秦 基博オフィシャルインタビュー 「一区切り」後の現在地と新曲「花」を語る

秦 基博の新曲『花』がリリースされました。

アコースティックな雰囲気が美しくも力強い楽曲です。アナログレコードと配信のみでのリリースとなります。

この曲に関連して行ったオフィシャルインタビューの模様をこちらでお届けしたいと思います。

新曲「花」の話に加えて、このレコードの発売元でもある「HOBBYLESS RECORDS」を立ち上げたきっかけ、ベスト盤&横浜スタジアムライブを経ての現状、「ひまわりの約束」が自身の活動に与えた影響、ビートが重視される時代におけるメロディの位置づけ、などなどいろいろ話していただきました。

もしかしたら意外と知られていないかもしれない「音楽家・秦 基博」としての側面に目を向けていただける内容になっているかと思います。それではどうぞお楽しみください。

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音楽に対して、改めてフラットな気持ちになれた

--昨年は横浜スタジアムでのライブにベストアルバムの発売と、ご自身のキャリアを総括するような出来事が続きました。


 はい。その2つで、まずは「一区切り」だなという気持ちはあります。

--そういったご自身のモードは、曲作りのあり方などにも影響を与えているものなんですか?

 そうですね……音楽に対して、改めてフラットな気持ちになっているような気がします。いろいろなことをそぎ落として、もともと好きで始めた音楽をもっと楽しくやっていきたいという気持ちがさらに強くなりました。

--なるほど。「そぎ落とす」とのことですが、これまでの活動の中で何かしら「余計なもの」がついてしまったような意識もあるんでしょうか。

 もちろんこの10年間が「音楽をやるのが楽しくなかった」というわけではないんですけど(笑)、アマチュアの頃とは音楽に対する向き合い方が変わってきているなと感じることはやっぱりあるんですよね。これは「プロミュージシャンあるある」だと思うんですけど、「曲作りの期間がある」「それが終わったらレコーディングする」「作品をリリースしてプロモーションする」「ツアーに出る」っていう一連の流れに加えて、音楽以外にも何かとやるべきことがあるので、自由に音楽と関わる時間が減る、みたいなことが起こりがちなんです。昔はある意味で「365日音楽」っていう感覚もあったのに、プロになることでそこから少し離れる部分もあるというか。

--音楽から少し離れる時期があったり、また音楽活動自体がルーティンになってしまう側面もあると。

 そうですね。そういうリズムで活動できることは本当に幸せなことなんですけど、今はタイミングとしても区切りがいいので、同じサイクルで次の作品に向かっていくというよりは「あ、こういうの作りたいな」というような気持ちをより大事にしたいと思っています。急いで何かを作るのではなく、「日々の生活の中からこぼれ落ちたものが気づいたらアルバムとしてまとまっていた」というような感じでやれると理想的だなと。制作のペースとしてはゆるゆるやっているように見える部分もあると思いますが、自分としてはより音楽と密接な状態で生活できていると思っています。

「曲が言葉を呼んだ」としか言いようがない

--新曲の「花」ですが、今お話しいただいたような秦さんの「フラットな状態」というようなモードも反映されているのかなと思いました。タイトルもまさに「そぎ落とされた」ものになっていますね。

 曲を作るにあたって、サビの<何のために咲いてるのか 何のために色づくのか 何のために散りゆくのか 君に逢うために生まれたんだ>という歌詞がメロディと一緒にできて、そこから頭に戻ってAメロ・Bメロまで一気にできました。曲全体が「花」について歌っているものになったので、タイトルはそれしかつけようがなかったですね。言葉もメロディも骨太で大きなものになったと思うので、タイトルもそれに合わせてシンプルなものになりました

--このサビのフレーズは人間の生き方そのものに対する投げかけで、普遍的なものでもあると思います。今回そういった言葉がサビに出てきている、そしてそれが花をモチーフにしているというのは、秦さんの問題意識と何かしらリンクしていたりするんでしょうか?

