOOD MODE』から『Patrick Vegee』の流れでアルバムを作ることに関してはかなりやりきった」という心境をお話しいただきました。そこからのアルバム制作ということになりましたが、今回は作品全体の大枠から組み立てるというよりは、それぞれの曲を作ることから始まっていったという経緯が他のインタビューでも語られていますね。

「そうですね。前のアルバムでは「この曲とこの曲がつながったら超かっこいい」「このブロックにはこういう曲が必要」ということを考えながら作っていたのですが、今回に関してはそこまで詰めていないというか、できたものをとりあえずOKにして曲順は後から考えようくらいの感じでした」

――アルバムというフォーマットにある種のロマンを抱いている田淵さんからすると、大きなマインドの変化が起こっているようにも見えますが、その背景には何があるんでしょうか。

「言い方が難しいんですが、そういう作り方については一旦満足したっていうのが結構大きくて。だからといって今後そういう作り方をしないのかというとたぶんそんなことはないんですが…これまでを改めて振り返ってみた時に、自分がどれだけ心を込めたかとは別の次元で、「こんな感じでやるとみんな評価してくれるんだろうな」くらいに軽く作ったものがすごく評価されるケースってたくさんあったなと思ったんですよね。そういうことに気づいたのが影響しているというか、「作品全体のことを考えた曲を並べて完璧なアルバムを作るぞ!」と力を入れるんじゃなくて、意図的に自分にブレーキをかけながら「大体このくらいでいいはず、ここでOK出しておこう」という気持ちで1曲1曲を積み上げていった結果が今回のアルバム、というイメージです。もちろんこれは手を抜いているとかそういうことではなくて、自分の実感にこだわりすぎなくても、バンドで音を鳴らすとかっこいいものとして受け取ってもらえる事実をちゃんとポジティブに受け取りたいなという気持ちからきています」

――なるほど。アルバムリリースが発表になったタイミングで公式サイトにアップされたインタビュー(※以下リンク参照)でも「本当にさらっとちゃんと良い曲として成立するように作った11曲」とありましたが、力を入れすぎないこの感じは今作のキーワードですね。それで言うと、そのモードと先般のツアーで披露されていたMCなしで突っ走るスタイルもつながっているような気がしました。バンドとしてやるべきことが研ぎ澄まされていく中で、アウトプットはある種のさりげなさ、何気なさみたいな空気をまといつつあるというか。


「言われてみればそうかなとも思いますね。ライブのスタイルに関しては、大前提として「MCをせずにでかい音を鳴らして帰るだけ」がロックバンドとして一番かっこいいという持論からのものではあるんですけど、ライブをやることを特別視しないというか、本当に普通のこととしてさらっとステージに上がるって態度を見せるのはロックバンドを続けていくうえで重要なんじゃないかと思っているんです。その話の延長で言うと、曲を作る時も1曲1曲すべてに魂を込めて作りすぎるとたぶん枯渇するし、一方でシングル曲は否が応でも力が入るから他の曲でもそれをやるとアルバムも力の入ったものになるわけで、でも今そういうものを作りたいと思っていないし…みたいな中で、あくまでも普通に曲を作っていくことを続けながら出来上がったのが今回のアルバムですね」

――ライブの「ふらっと出てきて帰るだけ」もそうですけど、バンドとしてのプレーンな姿を見せることに意義を感じているタームというか。

「自分が感じている世間に対するずれみたいなものを声高に言いたくなる瞬間が活動している中でたびたびあるんですけど、今はわりとその時期かも(笑)。自分たちが特に強く誤解されているとも思わないんですが、世の中でロックバンドとされている人たちが目指しているものと自分が考えるロックバンド像に違いがあるなと思うのも事実なので、「自分たちがやりたいことはこれである」を示したい気持ちが15周年を越えてからの活動には色濃く出ているかもしれないですね」

――「世間に対するずれ」で言うと、2010年代にフェスがロックシーンの中心になっていく過程で田淵さんはその流れに対するご自身の意見をいろいろな形で表現されていました。端的にいえば「音楽の楽しみ方はもっとたくさんあるぞ」ということだったと理解しています。あれから時間が結構経って、今はロックバンドも含むあらゆるポップミュージックがTikTokとストリーミングサービスを中心としたエコシステムに組み込まれるようになりましたよね。そういう時代の変化について、ミュージシャンとして発信したいこと、表明したい意見ってありますか?フェスに対してはある種のカウンターを見せよう、という立場が明確だったと思うのですが。

