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主催者になるということ(まちの不思議 おもしろ探究日記 #9)

(本記事は雑誌『社会教育』に掲載された記事を転載しています)

「講座を主催する」という形の学び方がある、という事は、おそらく多くの人が知らないことである。そして、それをサポートしてくれるのが公民館であるということは、さらに多くの人が知らないことであるように思う。

数年前、私は国分寺市小・中学校PTA連合会(P連)で、「きょうどう学習委員会」の委員長を引き受けていた。この委員会では、子どもや学校やPTAの事について、保護者が自分たちでテーマを決めて主体的に学び、その内容を全会員に還元していくという活動を行っている。初めて担当するメンバーでも意義のある学びとしていけるようにと、委員会で引き継がれている活動の方法は主に二通りで、一つは自分たちで学習した内容をニュースにまとめて、全会員に配布をするという方法。もう一つは、講座や研修会を開催して、会員に学習の機会を提供するという方法である。

市内全域の各校PTAから集められた委員会のメンバーは、自ら手を挙げて参加していたり、くじで選ばれて参加していたり、やる気の度合いも経験も様々であった。活動に慣れているメンバーがいる場合は、講座や研修会が行われることもあるが、そういったメンバーがいない場合はニュースを作成して配布するというのが、ここ数年の多くのパターンとなっていた。

話し合いの結果、その年のテーマは、「新学習指導要領」「不登校・ひきこもり」「自己肯定感」の3つに決まり、メンバーはそれぞれチームに分かれて、学習を進めることになった。「新学習指導要領」チームは新学習指導要領や文科省の資料を読み込み、その内容をニュースにまとめるといった方針に、「不登校・ひきこもり」チームは内部で学習会を行い、その内容をニュースとして配布する方針に決まった。その一方、「自己肯定感」をテーマにしたチームは、活動に積極的ではないメンバーが集まっていたのもあり、活動の方針がなかなか決まらなかった。

PTAと公民館の連携

その様子を見て、委員会のOGの方が「公民館のサポートを受けながら、公民館と共催で教育講座を開いてみるというのはどうでしょうか」と提案をしてくれた。その方はP連から派遣されて、市の公民館運営審議会(公運審)に参加されていた方で、その年に出された公運審の答申に、「PTAと公民館の連携」を提案としてまとめており、それを受けての話であった。
チームのメンバーは「公民館」「教育講座を開く」という馴染みのない響きに戸惑いながらも、公民館職員のサポートがあるということで、教育講座を開催するという方法で活動を進めていくことになった。

まずは「自己肯定感を育む」をテーマに、どんな講師の方にお話しいただけるといいのか、調べてリストにする作業から始めることになった。もともと関心があるということに加え、やることが明確になったのもあり、消極的だと思われたメンバーからも次々に講師候補が挙がり、実際に本を読んでみたという方もいた。
公民館とPTAの役割分担は、公民館が講師との交渉・講師費の支払い・会場の手配・チラシの作成・申込受付を担い、PTAがテーマの選定・講師の選定・チラシの配布・当日の運営を主に担当することになった。もともと公民館にあった「準備会形式」をベースとして、できるだけメンバーが主体的に活動していけるようサポートしながら進めていただき、当日はPTAメンバーによる運営で、無事に講座を開催することができた。PTAからもPTA以外からも参加があり、大盛況の開催となった。

講座を主催者するという学び

後日、チームのメンバーとふりかえりをしたところ、「講座で何をどう伝えるのかと考えたことで、テーマについてより深く学べた」「どの講師に来てもらうか考える過程が一番学びになった」「何かを学ぶ時にこういう学び方があるという事を知った」といった声が挙がった。ただ講座を受講するだけではなく、主催者になるということで、メンバーはより深く広い学びが得られたということであった。
また、「まさか自分の関心から教育講座を開催できるとは思わなかった」「参加した方からの感想を読んで嬉しくなった」「今までやったPTAの委員の中で一番楽しかった」など、やりがいを感じたという声も多く挙がり、さらには、「公民館の職員がこういうことをしてくれるという事は知らなかった」「場所を借りるのが公民館だと思っていた」「公民館の講座やイベントに興味を持つようになった」など、普段公民館を利用しない保護者が公民館についての理解を深める機会ともなった。

このようにPTAと公民館の双方にメリットがあるこの取り組みだが、課題も残っている。
まずは、双方の負担である。関わる人が増えることで日程調整や打合せ等の手間はどうしても増えてしまう。次に、PTAの活動としての主体性をどこまで保てるのかという課題もある。「公民館がやってくれる」とお任せになってしまうと、せっかくの連携の意義もなくなってしまう。最後に、継続性の課題がある。現在、多くのPTAで効率化を重視した改革が進んでおり、その中では「学びの場」は優先順位が低く、この委員会自体もどこまで継続していくことができるのかわからない、というのが実情である。
ただ、その一方で、きょうどう学習委員会は繰り返し担当するメンバーもいて、比較的人気のある委員会でもある。また、連携の四年目となった今年は、2つのチームが公民館との共催という方法を希望し、来年以降もぜひ連携を続けて欲しいという声もすでに挙がっている。

「誰でも講座の主催者になれる」というのは、公民館が持つ、まちの大きな可能性であるように思う。特別な能力や経験がなくても、市民が関心あるテーマについて学び調べ、それをまちの中で共有していくことができるという事は、とても素晴らしいまちの学びの循環である。この循環を目指して、ぜひ公民館には、まだ見ぬ新しい方々と一緒に講座を開催していくということに、挑戦し続けてもらいたいなと思う。


▼ 雑誌『社会教育』

https://social-edu.com/

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