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レコードとダブルラジカセと私(昭和49年女子とオーディオ)・後編

ディスクマンとパソコンの頃

ブラック企業に就職し、すぐ退職して、絶望と失意にまみれて故郷に帰ってきた時も、地元で細々と働き始めた時も、常に推しの音楽が手元にあった。

リモコン無しのウォークマンは10年くらい使用した頃に突然うんともすんとも言わなくなり、リモコン付きウォークマンに買い替えた。
兄から譲り受けたSONYのディスクマンでCDを聴いたりもしていた。

そんなある日、中学時代の塾の友達で、当時からレピッシュ、大江千里などのカセットを貸してくれていたK子さんが遊びにやって来た。
Macを買ったという彼女、興奮気味にこう言うのである。
「Macすごいねんで、音楽聴けるねん。reinoさんもぜひうちに遊びに来て! 一緒に藤重政孝(当時の彼女の推し)聞こう💙」
パソコンで音楽が聴ける? 
何それ、どういうこと???

K子さんの家にお邪魔する機会はなかったが、その謎は結構すぐに解ける時が来た。
母がパソコンを買ったのである。
デスクトップ型のごついパソコンには、なんとCDを挿入できて、確かに音楽を聴ける。さらにすごいことに、その音源をパソコン本体に取り込めるではないか!
面白い! 仕組みはわかんないけど!
デジタルの洗礼を受けた私はさっそく手持ちのCDをせっせと取り込んだ。
そうして気ままに思うままに音楽ばっかり聴く日々を続けてるうちに、こんな私にも名字が変わる時が訪れた。

DAP、録音できるラジオの頃

結婚してすぐにデスクトップパソコンを買い、インターネットを始め、家に居ながらにしていろんなCDを買える便利さに負け、実店舗には足を運ばなくなってしまった(歩いて行ける距離にタワーレコードがあるのに……)。

ビクターのDAP(デジタル・オーディオ・プレイヤー)「ALNEO」を買ったのは2006年のこと。パソコンから音源を取り込める、しかもこんな小さなボディに何百曲も! と感動したのを覚えている。
当時はipodを始めとしてDAP群雄割拠の時代で、各メーカーからいろんな機種が出ていたが、その中でも音が良く、FMラジオも聴けて、乾電池で聴けるという便利さでALNEOを選んだ。乾電池を入れる部分のふたが壊れてしまった今もテープで貼って使い続けている。
さらに、本体に録音できるSONYのラジオを買い(本体に録音できることにもまたしても感動した)、音は今ひとつであるもののあまり気にせず便利に使っている。

そうこうしているうちに、スマートフォンで音楽を聴く人が圧倒的多数になり、配信が全盛期に入ったけれど、私はといえば出産、子育て、再就職と目先のことをこなすのに精いっぱいで(単なる言い訳)、CDも一年に一枚買うか買わないかになっていた(毎年5万円分もCDを買っていた頃もあるのに……)。
推しの新譜を買っても聴かずに「積ん読」ならぬ「積ん聴」することも増えた。
配信に手を出すこともなく、Bluetoothとかにも全然ついて行けなかった。

気づけば新規の推しができなくなって20年ほどの月日が流れていた。

便利になればなるほど、逆に音楽への渇望は薄らいでいくものなのか? なんて勝手なことを思っちゃったりしていた。

ついに配信に手を伸ばす!

そんな私に20年ぶりくらいに新規の推しができた。
藤井風。
彼の歌を聴きたい。CDは当然として、youtubeも当たり前として、もっと身近に彼の歌を置いておきたい。
究極、彼の歌を聴きながら寝落ちして、目覚めてもまだ彼の歌が流れているような、そんな夢みたいな環境に身を置きたいんだーーー!!!
思い余って、ずっと横目でチラチラ見ながら踏み出せずにいた、「配信を買う」という行為に及んだ顛末はこちら↓

Spotifyなどで簡単に、若い頃はお金がなくて買えなかったあんなアーティストのあんなアルバム、そんなアルバム、を無料で聴けるようになった昨今。
いいのかなあ……?と古い人間としては申し訳なく思っちゃうんだけど、やっぱり音楽好きとしては嬉しくないわけがない。

だけどふと思い出す。
両親に静かにしてもらって、「ザ・ベストテン」をカセットに録音しようとしてた頃。
レンタルで借りた渡辺美里「Lovin' You」の最後のタイトルチューンが、レコードに傷がついてるせいで ♪目覚めた朝に、朝に、朝に……♪ ってなっちゃってちっとも先に進まなかったこと。
「おしゃれなテレコ」で中島みゆきさんのラジオ番組を聴いてた頃。どっはっはっは……と大笑いするみゆきさんに度肝を抜かれてた。
レコードプレーヤーに針を落とすことと、配信で音楽を買うこと、どっちも知ってる、恵まれた世代の私。思い出も大切にしつつ、新旧問わず、これからも自分の「好き」に貪欲に、音質もできれば追求しつつ、音楽を聴いていきたい。

最後に、かなわない夢をひとつ

藤井風を録音したカセット一つ持って、1980年代にタイムスリップして、当時の人々に聴かせてみたい。
1980年代の浜辺で「きらり」をラジカセでかけてみたい。
1980年代の海沿いを「”青春病”」をかけながらドライブしたい。
1980年代の喫茶店で、マスターにお願いして「Close to you」をかけてもらいたい。カレン・カーペンターとはまた違う歌声にお客さんも「誰?」とざわつくはず。
ていうか私が当時の空気感の中で、当時の音質で、藤井風を聴きたい。意外と違和感なく溶け込むんじゃないかな。どうだろう?

あ、前編はこちらです↓

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