「そこまで深く考えているわけじゃないけど、フェスブームの時に感じていたのと近いことは思っているかもしれない。何かが流行ったとして、結局その上で何をやるかっしょみたいなのが自分の感覚で。フェスでもTikTokでもそうだけど、そこでちやほやされたからといってバンドとして長続きするかどうかには関係ないし、むしろ瞬間的にファンが増えることでバンドの寿命が縮むことすらあると思うんですよね。俺がやりたいのはバンドを長く楽しく続けることだから、そういう風潮はあんまり関係ねえやというポジションでいようという気持ちはあります」

――なるほど。超そもそもの質問なんですけど、時代の流れやマーケットから要請されるものとご自身のやりたいことのギャップに敏感で、それを何らか言葉として発信する、という田淵さんのアクションは常に一貫していると思うのですが、そういう行動を生むモチベーションはどこからきているんでしょうか?

「そうだな…あえてかっこつけると、こういうポジションをとることで救われる人もいる、と言うと大げさかもですが、言葉にすることでユニゾンを好きでいてくれる人たちが「なぜ自分はユニゾンが好きか」をちゃんと理解できる部分もあるんじゃないかなとは考えています。本音では、「わざわざ華やかなものをくさす必要はないし、普通に音楽をやっていればいいのでは?」「そういうことを言うのはただの負け惜しみで、器が小さいのでは?」と思う自分もいるんです。でも、自分が音楽をやるうえでの考えや実感を伝えることで、どうやって音楽と向き合うかの視野が広がる人もいるはずで、そこには意味があるんじゃないかと思っています」

ぜひ深読みしていただければ

――新譜の具体的な話に入っていければと思います。僕の最初の感想は「超楽しそうなアルバムだな!」だったんですけど。音からのびのび感を読み取ったのですが、作りこんだ2作を経て解き放たれた、より自由にやれるなと思った、というような心持ちは何かありましたか?

「自由にやれる、とかはそこまで具体的には思ってなかったかな。今回はアルバムのコンセプトを決め込んだ作り方はしていないけど、別にそれをやりたくなくなったわけじゃないから、どちらかといえば「アルバムづくりを意識しすぎないキャラ」を演じていたみたいな方が近いです」

――なるほど、そのキャラを通して、メンバー間の関係性はいかがでしたか?『Patrick Vegee』のときもメンバーの提案をどんどんOKにする雰囲気で進めたとのことでしたし、今回もMUSICAのインタビューで同じようなお話がありましたが、バンドの中での風通しのよさみたいな部分に今回の作り方が影響していたのかどうか。

「それぞれの提案の良さを認めて進めた方がみんなのやりたいことが反映できる、とは考えていました。その辺は長くやってきての信頼関係もあるから、心を込めて持ってきてくれたものはいいに決まっているだろうと」

――アルバムに至る前段として、「kaleido proud fiesta」「カオスが極まる」という2曲のシングルがありました。


「バンドのバイオグラフィーとして、19年目で改めての代表曲みたいなものが2連発で出てくることってそんなにないと思うんですよね。いろんなラッキーが重なったゆえではありますが、それこそさらっと作った曲が多いアルバムの中で、めちゃくちゃ力入れてつくったやつが自分も気に入っているし周りからの評価もいいっていうのは結構奇跡的なことだなと」

――この2曲はそれぞれ『TIGER & BUNNY 2』『ブルーロック』とのタイアップでしたが、ここで次のユニゾンを見せるぞみたいな感じはあったんですか?

「いや、次のユニゾンを見せるぞよりは、しっかり愛を持って作品に合うものを作りましょうって気持ちだったと思います。自分たちの個性や得意なことを考えたうえで、役目を果たそうというのが大きかったかもしれない」

――シングル2曲で強みと向き合ってアルバムへ、というのはストーリーとしても美しいですよね。で、アルバムタイトルが『Ninth Peel』ですが、ここで「皮」という言葉になった意味ってあるんですか。

「これは「City peel」からひょいとつけただけですね。曲を並べた時にアルバムタイトルが思いついてなかったので、収録曲からとればいいかなと」

――コピーの「剥いたら答えがあるのでは?」とか意味ありげですが。

「キャッチコピー的なものは全部後付けですね(笑)」

――表面だけで音楽をわかった気になるな、みたいなメッセージとかはないんですか?

