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星野源詰め合わせ(17/8/22更新)

みんなして星野源の話をしているので、過去にMUSICAに寄稿した星野源関連のレビューを急遽まとめてみました(一部書下ろしあり)。この人のを書くときは、自分の中の愛憎入り混じったものをどう表現するか・・・と考えていろいろやってます。ちなみに『SUN』のレビューの元ネタは、昔の広告批評に載っていたタグボート岡さんがタグボート麻生さんにあてた文章。


2014年9月号 『STRANGER IN BUDOKAN』

サマーナイトタウン

星野源。自分と同じ81年生まれ。僕はこの人のことがほんとに大嫌いで、本作にもイライラさせられっぱなしだった。①ませたサブカル女子が喜びそうなさらっとした下ネタ ②下ネタを挟みながらオチまで持っていくあざとさ100%のMC ③別に抜群の歌唱力でもないのにやたらと耳に馴染む歌声 ④オーケストラを大仰なものでなく曲のキャッチーさを演出するさりげないツールとして使っちゃうポップセンス ⑤恐れ多くもナンバガ"透明少女"を弾き語りで解体し、はっぴいえんどともリンクするこの曲の叙情性を暴いちゃう遊び心 ⑥恐れ多くも布施明"君は薔薇より美しい"をカバーして、自分を「日本の歌謡曲の系譜」にちゃっかり位置づけちゃう知性 ⑦「ニセ明」というどう考えても寒いキャラクターを演劇人らしいコミカルな動きで面白くしちゃう身体能力 ⑧図々しくも一夜限りのライブに名うてのミュージャンや実力派お笑い芸人を集めちゃう人望 などなど。まだまだあるけど書いてて腹が立ってくるからこのくらいにしておく。同年代の才能あふれる最高の表現に触れているとほんとにむかついてきますよね。最初から最後まで「すげえ…」とか「いい曲…」とか言いながらDVD見てました。え、大嫌いって言ってたじゃないかって?いや、大嫌いだけど大好きなんですよ星野源。復活、本当におめでとうございます。  レジー



2015年6月号 『SUN』

ドアをノックするのは星野源だ

私は星野源に嫉妬している。“SUN”のイントロ、ギターのリズミカルなカッティングが始まった瞬間に漂う「これ名曲じゃね?」感。跳ねるような鍵盤主体で進む1番のAメロの上品さ。思わず腰が動いてしまうグルーヴィーなサビ。1番では華やかさを表現すべく使われているストリングスが一転して朝日のように柔らく響く、優しくも力強い2番のAメロ。マイケル・ジャクソンへの個人的な思いを「生」の儚さと素晴らしさにまで昇華した普遍性のある歌詞。<僕たちはいつか終わるから 踊る いま>という、生死の境をさまよった彼だからこそ説得力を持ち得る大サビのパンチライン。そんなシリアスなメッセージを経て挿入される転調の神々しさ。「“GET LUCKY”以降」とも言うべきディスコリバイバルの空気をジャストに捉える時代感。小沢健二が海外のアーカイブや筒美京平を媒介にして取り組んだ「日本の大衆音楽をダンスミュージックとして再定義する」という企てに改めて立ち向かうチャレンジ精神。・・・ところで、星野源は、私にジェラシーを感じているのだろうか。

感じているわけないですよね。“Crazy Crazy”のファンキーさも“桜の森”の流麗さも併せ持った、星野源流ジャパニーズソウルミュージック。マジで恐れ入りました・・・まだ5月だけど今年の心のベストテン第一位確定。  レジー



2015年12月号 『YELLOW DANCER』

時代のBGM候補

まさかこの人のことをバラエティ番組でこんなにたくさん見るようになるとは思わなかった(そしてどこでもテレビタレントとして面白く振る舞っているのがまた鼻につく)。この辺の活動からはリスペクトするクレイジーキャッツのように「芸能」の世界でも爪痕を残そうという気概をびしびし感じるけど、それと並行してこんな凄まじいアルバムを作っていたとはにわかに信じがたい。黒人風ではなくて日本人のダンスミュージックを作るという想いのこもったタイトルの下に展開されるのは、2015年のこの瞬間に日本で生活している人の生理にぴったり寄り添った世界。ソウルミュージックをキラキラしたJ-POPへと巧みに着地させた“Week End”“SUN”、「花鳥風月」とも呼ぶべき景色が描かれる“ミスユー”、ホーンが優しく響く中で軽快に町を進む“Down Town”、陽が暮れた後に愛を語る“夜”・・・どの曲も過剰に前向きすぎず、かと言って後ろ向きでもないので、自然な感じで体の中に入ってくる。こういう音楽こそ、「町に暮らす人々の音楽=シティポップ」と呼ぶべきなんじゃないでしょうか。  レジー



