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感受性の鋭い子

最近、幼少期から青年期の埋没していた記憶がポツポツと甦り驚かされたり妙に辻褄が合ったりすることが相次いでいる。

親とは残酷なもので子供に悪意無くプレッシャーを与えることがある。兄弟の多い家系であった父方の親族は所謂「ハイソ」な方々でちょっと気取っているというか自分の教養の豊かさを鼻に掛ける所が子供心にも憧れる反面苦手であり、母の口から聞く彼らの物言いや僕への評価が更に歪曲された内容のものが多くどんどん彼らとの付き合いに距離を置きたくなるのは必然であった。

中でも一人の叔母の「あなたは変わってるから」という呪文のような言葉には辟易していた。変わっていて何が悪い?と開き直りつつも他人と違う事が罪である意識の方がウェイトを占め始め周りの顔色を窺って極端にはみ出ない言動をするようになっていった。その結果、ノビノビと才能を開花させる方向には僕の感受性は向かず自分の存在意義を保つためのバランサーとしての機能のみに向いた。

大学時代の寮生活とダンスサークル入部がキッカケとなり構築されてきた奇妙な思考体系は一旦崩されることになるが、社会とは更に残酷なもので「では本当のあなたをパッと開花させてあげましょう」とはならない。そもそも「本当のあなた」であるべき地中深く埋まった宝石が存在しない事に気付かされ大いに焦った。周りを窺いながら生きてきた結果、自分には何も無い事が分かって愕然とした。

長い長い暗黒時代を経てこの数年ようやく第二の思春期を謳歌しているような感覚がある。他人がどうこう言おうと僕が本当にやりたいことはこれだ!と自信を持って言える事もできた。そんな折、父方の従姉妹の一人と電話で話す機会があった。彼女もまた「変わり者」のレッテルを貼られて苦しんできた同志である。そんな苦労を微塵も感じさせない落ち着いた柔らかい声音に触れた瞬間に何やら憑き物が取れたような感覚があって今まで感じたことのないフラットな感情で彼女と話している自分がいることに気付いた。

「感受性の鋭い子」の呪縛が消え去った瞬間だった。

ご縁とは面白いものであの頃何度も読みかけて挫折した「星の王子様」の朗読劇に関わる事になった。必要に迫られて原作を購入し一日で一気に完読した。相変わらず気持ちの良い作品ではないが、何故あの頃それほどまでに拒絶していたのか分からないほどサラサラと世界観が身体に染み入ってきた。

相当な回り道をしてようやく今、素直な感受性というものに触れている気がする。

幸い、この「星の王子様」の演出を手掛けていらっしゃるのは大河ドラマやラジオ小説などを生み出してきた演出家の方なので個性的なキャスト陣の采配はそれはそれは見事なもの。僕は、と言えば一旦は封印したバランサーの役割を「平凡な異端」宜しく担うのみ。純粋で美しい世界にたまに小石を投げ込んで広がる波紋をしげしげと覗き込もうかと思う。

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