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ブラレイコの本棚_『子どもが面白がる学校を創る』 教育変革を加速させた「情熱の灯火」

1ヶ月に2回ほど、ライブラリーを併設したコワーキングスペースに篭って「気にになる本に、ひたすら目を通していく日」を設けている。

今回は、今月手にとった本でひときわ印象に残っている一冊をご紹介。

子どもが面白がる学校を創る 平川理恵・広島県教育長の公立校改革_上阪 徹 (著)

著者の方も、平川理恵さんのことも存じ上げず、
タイトルに興味をもって、たまたま手に取った一冊。

まずはじめに惹かれたのは、表紙をめくったところに書かれたこの文章。

結局、誰のために、何をやっているのか、なんですよ。教育委員会の仕事のすべては、子どもたちのため、ですよね。だから、それを問わないといけないと思ったんです。それは本当に子どもたちのための仕事ですか、と。

グサッ。
刺さった。

仕事ってこれだよな。誰のために、何をやっているのか。
これに尽きるよな。

しかし、この方の言葉は「熱」を感じる。
それは、情熱、使命感、愛…そういう類の何か。

この言葉の主は、広島県教育委員会教育長の平川理恵さんという方だった。

実は 平川さんは、NPO法人との契約が法令違反などの指摘を受けて、3月末で教育委員長を辞任することが決まっている。(もちろん、このニュースを知らずに本を手に取った)

今回は、ニュースについての追求ではなく、
あくまで、下記の本を読んだ一読者の感想として、このnoteを書いていく。

広島で起きている「教育変革」が、ハンパない

この書籍は、平川さんが広島県教育委員会教育長に就任してから行った、改革の数々(1つではなく矢継ぎ早に!)を紹介している。

外からやって来たリーダー平川さんが、組織の凝り固まった価値観を揺さぶり、カルチャーを変え、周囲の意識を変え、共に行動し、子供たちのための変革を推進していく。

実際に行われた変革の一部を紹介しよう。

公立小学校で「異学年探究学習」を導入
オランダで広く普及している、子ども一人ひとりの個性を尊重しながら自立と共生を学んでいく教育「イエナプラン」を現地視察(平川さん個人で視察、その後現場の先生を引率して再度視察)し、広島の現場の子どもたちに合わせたスタイルで導入。

参考:https://cocreco.kodansha.co.jp/cocreco/general/study/o8ynp

広島叡智学園中・高等学校が、「国際バカロレア認定」を獲得
国際バカロレア認定とは、国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラムのこと。世界で通用する論理的思考力やコミュニケーション能力が身に付けられるとして世界で注目されている教育。
認定に向けたは複雑な準備・申請が求められるが、平川さんのリーダーシップによって認定に向けた動きが一気に加速。

参考:https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/kyouiku/houmon030611.html
参考:https://higa-s.jp/about/ib-world-school/

専門高等学校アップデート、「ビジネス探究プログラム」の拡大
商業・工業・農業などの専門学科の高校生こそが将来の広島県の産業を担ってくれる人材であるという思想のもと、4つの専門高等学校にて毎週1回4時間連続のプロジェクト型学習「ビジネス探究プログラム」をスタート。ビジネスはダイナミックで面白いものだということを生徒に伝える。さらに、その取り組みで得た成果を、他校にも波及。

参考:https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/467370.html

どの事例も、「あったらいいな。でも、教育を変えるなんて…、きっと何年もかかるんでしょう?」と諦めてしまいそうなものばかり。

しかし、そんな「夢のような教育」を「現実の教育」へと推し進めていくのだ

これは、ベンチャーやスタートアップの話ではなく。
堅くて・古くて・遅いイメージの象徴(…すみません、わたしの偏見です)とも言える、県の教育委員会で起きたこと。しかも、民間出身の女性リーダーによって行われている。

著者である上阪さんは、変革者である平川理恵さんのことはもちろん、平川さんの周囲の方々のことも丁寧に取材されているので、平川さんを中心としてどのような人たちが関わり、大きなチャレンジを成し遂げていったのか、という全貌が伝わる。

彼女と彼女の周りの方々の奮闘を読んでいると、
夢に描いたことを、諦めなくてもいいのかも…

そんな勇気が湧いてくる。


変革に「魔法」はないし、変革は「一人」で行うものでもない

これらの変革は「スーパーウーマンな平川さんだから出来たんでしょう」と思われるかもしれない。

平川さんのキャリアのスタートはリクルート。営業ではトップセールスの実績。
その後、全国で女性初となる公立中学校(横浜市立中川西中学校)の校長先生に就任。文部科学省の中央教育審議会の委員を歴任し、新学習指導要領の改訂作業などに携わる。そして、広島県知事からの打診を受け、広島県教育委員会教育長に就任。

経歴を調べれば調べるほど、超スーパーウーマンだった。
これまでの実績を並べられたら、誰もが黙る素晴らしいキャリア。

しかし、本を読んだ印象は、一つひとつやるべきことをやっている愚直さもあるし、クールなエリートというよりも、情熱的で愛のある方のように感じた。

例えば、

・現場視察は欠かさない。フィードバックをして再視察も行う。
・誰に対してもオープンで、フランクに話しかけ、意見を求める。
・様々な取り組みを通して見えた状況や、自分の想いをメンバーに伝えるために、手書きで新聞を書きトイレに掲示する。
・強い信念を持ち、古い体制に屈しない。特に、教職員のわいせつ・セクハラに関する処分についてはより厳しい姿勢を貫く。
・必要だと判断したら、知事や文部科学省や知人など、これまでの人脈をフル活用してコトを成し遂げる。

彼女と同じ時間を過ごす中で、彼女のビジョンに共感する仲間がどんどん増えていく。教育現場での変革が進んだのは、平川さん一人の力ではない。平川さんとの出会いをキッカケに、現場の先生方が情熱を持って取り組んだ結果だ。

まさに彼女は、トーチを配るリーダーだった。

さらに、平川さんの周りには「強力な支援者」がいる。
時になだめて、時にサポートし、時にフォローする。知事や前教育長といった、組織のトップかつ信頼のあつい方々が、「トーチ」の火が組織に伝播することを後押ししている。


本からも受け取れる、情熱の灯火

この本は、学校や教育に関わる人に読んでほしいのはもちろんだが、
その分野だけにとどめておくのは勿体無いようにも思う。

変革の渦中にいる人たち
挑戦の真っ最中な人たち
自分の情熱を周囲に伝播させたい人たち

そんな、いま踏ん張ってる人たち、頑張っている人たちにこそ届けたい。

本を通して、平川さんに触れることで、
わたしたちのトーチにも「情熱の火」が灯るはずだ

そして、自分の心についた「火」を灯し続けるためにも
誰のために、何をやっているのか」
常に問い続けながら、より良い未来につなげるために信念を貫いていきたい。

冒頭でもお伝えしたとおり、平川さんは、法令違反の指摘を受けて、責任をとる形で今月末に教育長を辞任する。
ニュースの真相は調べていないのでよく分からないけれど、平川さんが参画したことで広島県の教育変革がものすごい勢いで行われたことは確かだ。

それと同時に思うのは、本には描かれていない変革の裏側もあっただろうし、変革に伴うさまざまな混乱も起きているだろう。加えて、リーダーがこのような形で変わるのだから、きっと組織は大きく揺さぶられているはずだ。

そのような中で、平川さんによって灯された「教育変革の火」を、広島県の教育委員会は今後どのように育んでいくのだろうか。

どうか、教育変革の灯火が消えませんように。
正しいやり方で、子どもたちのための変革が続いていきますように。

= お わ り =

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