 もともとこの曲はパナソニックの企業CMのために作られたもので、いろいろな人の生き様を描くというCMの内容とつながっている部分はあります。なので、自分自身のことを歌にするということに加えてストーリーテラー的な視点というか、誰かの営みを描き上げるという意識も同じくらいあったように思います。それがなぜ花をモチーフにした言葉として出てきたかっていうと……正直、自分でも本当にわからないんですよね(笑)。自分の何と結びついてどういうきっかけでこうなったか、っていうのは全然説明できないです。特に具体的なエピソードがあるわけでもないですし、「曲が言葉を呼んだ」としか言いようがないですね。浮かんできた曲のイメージがすごく大きなものだったので、身近な視点で何かを描くということではなくてこういう俯瞰で見たような言葉になったのかなとは今振り返ると思います。ただ、そうやってロジックを積み重ねて作ったものではないです。

--なるほど。「曲が言葉を呼んだ」というお話ですが、そういう形で曲に導かれて歌詞の世界が決まっていくケースの方が秦さんの楽曲制作においては多いんですか?

 そういうパターンで作ることが大半ですね。コンセプトや言葉から始めるケースより、自分の中に思い浮かんだ曲の持っている景色とかイメージとか、そういうものを起点に曲を書くことが多いです。

--タイアップで曲を作る場合は、対象になっている作品やCMなんかがその「景色」や「イメージ」に影響してくるわけですね。

 そうですね。その作品の映像とかを自分の中のイメージと結び付けて、そこから湧き上がるものを音にしていく作業をする、という感じです。

--「花」のようなタイアップというか秦さん以外の方の表現物があったうえで曲を生み出していく場合と、ご自身でゼロから曲を作る場合で、作り方に関して何かしら違う部分というのはありますか?

 違うのは出発点だけですね。入口のドアは違うけど、入ってしまったら結局は一緒というか。自分の心がどう動いたかを表現することで曲が生まれてくるので、最初に自分の心に作用するものはタイアップかそうでないかで違いますけど、いざ作り始めちゃえばどちらでもあんまり関係ないです。

--わかりました。「花」はアレンジもメロディと歌詞の良さを生かすものになっていますよね。シンプルなアコギにピアノやチェロが入る流麗な雰囲気がありつつ、それを引き立てるように全体に引かれている打ち込みのリズムが印象的です。この辺はどういった発想で組み立てていったんですか?

 アレンジのあり方もあくまでも曲が呼び込んだものというか、自分の中で鳴っている音を重ねていった結果こうなったものではあるんですが……ただ優しいだけの曲にはならないように、ピアノやチェロのような美しい音色に加えて、リズムトラックにはハードな感触も残しました。美しいものとハードできれいすぎないものが共存することによって曲の世界をより表現できるんじゃないか、ということは意識していましたね。

--なるほど。美しくなりすぎると、「生き様」みたいなところからは少し離れていきますね。

 リアルな手触りみたいなものはこの曲にとって重要だと思ったので、それがちゃんと伝わるようにしたいなというのは仕上げるうえで考えていたことです。

「HOBBYLESS RECORDS」は「レコード研究の足がかり」

--「花」は秦さんが立ち上げたアナログ専用レーベル「HOBBYLESS RECORDS」からの第2弾リリースとなります。もともとこの「HOBBYLESS RECORDS」はレコードショップの方からの要望もあって立ち上げたという側面もあるとのことですが、ご自身の中でこういう取り組みをしようと思ったきっかけは何かありますか?