2016年7月号『Live Tour “YELLOW VOYAGE"』

君こそスターだ

「良いJ-POP」の基準を更新し、昨今のシーンの流れを決定付けた傑作『YELLOW DANCER』。その世界を表現するライブなので音楽的に素晴らしいのは当然として、内村光良を始めとする一流芸能人からPerfumeのブレーンとしてお馴染みのMIKIKO率いるイレブンプレイまでが登場するステージ構成はまさに日本のショービジネスの集大成。あまりの完成度に思わずむかついてしまう…じゃなかった、感服するしかない。特に“SUN”“Week End”“時よ”が立て続けに投下される本編ラストの華やかさとアンコール“Friend Ship”で繰り出されるギターソロの無骨なかっこよさには痺れました。  レジー



2016年10月号 『恋』

星野源 a.k.a. 星野弦

へー、「逃げるは恥だが役に立つ」のドラマ化ね。主演はガッキーか、うわ、この写真めちゃくちゃ可愛いな…お、相手役が発表されたみたいだ。ん…?星野源!? というわけで憤怒のあまり思わずスマホを地面に叩きつけてしまったが、もはや周囲の想像が及ばないスピードでスター街道を突き進むこの方。音楽家としての評価を担保しつつヒット曲を出す、そして俳優としても評価される。ここまでのことをやってのける存在、ほんとに今までいなかったのでは…

超絶名盤『YELLOW DANCER』を経てリリースされる“恋”は、あのアルバムで体現した「ブラックとイエローのハイブリッド」路線をさらに深化させたダンサブルな楽曲。“SUN”“Week End”も十分ポップだったけど、この曲にはそれらをさらに上回る突き抜け感がある。いきなり名曲の予感を漂わせるイントロから全編を通してサウンドの核となっているのは、もはや星野源印と言っても良さそうな華やかかつ親近感のあるストリングス。さらに今作では中国の弦楽器である二胡が重要な役割を果たしており、西洋と東洋のいいとこ取りをしながら新しいダンスミュージックを生み出そうという気概が感じられる。そんな形で自身の作家性を突き詰めながら、歌詞に<夫婦を超えていけ>なんてタイアップ的にばっちりなフレーズをさらっと織り込む職人技も披露。隙なし。  レジー


2017年6月号 『Music Video Tour 2010-2017』

時代と寝た男の感想戦

震災後の内省的な気分が反映された“日常”、当時のインディーシーンの動きともリンクするオーガニックな感触の“化物”、ポップミュージック復権のきっかけとなった“SUN”、新しい時代のテーマソング“恋”・・・ベストアルバム的選曲の今作を見ると、この人のキャリアがそのまま2010年代のJポップ史になっていることがよくわかる。いつの間にそんな存在に!?と一瞬腹立たしさも覚えるが、次々に繰り出される名曲群を前にすると「参りました!!」以外に感想がない。「R&Bとかネオソウルと言われるものを日本人としてやりたい」という『Yellow Dancer』につながる問題意識が自分の言葉で語られる“Snow Men”前のトークは特に必見。  レジー


(書き下ろし) 『Family Song』

ソーシャルソウルミュージック

あれ、歌がかなり上手くなったのでは…?ロングトーンの分厚さからファルセットの艶っぽさまで、あらゆる局面でレベルが上がっている。大サビのゴスペル調の展開も、これなら上滑りせずしっくりくる。ソウルシンガーとしてのフィジカルな魅力まで獲得しようとしてるのか?強欲すぎでは!?

などと文句の一つも言いたくなるくらい、まずはそのボーカルに耳がいく”Family Song”。今回のアプローチは、スティービー・ワンダーかカーティス・メイフィールドかという感じのソウルマナーのバラード。”時よ”にせよ”恋”にせよ、性急なビートで世の中を踊らせてきたこの人が、今度は自分が巻き起こしてきた狂騒を一旦振り返るような趣の穏やかな楽曲をシングルに持ってきた。<血の色 形も違うけれど いつまでも側にいることが できたらいいだろうな>というフレーズで家族の本質を射抜いた歌詞も、共同体の形が多様化する昨今の空気を的確に描写している(滔々と語られるポリコレ的言説よりよほど射程が広い)。マジで時代を象徴する存在になりつつあるし、このままいけるところまでいってほしい。  レジー

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