「いいですね、それ!書いておいてください(笑)。ぜひ深読みしていただければ」

――後付けで深読みさせよう、とかそういうことは考えながらやるんですか?

「まあ基本的には歌詞もメッセージも何でもいいじゃんと思っているんですが、一方で何か説明できるものがあった方が説明しやすいです、そこを田淵が考えてくれると助かります、みたいなのがスタッフ的にあるのであれば全然やります、くらいの感じです」

ーーホスピタリティ的な観点から。

「あとこれはつながっているかわかんないですけど、僕を拾ってくれた最初のマネージャーの人に「歌詞に意味がないというならそれでもいいけど、何か聞かれた時にはちゃんと説明できるようにしておけ」って言われたのが今でも記憶に残っているんですよね。それもあって、作品について語るうえでのキャッチコピーとかも必要であれば考えますと素直に言えるようになりました。自分のキャリアを振り返ると、そんな周りからのアドバイスに影響を受けたり、あとは時代に合わせて言うことを変えていたり、いろんなマイナーチェンジをしながらここまで来たんだなと思います。そういう意味では、言葉通りに「何でもいいや」と考えていた昔の自分とは、本質的な部分は同じだとは思うけど見え方としてはだいぶ違う人になっているんじゃないかな」

作りこみすぎるとわからないユニゾンへの評価や自分への評価に興味がある

――個別の曲の話もお聞きできればと思うのですが、リード曲の「恋する惑星」はどういった経緯で選ばれたんですか?『MODE MOOD MODE』がポップに振り切ったアルバム、『Patrick Vegee』が3人の音にこだわったアルバム、ときてホーンのガンガン入ったあの曲が今作を引っ張る役割になっているのがなかなか面白いなと。


「リード曲に関しては、今回はディレクターが好きと言ったやつにしようと思っていました。「恋する惑星」はそんなにうけるとは思っていなかったんですけど、これがリードになる流れになったのでじゃあそうしましょうという感じで。だからこの曲がアルバムの顔的な位置づけになったのは偶然の産物ではあるんですけど、ピアノも入れて、ホーンも入れて、ライブでは同期ありで鈴木(貴雄、ドラム)くんがヘッドホンする曲が増えちゃうかもだけど、もう何でもいいかな!みたいなモードが反映されているという意味では今回のアルバムっぽい曲かもしれない。ユニゾンの曲はバンドの音でなければならないと必ずしも思っているわけではないので、アレンジも人に任せてかっこいいホーンを入れてもらおうとなったのですが、それも自分なりに飽きないようにバンドをやる工夫ってことなのかもしれないですね」

――今のお話で2つお聞きしたいことがあって。1つ目はアレンジに関することなんですけど、上物をいろいろ入れる曲は『MODE MOOD MODE』でも試されていたわけですが、その時と今回の「恋する惑星」で考えていることは違いますか?何となくですが、単に「また『MODE MOOD MODE』にも入りそうな曲を作った」ということではないんじゃないかなと。

「それはね、結構いい指摘だなと思っていて…確かに違うんですよね。『MODE MOOD MODE』のときは、それこそさっきの話じゃないですが、なぜオーケストラなのか、なぜホーンなのか、僕が全部説明して差し上げましょう!みたいな感じでした。説明を加えないと自分のモードが理解されないんじゃないかという気がしていて…ちゃんと伝えようという気概だけじゃなくて、恐れに近いものもあったのが正直なところです。でも今回はそういうことではなくて、面白そうだから入れよう、入れてみました、わあ面白い、最高!くらいのものです(笑)。で、それがユニゾンとしてどう届くか、みたいなのは正直どうでもいいというか。「どうでもいい」がちょっと投げやりに聞こえるのだとすると、自分たちに自信もついてきたのでこういうことをやっても舐められることはないだろう、であればわざわざ曲作りにおいて制約を課したりその狙いに言葉を尽くす必要もないんじゃないか、という気持ちです」

――うんうん。その流れで2つ目の質問にいきたいんですけど、ここまでのお話を聞きながら、田淵さんとユニゾンの距離感に結構重大な転換が起こっているんじゃないかなと思ったんですよね。