 今の時代は音楽の聴き方も多様化していますが、CDや配信で秦 基博の音楽を聴けるのと同じように、アナログレコードでも秦 基博の音楽を楽しんでほしい、そして自分も楽しみたいと思ったのが大きな理由ですね。もともとアナログレコードにはそこまで接点がなかったんですけど、エンジニアの方からスタジオでの作業の空き時間に「いいシステムがあるからそれでレコード聴こう」なんて誘ってもらったりして、アナログの良さを少しずつ知っていきました。そんな中でショップの方から「ひまわりの約束」をアナログで聴いてみたいというお話をいただいて、じゃあ自分の音楽がアナログレコードになったらどういう聴こえ方になるのか、自分も聴いてみたいし、せっかくならそれを深めていく場を作ってみたらいいんじゃないか、ということで「HOBBYLESS RECORDS」を立ち上げました。なので、このレーベルは自分にとっての「レコード研究の足がかり」でもあるんです。言ってみれば趣味ですよね。「無趣味」とか言ってるのに(笑)。

--(笑)。

 まあこの「無趣味」って話も、デビューしてからずっと「趣味は?」「はまってるものは?」と聞かれて「ないんです……」って答え続けているんですが(笑)、これももともと音楽が趣味だったのにそれが仕事になったから趣味と言えるものがなくなったというのが本当のところなんですよね。「趣味はないけど音楽だけ好き」っていうところに向かっていければいいなという思いもこのレーベルの名前にはこめられています。「ひまわりの約束」のアナログについてはすでにある曲をカッティングしたらどうなるかということをトライできて、今回の「花」についてはカッティングすることを見越して音源を制作したりといろいろ勉強になっています。

--なるほど。聞けば聞くほど贅沢な趣味ですね(笑)。

 そうですね。今回みたいに新曲を出せるとも正直思っていなかったので……(笑)。いろいろな方の理解を得てこういう形になりました。なかなかこんなチャンスもないと思ったので、B面にはレーベル名をタイトルにした楽曲を収録しています(「Mr. HOBBYLESS」)。

--先ほど秦さんのお話にもありましたが、音楽の楽しみ方というのは日に日に多様になっていっていると思います。秦さんご自身もリスナーとしてそういう環境を実感されていると思うんですが、そんな時代において音楽の本質的な価値ってどういうものだとお考えですか?

 うーん、難しいですね……少なくとも自分にとっては、音楽の魅力って「非日常を与えてくれること」なんですよね。聴いた瞬間に新たな景色が広がったり、昔の記憶がフラッシュバックしたり、そういう音楽の持つ力は聴き方が多様化しても変わらないんじゃないかと思います。音楽というものに対する接し方が世代によっても違うと思うので一般化して言っていいかはわからない部分もあるんですが、時代が変わっても例えば小さい子はいつでも自然に歌を歌ったりしますし、そういう意味では誰しもが音楽の楽しさを知っているはずなんですよね。作り手としては、配信とレコードだと音楽との向き合い方が変わってくるというようなことは意識しつつも、「自然と体が動き出す」とか「見たことのない景色が見えてくる」とかそういう体験につながる音楽をいかに作り出せるかということにこだわっていきたいと思っています。

今の時代にもフィットする自分なりのメロディやサウンドがきっとあると思う

--一旦キャリアの区切りを迎えたというお話がありましたが、秦さんのこれまでの活動を振り返ってみるとやはり「ひまわりの約束」という曲が広く聴かれたことはとても大きな出来事だったのではないかと思います。


 はい。

--あの曲が浸透する中で、「世間が求める秦 基博像」というものも定着していったという側面もあるように感じるんですが、そういう世の中のムードは秦さんが音楽を作るうえで何か影響している部分はありますか?

 影響はあると思います。ああいう曲調、具体的に言えばミディアムバラードでちょっとあったかい雰囲気の楽曲を求められるケースは増えている感じもしますし。「こういう曲調が欲しいな→そういえば「ひまわりの約束」ってあったな→じゃあ秦 基博にオファーしよう」というつながりはあると思うし、それ自体はとてもありがたいことなので、そういう状況も踏まえたうえで自分にできること、かつ自分のやりたいことは何なのかを常に考えています。「ひまわりの約束」に限らず以前やったことを繰り返しやるのは面白くないなと思っているので、「全く同じようなものを作ってほしい」と言われたら「今は難しいかな」となることもあります。

