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#10 厚労省の介護バイブル本『介護保険論/池田省三(著)』をじっくり読んだので自分なりにまとめてみた。

 故・池田省三氏の『介護保険論』(2011)。池田氏は長きに渡って介護保険制度をウォッチしてきた学者で、2013年にこの世を去るまで制度改正において多大な影響力を発揮してきた人物。そして今でもこの本は厚労省のバイブルとなっているようで、購入時に流し読み程度で終えていたこの大作を、時間があるGWに改めてじっくり読み返したので、自分へのメモ的な意味合いも含めてまとめておく。

池田氏の結論

 この本で池田氏は、介護保険制度は今のままでは持続は無理!と結論付けている。そして、介護保険を持続可能にするためには、介護保険創設時の思想に今一度立ち返った上で色々と見直して運用していかねばならん、というような主張をベースにして枝葉として様々な論点が述べられている、そんな感じだ。

 最初に言っておくと、この本に出てくる介護保険制度の思想やそれを実現するためのシステムについての話はめちゃくちゃ勉強になる。介護事業者の幹部は全員読むべきだね。これはもう池田氏の考え方に共感するとかしないとかに関係なく、今後の介護経営の舵取りを考えていく前提条件として理解しておかねばならい情報が満載なのである。

 介護保険の思想としては、尊厳を守ることを普遍的な価値観とし、そのためにかつての措置制度から転換したシステムとして介護保険制度が作られた。いわゆる、公助から共助へという考え方。租税を原資とする公助としての措置制度はいわばセーフティネットだったので、その人がどんな介護サービスがどのくらい必要か?などは全て行政が決定する行政処分であり、こちらに選択権など無かった。そんな風に最初から受け身でスタートする介護に尊厳なんてあるわけなく、そしてそれは良くないということで、将来に渡り要介護リスクのある全ての人(40歳以上)が保険料という形で負担し合い(=共助)、いざ必要になれば誰でも利用できる形に変えたわけだ。そして多彩な選択肢を用意し「介護サービスを自分で決める」環境を作っていくために介護サービスを市場に解放した。民間にも参入させて競争させることで質も高めていく。ここまでは良い話。実際に今はそうなっている。

池田氏の問題意識

 一方で池田氏は、「介護保険システムが、その前提として、可能な限り自立した生活を送るための本人の努力である自助と、それをゆとりをもって家族や地域住民が支える互助の上で成り立つってこと、忘れてない?」という問題意識を持っている。介護保険の当事者であるはずの保険者や被保険者、そして事業者までもが揃いも揃って必ずしも理解できているとは言えず、そんなことでは持続は難しいよね、と主張している。

 では池田氏は何を理解せよと言っているか。それは「自助ー互助ー共助ー公助」の役割分担という観点である。つまり、自助努力に委ねられるべきもの、互助に期待されるもの、公助により提供されるべきもの、そして共助=介護保険が担うべきものとがありますよということ。

自助・・・自立した生活を送る本人努力。自己負担や有料サービスの購入など 
互助・・・家族や近隣の助け合い。期待されるもので強制されるものであってはならない
共助・・・システム化された支援。介護保険給付
公助・・・国、自治体からの社会扶助、補完的福祉

 例えば、基本的に「ないとダメな介護サービス」は介護保険給付で、一方で高品質なサービスなど「あったほうがいいサービス」は自助の領域として自分の財布で調達するべきである。また負担困難なケースなどは公助でカバーしましょう、と。これらをどれもこれも介護保険に求めていたら財政的にとても持ちませんよ、と。

    だから介護保険を維持していくためには「自助ー互助ー共助ー公助」の観点で仕分けしながら制度改正や報酬を見直していくべきとしている。実際近年の制度改正を見てもこの視点で改正されていて、直近のH31.4.23に財務省から発出された社会保障についての資料の介護の部分(P73〜)を見ても「大きなリスクは共助で小さなリスクは自助で!」という文言に溢れているし、ほぼ当時の池田氏の主張そのものと言っていいかと思う。

池田氏の具体的な過去の指摘

 池田氏はこれまで「訪問介護の生活支援は家事代行サービスだから給付から切り離すべき。」「要支援と要介護1・2は軽度なので、自助や互助で対応してくべき。」「通所介護のレクに専門性を見出せない。」「内部留保溜めすぎ。」「他産業の中小企業と比べて儲けすぎ。」などがある他、ケアマネの質についても厳しい意見を持っていたり、保険者に対しても、自治体によって要介護利用者一人当たりの給付費に大きな差が生じていることについて、保険者の努力不足があると指摘した。そんな感じの人だったので、ケアマネ中心に専門職からの批判やアンチも割と多かったようだ。

 僕自身は、彼の基本的な考え方や問題意識は理解できるんだけど、各論については賛成できないこともあって、例えば実際の介護1や2の方が、彼の言う自助でどのくらい対応可能なのかな?と。彼の中で要介護1とか2って、もしかしたらギリギリまだカーブスに通ってるおばあちゃんみたいなイメージなのかな?だったら確かに自助でいけるわな、とは思うけど。どうしても彼が持つイメージと実態との間に大きな乖離があるように思えて仕方がない。

池田氏の主張通りに進む制度改正

 まぁしかし、この本に登場する、到底ここには挙げきれない程数多くの池田氏の主張はどれもこれも、既にその通りに改正されていたり、まさに今も議論されていることばかりで驚くのである。そんな池田氏に言わせると、介護事業者は今後従業員100名程度の企業規模に収斂していかないと存続は厳しいと言っているからまた恐ろしいことよな。
 ちなみにこの本の出版は2011年で池田氏も2013年に亡くなっているのだが。。やっぱり今でもこの本が厚労省のバイブルになっていることは間違いなさそうだ。そのことについての是非はあるし僕自身賛成出来ないことも多いけど、経営者としては、時代と制度に事業を最適化させていく努力を続けるだけだ。

読み終えて

 最後に、この本に度々「矜持ある晩年」というワードが登場する。これは彼自身の言葉で彼の性格を良く表していると思う。本から理解した介護保険の思想はまさに彼自身の人生哲学と重なり合っており、だからこそ、亡くなるギリギリまで介護保険は彼を惹きつけ、夢中にさせたのだろうと思った。

PS;この本を読んで始めて、弊社拠点の沖縄県が全国的にもトップクラスに歪んだ介護サービス提供実態が昔も今もあることが判明し戦慄が走ったことは、また別の機会に述べたい...。

#介護保険論 #池田省三 #介護経営 #通所介護  

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