「距離感ですか」

――リード曲選びをディレクターの方に任せたり、楽曲づくりやその伝わり方についての「どうでもいい」「何でもいい」というスタンスだったり、田淵さんがユニゾンスクエアガーデンというものをいい具合に手放し始めているなという感じがしたんです。これまで田淵さんがある程度の部分を抱えたうえでドライブさせてきたユニゾンから、自分以外の関わっている人たちの思いやファンの反応まで含めて全部ユニゾンを形作っているんだっていうふうにちょっと意識が変わっているんじゃないかなと。で、それができるのは、先ほどおっしゃってた「自信がついた」からなんですかね。そういうことをひっくるめて先ほど「距離感」と言ったんですが、どうでしょうか。

「なるほど。そう言われると「おっしゃる通りです」って返したくなるくらいにはそんな気がしていて。まず、前2作の流れはこの先バンドが解散したとしても「あそこが最高傑作だったよね」と言われるようなものになったと自分で思っているんです。それをやれたから、バンドとアルバムに自分のロマンを詰め込んで「頼むぞ、これは世の中に届いてくれ」って評価を待つのではなくて、「こんなのでいいんだっけ?」くらいのものを投げ込んでみて、それにいい反応が返ってきたときの方が今の自分にとっては新しい発見がありそうなんですよね。そこで評価されれば、今までとはまた違う自信にもつながるし。作りこみすぎるとわからないユニゾンへの評価や自分への評価に興味がある、というか」

――面白いですね。その「新しい発見」というのも、さっきちらっとおっしゃられていたバンドを飽きずに続けていくためにも角度の違う刺激が欲しいな、ということなんでしょうか。

「刺激、と言うと微妙に違うんだよな…20周年を前にして飽きたくない、というのももしかしたら大きいかもしれないですね。ここまでやってきて、20周年目前で目を血走らせながら活動していたものがこけちゃったらもったいないというか。だからこそ、ふわっと作ったものを外に出して、評価されたら嬉しいし、されなければこんなもんかと思って終わりだし、どっちに転んでも面白い状況にしておきたいというのもあるのかなと今話していて思いました」

――適度な防衛本能みたいなのもありつつ、そこに何らか新しい空気を取り入れられるのであれば取り入れたいと。

「うん。ただ、あくまでもこれは「今のモードが」なんですけどね。今後ずっとこうなる、ではないだろうなとは思っています」

――ありがとうございます。「恋する惑星」からの流れで話を続けると、「City peel」「Numbness like a ginger」という2曲のジャズ、もしくはシティポップテイストの楽曲が印象的です。

「先に「City peel」ができて、そのあと『ブルーロック』からいただいたお題に沿って「Numbness like a ginger」を作ったという流れなので、こういうタイプの曲が2つあることには何か意図があるわけではないんです。もともとゆっくり系は「City peel」くらいに思っていたんですけど(笑)、制約をつけないっていう今回のモードに照らせばどっちも入れておこうと」

――この2曲のラインで思い出したのが『MODE MOOD MODE』収録の「静謐甘美秋暮抒情」なんですが、あの時も「なんちゃってであればシティポップっぽいのは作れる」というようなお話があったかと思います。バンドとして深掘りしてきたジャンルではない曲も、今作のコンセプト通りさらっと作れる、そういうところに相変わらずバンドとしての底知れなさを感じます。

「僕は置いておいて、2人はスーパープレーヤーなので…それぞれができることをやると謎のジャンルが出来上がる、みたいなのはあると思います。ジャズやシティポップに傾倒してるわけではないのですが、自分の中での漠然としたイメージに寄せていくと何か新しいカラーの曲ができるだろうなという予感はありました。今名前の挙がった「静謐甘美秋暮抒情」、もともと思っていたよりもだいぶ評判がいいんですよね。斎藤(宏介、ボーカル&ギター)くんの低い声っていいんだなというのもあの曲で勉強になりました。彼がリハーサルで何気なくおしゃれなコードを弾いているのを見ると、そういうのを弾きながら歌っている斎藤くんの姿が思い浮かぶので、こういう曲も書けるときには書きたいと思っています」


音楽性とかに関してはもうあんまり心配していないんです

――今回のアルバムを経て、バンドとしても20周年に向かっていくことになると思うので、最後にそんなお話ができればと思います。20周年に向けてバンドのストーリーをよりプッシュするために、ドキュメンタリーとかリアリティ番組とかって作ったりしないんですか。