--最近だとauのCMで使われている「お家をつくろう」(歌を桐谷健太扮する浦島太郎、作詞をCMプランナーの篠原誠、作曲を秦が担当)はわりと「ひまわりの約束」の雰囲気にも通じるものがありますね。


 あの曲も先ほど言った「そういう曲調が求められているのかな」というものも踏まえて作った曲ですね。今の自分が歌うのではなくてCMの企画として別の誰かが歌うということであれば「あり」だなと思いました。

--「以前やったことを繰り返しやるのは面白くない」というお話もありましたが、サウンド面で今後やってみたい、もしくは直接やるかはわからないけど気になっているものだったり、そういうものはありますか?

 やるかやらないかは置いておいて、ダンスミュージックの世界的な流れは無視できないなというのは最近感じています。そういう動きはちゃんと理解したうえでどうやるか、もしくはどうやらないかというのは考えないといけないなと。

--なるほど。じゃあまたMVで踊ったりとか……


 いや、そういうダンスじゃないと思いますけどね(笑)。アメリカであれだけヒップホップが流行っている中で、自分は歌とメロディにこだわった音楽をやっている。そんな状況において、「メロディアスな音楽」というものをどう定義するかはしっかり考えないといけないなと思っています。いきなり僕がヒップホップをやるのも違うと思いますけど(笑)、今の時代にマッチするメロディのあり方やそれを生かすサウンドのあり方がどういうものなのかはいろいろと模索しているところです。それこそ今回の「花」とかも、打ち込みの音色にはダンスミュージックっぽいものをあえて使っていたりもします。

--「メロディアスなもの」がどれだけ求められるか、という物差しで考えると日本と海外ではまだだいぶ違いがありますよね。それこそ秦さんが音楽を好きになったころの日本はJポップ全盛の時代でとにかくメロディが強かったと思いますし。

 そうですね。自分自身邦楽を聴いて育ってきて、歌やメロディに惹かれてここまで来ているので、じゃあ時代のモードに合わせてメロディの立っていないものを作るかというとそれもピンとこないんですよね。今の時代にもフィットする自分なりのメロディやサウンドがきっとあると思うので、それがどんなものなのかこの先も考えていきたいと思っています。

「花」は今後に向けたゼロ地点にいる

--「花」「Mr. HOBBYLESS」ともに秦さんとしては久々の新曲のリリースですが、「新しい秦基博を聴かせるぞ!」というような意気込みはありますか?

 今回に関してはそういう気持ちは全然ないです。「今はこんな感じです」という現状報告、と言ったほうが近いかもしれないですね。そういうモードになるのはもうちょっと先、たとえばアルバムとしてまとまってきてからとかだと思います。

--次のアルバムに向けて、秦さんなりに何かしら見えてきているものはあるんでしょうか。

 今は自分の中にあるものを少しずつ吐き出す作業の最中なので、まだ一言でまとめるのは難しいんですが……でも、「花」は今後に向けたゼロ地点にいると思います。ここを出発点にして、その発展形だったり、これを踏まえて違うものができたり、という形で進んでいくことになるような気がしています。もちろん急に気が変わるかもしれませんが(笑)、「花」の仕上がりには今自分がやりたい音の感じが反映されているのは間違いないですし、ここから次の作品にどうつながるかにも思いを馳せながら聴いてもらえると嬉しいですね。

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今の時代の「メロディアスな音楽」とは何なのか。Jポップの世界ではまだそこまで掘り下げられていない、でもメロディが重視される日本のメインストリームを主戦場とする人たちこそ徹底的に考えないといけない問いにどう答えを出すのか、楽しみに待ちたいと思います。

なお、現在ストリーミングサービスにて、プレイリスト「秦 基博が選ぶ「アコギな曲」 -Songs With Acoustic Guitars selected by Motohiro Hata-」が公開されています。個人的にはLucy Dacusが入っててナイス!と思いました。こちらも合わせてぜひ。

それでは、今回はこの辺で。

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