「おお、すごい具体的な質問(笑)。ドキュメンタリーね、いいアイデアが出てくるかわからないですけど…20周年に関してはずっと自分が目指していたことなので、バンドの人生の中で一番大事な1年にしたいという気持ちが強くあります。これまで「メジャーデビューおめでとう」「1周年、5周年、10周年ですね」と言われることに対して「いやいや、バンドは続いてなんぼでしょ」とずっとファイティングポーズをとり続けてきて、いよいよそこに辿り着くぞっていうワクワク感があるから、なるべくハッピーな1年になるといいなと。そこに向けていろいろやっていきたいんですが、さっきご指摘いただいたようなバンドとの距離感だと「これをやろう、あれをやろう」っていうモードに自分を持っていけるのか、というのはちょっと不安になってきました(笑)。ワクワク、ハッピー、というのも本当に思っていることなんですけど、それよりもまずは駆け抜けたい、それだけで精一杯という方が大きいかもしれないですね。その先は全然考えていない、くらいのモードでいるので」

――唐突にピンポイントの質問をしてすみませんでした。実は今の質問、ChatGPTで作ったものなんです。

「え!やば!(笑)」

――ChatGPTで「結成20周年を迎えるロックバンドの今後について検討する上で、適切な質問を投げかけてください」って入力して、10個くらい出てきたうちの10個目が「バンドのストーリーやメンバーの個性をより引き出すために、ドキュメンタリーやリアリティ番組の制作を検討したことはありますか?」でした。

「そうなんですか。やべえ、超面白い」

――インタビューでも使えるかな?と思って初めて活用してみました。で、ちょっと壮大な話になってしまうんですがこれに関連して、今のAIの流れを考えると、ロジカルな整理に使えて、絵も描けて、となると、遅かれ早かれ音楽にもこの波は来るかなと思っていて。

「そうですね」

ーーそういう時代が来るだろうと考えた時に、田淵さんが続けたいロックバンドというフォーマット、人が集まって電気を使って大きな音を鳴らすというスタイルはその一番極北にあるというか。人間がやるべきこととテクノロジーに任せた方がいいことの線引きがどんどん変わっていく中で、この先ミュージシャンとしてどうあるべきか…みたいな話を聞けるといいなと思ったのですが。

「基本はなるようにしかならないというか、本当に「AIが作曲家の仕事を奪う」みたいな世界になっていって自分もそれに飲まれちゃったら仕方ないとしか言いようがないんですが、AIに勝つか負けるかよりはどう使うかの方が大事ですよね。クリエイティブな観点で言えば、歌詞に困った時に「5文字でおしゃれなやつちょうだい」と投げかけたら新しい発想が広がるかもしれない(笑)。まあただこういう使い方については若い世代からどんどん巧みな人たちが出てくるんでしょうし、そこと正面から勝負しても確実にかなわないので、その技術の背景も恩恵も知っている、でも自分はそこまで使いこなすアイデアもないからやらない、くらいの温度感になれるといいんでしょうね。こういうものの存在を無視するのが、一番キモいおっさんの態度だと思うので…そのうえで、最初の方に話した「自分がちゃんとポジションを示すことで救われる人もいるのでは」という部分はAIがどれだけ進化しても変わらないと思うので、そっちの方を大事にしたいかな」

ーー時代の流れを見つつも、より普遍的なことに目を向けるのがユニゾンのアプローチですよね。逆に「変えていかないといけないこと」って何かありますか?

「変えていかないといけない…健康との向き合い方とか(笑)。これは真面目な話、この先老いていきながらもバンドを続けていくときに、心身ともにどう健康でいるかっていうのはほんとに大事になりますよね。10年前はそんなこと気にしてなかったからこれは変化だと思うけど、まあこれはアラフォーの人ならみんな考えることですね。あの、音楽性とかに関してはもうあんまり心配していないんです。変わったら変わっただし、変わらなきゃいけないとも思っていないし。ロックバンドってこうだよね、ロックバンドってこういうライブやるよね、というのをユニゾンスクエアガーデンの枠の中でかたくなにやり続けるのが多分正解なんだろうなと」

ーーやはり「変わらないこと」にユニゾンの本質があるんですね。

「うん。自分たちが貫いてきた姿勢みたいなものをまだ知らない、急にその良さに目覚める人がいるかもしれないから。そういうところだけは変えちゃいけないのかなっていう気はしています」


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